「ところで、男子クラスに入れてね」
大事なことだから繰り返すと、
学園長はまだ言うかとばかりに、めんどくさそうな顔をした。

「そんなにくノ一教室が嫌か? ならば」
「入学はやめない」

同級生の女の子の集団というのは私にとって未知で、混ざりたくはない。
それでも、この学校の魅力というのは手放せない。
学園長は私が面倒の種だと思っているようだから(ちなみに正解だと思う)、
どちらかといえば私が自然に諦めてくれるのを望んでいるだろう。
平和解決だけど、あいにく私は面白そうなことが大好きなのだ。
とはいえ、異例を作ると他の生徒に示しがつかない とか思っていそう。
そこで、思いついてしまった。

「あ そうだ、どうせなら最初から男ってことにすればいいんじゃない?
私、中性的ってよく言われるし、声もそんなに高くないし、服装次第では男の子に見えるはず」

自分の発言を、それは名案だと思った。

「髪も短く切ってもいいし……口調も『俺』にするとかしたら完璧じゃない?
嘘をつくのは得意だし、そうやって男装するのも面白そう。っていうか面白い!」

自己完結した私に、学園長は諦め気味な様子を見せた。
もうどうにでもなれという自棄にも見える。

「ううむ、では好きにしなさい。
ただし周囲に性別がばれたら終わりということでいいな?」
「いいけど、だからってそっちがばらすのはなしだよー。ちゃんと協力してね!」

釘を刺しておくことには抜かりない。
必要なものは買ってくるか貸してもらわなければならないのだからね。
学園長はしぶしぶ了承するかわりに、追加の条件をつけた。

「目上の者にはちゃんと敬語を使いなさい。先生にも、先輩にもじゃ」
「ええー……。うん、まあいいや。ここでだけね。はい」
「よろしい。学年は三年でいいかの」
「三年生がいいよ。サンノスケとサクベーもいるし」

気軽に答えると、ぎろりと睨まれた。
タメ口をきいていたことに気づいて、しぶしぶ言いなおす。

「ええと、三年生がいい、です」
「うむ。髪はそのままの長さで髷を結って、口調は無理に変えないほうがよかろう」
「まげ?」
「あとで先生に聞きなさい」
「はーい」

私がいい子のお返事をすると、学園長は頷いた。

「して、学費の話じゃが」
「お試し期間はおまけしてくれると嬉しいんだけど……支払いはカードでいい?
現金の持ち合わせはあんまりないんだよね。町に銀行があれば引き落とすけど」
「銀行、とは?」

カード、という単語を発した瞬間から、嫌な予感はしていたのだ。
なんていうか、もう、聞き返されることがトラウマになりそうだった。

「銀行ないの? えー、どうしよう。手持ちは十万ジェニーくらいしかないよ」
「ぜ、ぜにぃ?」
「……まさか、通貨も違う?」

生活意識のすべてが違うということも理解できるようになってきた。
もう何が違っても驚かないかもしれない。言葉が通じることが奇跡とでも思うべきか。

「よくわからないが、入学金が払えないなら諦めるしかないのぉ」

あからさまにほっとした様子が伺える。
できることなら危険因子は飼いたくないようだ。さあ、どうしよう。

「あ、そうだ。じゃあ私ここで仕事するからそれで代わりにしてよ。
ニンジャってたしか暗殺もするよね?
ここってそういう依頼が来たりするんじゃないの。
私プロだし、得意分野。ちょー強いし、役に立つよ。」
「それは――」
「本当は私の値段ってもっとずっと高いんだけど、そこは目を瞑ってあげる。汚い仕事を押し付ければいいよ」
「別に、金ができてから出直してくればよかろうて」
「それは嫌」

またまた睨めっこが始まりそうだったが、長考の末、ついに学園長は頷いた。

「――検討しよう」


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