契約書はあとで渡されるらしいけど、読めないだろうな。
サンノスケかサクベーか、誰かに助けてもらわなきゃ。

男装の協力者として、山本シナという女の先生が呼ばれた。彼女こそくノ一だそうだ。
おばあさんの姿から一瞬でお姉さんと呼べる年に化けたのは、さすがに感心した。
どっちが本当の年なんだろう。

別室に行き、武器になるものを没収されて黄緑色の制服とさらしを借りた。
着方も教えてもらった。さらしも制服も難しい。
胸はただでさえ発展途上なので、さらしを巻けばまったくわからなくなった。
長い黒髪は高い位置でしばってポニーテールにした。これが『まげ』というらしい。
鏡を見ると、ちゃんと男の子に見えた。
かっこいいと褒められたが、それもどうかと思う。
すっかりニンジャスタイル――忍装束というらしい――になった。

今日はもう夕方だから、授業は終わっているらしい。
夕食の前に部屋に布団と荷物を運ぶということになった。
もちろん布団も荷物もみんな借り物だ。
まだ仮編入なので、クラスも部屋割りも決まっていない。
とりあえず二人部屋を一人で使っている生徒のところに泊まる。
もちろん男子生徒だ。着替えとか、いろいろとどうにかしなきゃなぁ。

せっかく一人部屋だったのに、私が来るなんて気の毒だなぁ。
厄介者の自覚はある。改善する気はないけれど。
よっぽど気の合わないような嫌な奴でなければ、しっかり頼りにさせてもらおうと決めていた。
でも、できれば仲良くなりたいな。だって同室ってことは過ごす時間も一番長いんだから。

案内された部屋をノックすると、返事があって、戸を開ける。
赤い蛇を首に巻きつけた男の子が座っていた。

「はじめまして。私はシオン。
今日から仮編入の見学生で、しばらくこの部屋にお世話になるの。よろしく」
「伊賀崎孫兵だ」
「イガサキね。急に部屋が狭くなっちゃって悪いねぇ」
「いや……それにしても急だな。さっき先生に伝えられたばかりだ」
「さっき急に決めたからね。ところで、その蛇はイガサキのペット?」
「ああ、ジュンコという」
「じゃあ、ジュンコもよろしくねー」

荷物を部屋の隅に置いてから、ジュンコの頭を撫でにいく。
イガサキの首でおとなしくしているから、大切にされていることがわかる。
うちでもミケという番犬を飼っていたし、動物は嫌いじゃない。
私の好意的な態度に、イガサキは意外そうに言った。

「爬虫類は好きか?」
「んー…、特別好きってわけじゃないけど、嫌いでもないし、平気。
せっかくこれから一緒なら、仲良くしたいと思うよ」

よく躾けられているのか、イガサキの傍だからか、
ジュンコは余所者の私に対してもとてもおとなしかった。
私の愛が伝わったのかな!
しつこくぺたぺたと頭を撫で回していると、さすがに威嚇された。

「あんまり苛めるなよ。僕以外にこれだけおとなしいのは珍しいんだ」
「私が怖がってないせいかな」
「一応言っておくけど、ジュンコは毒蛇だ」
「そっか、だからイガサキは一人部屋なんだ」

おとなしいとわかっていても、毒蛇と生活を共にするのは誰でも嫌がるかもしれない。
そこに私を入れる学園長はいい性格してるなぁ。
もっとも、毒全般に免疫があって効かない私には恐怖の原因になりえないのだけど。

「平気…なのか?」
「平気だって言ったじゃん。イガサキが大丈夫なんだから、私も大丈夫だよ」
「そうか」

イガサキは、ジュンコに向けていたような優しい目で、綻ぶように微笑んだ。
なんて綺麗なんだろう。男の子だけど、美人さんだ と心から思った。
とにかく、同室とは仲良くやっていけそうだ。


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