01.さぁ、喜劇を始めよう


ルルーシュが大好きだった私は、コードギアスR2の最終回を見てから涙が止まらなくなった。
画面の前から動くこともできず、しばらく放心していた。
ようやく事実を受け入れてからは、子供のように声を上げて大泣きした。
それから食事が喉を通らないほど落ち込み、寝付けなかった。
泣きすぎて、翌日 目蓋が腫れて喉も嗄れて表情筋が動かないほど酷くて、学校を休んだ。
それほどの衝撃だった。

泣き明かし、布団の中で嗚咽しながら思った。
私は、彼に幸せになってほしかった。
"誰か、誰でもいいからルルーシュを幸せにして" と
祈り続けてその日を迎えた私には、あまりにも残酷な結末だった。

あんな結末、悲しすぎる。
後戻りのできない失敗ばかり起こって、積み重なったのだとしても、
何もかもがどうしようもなくなって、洗い流すにはそれしか方法がなかったのだとしても、
彼自身が納得して、物語として一番綺麗な終わり方だとしても、
誰よりも明日を望んだ彼が、自分の明日を手放さなければならないなんて、そんなの。
ただ平穏を欲していただけなのに、運命がことごとく裏切ったのだ。

私は、フィクションとしての枠を越えて心を奪われ、泣き暮れた。
あの世界がもっと彼にとって優しければよかったのに、と。





――さて、ギアス語りはこれくらいにして、現実を見ようか。
果たしてこれを現実と呼んでいいのかどうかはともかく。

質問。
目覚めたら、知らない天井。
さぁどうする?

……いや、覚えてはいるんだ。
ここは『私』の部屋だし、『昨日』の夜もたしかにここに就寝した。
けれどその覚えているというのは、記憶があるという意味だ。
二重の、記憶が。

日本で高校生だった私・古戸玲奈と、やっぱり日本で学生を……
って、これじゃあよくわからないか。
前者の日本を、ドリーム小説っぽく『現実世界』、
後者の日本をブリアニア式に『エリア11』と表記すればいいのかな。

つまりは《コードギアスに異世界トリップしました》ってことなんだけど、
こう言っちゃうとなんとも胡散臭いよね。
だけど現にその現象が起こっているのさ。

前の世界を『現実世界』と称してみたけど、私にとっては現在だってリアル。
五感が正常に動いているんだから当然だ。

起きてすぐに『自分とは何者であるか』を意識する人なんていないでしょ?
私も、目覚ましを止めて起き上がるところまでは無意識だった。
こっちはこっちで身体が覚えているから、違和感なかったの。
光景を認識して、ようやく思考の矛盾に気づいたのだ。

私には前の世界で日本人でごく普通の高校生をしてて、それなりに人間関係があって、
趣味で夢小説をたまに読んだりギアスていうかルルーシュが大好きだった記憶があったけれど、
こちらの世界でブリアニア人としてそこそこ裕福な家に生まれ、
それなりに楽しく生きてたというほうの記憶も『思い出した』。

しかも、今はアッシュフォード学園に通う学生である。
鏡を見ると、こちらでは見慣れたブリアニア人の顔立ち。
前の世界のそれに近いけど、色彩に見合うように多少変化している。

たしかに、ここでは日本人は――イレブンは、虐げられていた。
私は差別を好まなかったけど、自身はブリアニア人だし、
日本に思い入れもなかったから普通に『エリア11』と呼んでいた。

――それにしても、こうなってしまうと何が夢で何が幻なのだかわからない。
ドリーム小説にありがちな異世界トリップの定番は、
大型トラックに轢かれたり神様が出てきたりだけれど、私に死んだ記憶はない。
前の世界でも、いつもどおり就寝したわけで…
じゃあ「これは夢か」と試しに頬を抓ってみると、普通に痛覚はある。
そもそも自分の頬を抓るなんてマゾヒストなこと、普段やらないんだから比較ができない。
これが夢だったとして、夢でないとして、誰が証明できよう。
夢って目覚めてから気づくものじゃない?

どちらにしたって目覚めるまでは此処にいなくてはいけないんだから、
当たり前に今日を始めればいいんじゃないかな。
記憶に従って、昨日を準えればいい。

なんたって私は、よりにもよってルルーシュのクラスメートなのだから!

幸運にもこちらの世界の私は『私』と感性が近い。
ルルーシュに密かに恋心を寄せていて、
クラスメートとして世間話ができるくらいには交流がある。

ああー、早く会いたい、学校に行きたい。
ミーハーですが何か文句でも?
だってあのルルーシュだよ、ルルーシュ。
ご対面できるんだよ? 会話ができるんだよ? クラスメートだよ!?
まぁだから、せめてそれまでは目覚めないでほしいと思うわけだ。

ちなみに今は原作(アニメ)の第一話前の時間軸だろうと私は踏んでいる。
確実なことは、クロヴィス殿下が生きていて、枢木スザクという転校生がまだ来ていないということだ。
それにしても、病弱なシュタッフェルトさんがあのカレンだなんて、騙されたなぁ……。


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