カレンは生徒会に入ったが、ルルーシュと普通以上の接触はしてないようだ。
逆に私はクラスメートとして、カレンと親しくなるよう意識していた。
女の子同士、接近するのはそれほど難しくない。
日常的な友人付き合いを少し変えただけで、まだ特別な友達ってわけじゃない。
一方ルルーシュはオレンジ……もといジェレミア卿を順調に仲間に引き入れた。
クロヴィス殿下を通じて連絡先を入手すれば、アポイントを取るのは容易い。
私はその様子をそっと見守ることを許され、
後では秘密の共有者として紹介もしてもらった。
ジェレミア卿はルルーシュの顔を見るなり膝を折った。
ルルーシュが彼を覚えていたので、ジェレミア卿は感激していた。
ギアスの存在や反逆の意志を伝えた上でも、ルルーシュを主として従うと誓った。
……そうでなければ忘れさせるだけだったと思うけど、
彼の忠誠心は洗脳や隠し事の必要がないくらい信頼に足る。
その忠義は本来マリアンヌ皇妃へ向けられたものだが、
過去の事件の真相はまだ伝えず、胸に秘めておくことにした。
忠義心を利用している、と言っても過言じゃない。
情報を操作して騙すのとギアスで洗脳するのはどちらのほうが罪が重いんだろう。
それでも今は信頼できる味方が一人でも多く欲しかった。
ルルーシュはせめてそれに応えるように、彼を騎士に任じた。
非公式ではあるが、彼にとってはこの上ない名誉だ。
これでジェレミア卿は絶対に裏切らないだろう。
ルルーシュの配下として付き従ってくれるなら頼もしい。
内通者としてこれほど適した存在は居なかった。
嬉しそうなジェレミア卿にルルーシュは少し心を痛めたようだった。
ルルーシュって味方には非情になりきれないところがあるよね。
知っている真実を隠し、嘘を付き、人の心を踏みにじる罪。
誰にも知られない、自らで抱える罪。
それはスザクの父親殺しに似ているかもしれない。
「私が知ってるよ」という言葉は声に出さなかった。
ジェレミア卿はルルーシュが望めばいくらでも地位や身分を投げやるかもしれないが、
せっかくあるものを捨てることはない。通常は今まで通り軍務に従事して、
個別にルルーシュが命じることがあればそれをこなすという感じになった。
軍務自体もルルーシュが陰で糸を引いているから、間者とは少し違うのかな。
洗脳ではなく自分の意志で仕える人間がいることで生きた情報が手に入る。
ルルーシュは自らの危険な立場を知って、
ジェレミア卿に「いざというとき ナナリーを頼む」と告げた。
有事にもナナリーの安全保証を確保できたことで、ルルーシュは反逆しやすくなるだろう。
いずれ必要があれば表舞台に出るかもしれないが、
少なくとも皇族に存在を知られていない今のほうが暗躍しやすい。
ルルーシュはクロヴィス殿下がC.C.の研究をしていた施設を個人の暫定的なアジトにして、
裏から国政の糸を引き 執務をしている。
研究員はそのままC.C.の研究の代わりにギアスキャンセラーの研究に取り組ませているが、
今まで通り軍に従事し続けているジェレミア卿が被験者となるのは難しい。
最終的に装備するのはともかく、研究段階には時間を取りすぎる。
だから私が被験者として協力することにした。
と一言で済ませるには結構複雑だし、地味にきかったりする。
他人を雇ったり操ったりして被験者にした場合、
秘密を守らせることはできるかもしれないが、
実験の過程で味方以外にギアスキャンセラーが発現してしまったら困る。
操って実験するだけでも残忍だし、間違いが起こらないためには殺すべきだ。
そんなリスクを負うよりは、私が望んで名乗り出たほうがルルーシュの負担にならないと思った。
――もちろん私は、被験者になるのが楽しいって言えるほどマゾじゃない。
脳の潜在能力的な部分を無理矢理こじ開けて、異能を植え付けるのだ。
研究者がギアスに従っているから悪意や邪な念がないのはわかるが、散々な苦痛と嫌悪が伴う。
けれど雑用を買えなくて何が"役に立ちたい"か。
華やかで有意義な作業しかしたくないなら舞台を下りるべきだ。
私は主役でも主要人物でもない、端役だ。踏み台になりたいと決めた。
無能が役に立つには、有能がやりたがらない仕事をすべきだ。
誰がやっても変わりない、時間や手間ばかりかかる、
成果が見えにくい、単純作業、苦痛を伴うような仕事を 厭わないことだ。
言葉一つで魔法は使えない。念じたって棚から牡丹餅は見つからない。
ルルーシュは渋っていたが、手違いでギアスキャンセラーが一般人の手に渡ってしまう危険を踏まえて、私を適役だと認めてくれた。
申し訳なさそうにするから、
「休日出かけるとき、お母さんにはボーイフレンドと出かけてるって言ってもいい?」とドキドキしながら聞くと、「それなら俺もお前と出かけていることにすればアリバイができるな」って応えてくれた。
架空でもささやかでも、私には十分すぎるご褒美だ。
実際、男女交際は日々の過ごし方が変わる理由としては不自然じゃない。
C.C.やナナリーへの説明も、一番単純なので結局そこに収まっている。
教室では今まで通りただのクラスメートとして、
特別仲がいいというわけではないけどたまに話す という関係だった。
ところでこの身体は本来レナ・ファルトンの物だった。
古戸玲奈に傷つける権利があるかどうかと聞かれると微妙なところだ。
"レナ"と"玲奈"は他人だけど同一人物で、世界を越えた"もう一人の私"。
きっと生まれた瞬間の魂の形は同じだった。
土台が同じで、その上に周囲の環境や経験を積み重ねて人格が形成された。
経験とは、すなわち記憶。記憶が二つ合わさった時点で人格も重なったと言える。
どちらがどちらというわけじゃない。ミルクとヨーグルトが混ざりあったみたいな感じ。
今は生きて痛みを感じて使っている"私"の物として思い通りにさせてもらう。
いつか身体を返すときに変な改造済みってことになっても心の中で謝罪するだけだ。
罪悪よりもルルーシュのほうが私には優先順位が高い。
ルルーシュの目標が達成されるののなら恨まれても殺されてもかまわないって思えてしまう。
元のレナにとってはたまったものじゃないかもしれないけど、踏みにじる罪を背負うことにしよう。
私も学校があるから、研究所には主に放課後や休日に通う。
身体が耐え切れないから、休息期間もちゃんとある。
ギアスキャンセラーがアニメで登場したのは2期だから 転ぶほど急ぐ必要はないが、
いずれは必要な物だし、早くにあれば有利に運ぶこともあるだろう。
ギアスキャンセラーの完成品を持つのはジェレミア卿だというのは割り切っている。
あれはオレンジのものだ。役目を奪う気はないし、
戦える彼のほうがルルーシュの良い盾、使い勝手の良い道具となって有益に働けると思う。
装備にも人体改造を伴うのだが、必要な役目かつルルーシュの信頼を買っていると知れば……私なら嫌がらない。嫌がったら私が貰い受けるだけだ。
ギアスキャンセラーをもしも持つことができたら、
オプション一つ分 有能な道具に近づけるかなぁって思う。
人よりも優れた能力なんてない私が、
ルルーシュの役に立つにはどうしたらいいんだろうっていうのはいつも考えている。
どうして"私"なんだろう。
もしも私が日本人なら/貴族なら/皇族なら/軍人なら/頭脳明晰なら/身体能力抜群なら/何か特別な特技があれば、何ができただろうか、もっと他に使い道があったんじゃないか? とくだらない仮定を繰り返してしまう。無い物ねだりだとはわかっている。
ブリタニア人だからアッシュフォード学園に通っているし、貴族でないから反逆の影響を受けない。
私にしかできないことがないなら、誰にでもできることを懸命にやるしかない。
いっそギアスがあればいいのにと思った。契約によって手に入る、この世界の特殊能力。
王の力なんて私には不相応だと思うけど、
嚮団ではいろんな子が持っていたようだし、
もしかしたらルルーシュに役立つ能力が発現するかもしれないと思うと 魅力的だ。
けれど、もしも契約するなら、C.C.の望みを叶えることを想定しなくちゃいけない。
C.C.にとって有益だから契約できるんだもの。
アニメではそうならなかったけれど、結果としてC.C.が不老不死のままだ。
取引内容に沿って、人の理を外れる覚悟しなくちゃいけない。
不老不死も悠久の時間も私には想像できない。
独りの百年や千年を与えられて後悔しないなんて断言できない。
これは一時の感情ではない?と自分に問うけど、まだ答えが出ない。
とりあえず契約を乞える程度にC.C.と交流を持っておかなくては と思って、
ルルーシュのお宅にお邪魔するときは賄賂のピザを持っていって、
たくさん話をするようにしている。