参拾
それから。

この件について学園長先生のお墨付きをもらい、
機会があれば教えたい人には教えていいって程度の秘密になった。
わざわざ関わりのない人にまで宣伝して騒動を起こす必要はない。

特に苦でもないし、自然だから男装は続けることにした。
私服も、女の子の着物って動きにくいんだよね……。

部屋は孫兵もいいって言ったので同じままだ。
「性別なんて大した問題じゃない」「ジュンコだって女の子なんだから」って意見が一致した。
ふたりとももうちょっと気にしろ!とも言われたけどさてはて。
心配するみんなによって衝立が導入されたから、着替えのときは使っている。







授業も今まで通り。
予習したり一緒に受けたり復習したり。
2年分の壁は厚く、知識はまだまだ追いつかないし文化も慣れきらない。
助けてもらうことばっかりだ。
得意分野の実習では先生に監督側を頼まれたりするから、ばれないようにそっと見守る。

ろ組はあんまり遊んでくれなくなるかなー?と思ってたんだけど、
以前『勝負して私に勝ったらね』と言ったのを三之助はこだわっていて、むこうから勝負を挑まれた。
それを見ていて左門が便乗して作兵衛も乗ってくれて……という感じで決闘ごっこも続いた。

みんなの態度が変わってしまったかというと……よくわからない。
少しは変わったかもしれないし、恐れていたほど変わってないような気もする。
そんなもんだったのかなぁって思った。







例の依頼で利吉さんと一緒にとあるお城にも出かけた。
忍術学園の生徒というのはひとまず伏せることになったから私服を着ていった。

お城では案の定子供だということに驚かれて、
お殿様が私に部下と戦うよう命じたので、まとめて倒してしまった。
実力さえ示せばお殿様は良い人だった。認めてもらえてよかったよかった。
完全な就職は断ってしまったが、長期休暇中はお世話になることにした。
授業が休みの日だったら呼び出してくれてかまいませんよーって。

「就職を断っていたけど、それだけの実力があるなら学園にいなくても今すぐ仕事があるんじゃないか?」
「私 学園にいたいんです。せっかくみんなに認めてもらえたし、当分は忍術を修めて卒業することを目指します」
「"性別なんて些細"か。たしかに君は他のことに比べれば些細なことかもしれない。忍術学園は凄まじい獣を飼ったね」
「獣だなんて失礼な。とっても使える道具ですよ、私は」
「そうだった。敵に回らないことを願うよ」

大丈夫ですよーって笑う。
評価されるのは嬉しいけど買い被られてないか少し不安だ。
遅れている学業に力を入れる分、実家で習った技術は緩やかに衰えていく。
必要になったときにまた鍛え直すしかないとはわかっている。







数馬が私向けに仕掛けられた罠にかかって危ない目に遭ったので、
兵太夫とはちゃんと話をして、約束をした。

他人を巻き込まないこと。
10秒立ち上がれなかったら私の負けってこと。
兵太夫が勝ったら私の秘密を教えるってこと。

何年かかるかわからないけどもしも負けたらまだ三年生にしか言ってないことを全部喋ってもいい。
防げなかった私も悪いのに、思わず怒って兵太夫の腕を掴んでしまったのは痛い失態だ。


――掴まれた腕は、振りほどこうとしても、びくともせず、暴力的以上の得体の知れない恐怖を感じた。
――不思議なもので、煮えたぎるほどまっすぐに兵太夫を映す瞳の真剣さを、嫌悪すると同時に淡い悦びをも覚えた。
――好かれたいわけじゃなかった。彼の世界に影響を与えたかった。


「私は兵太夫の作る罠、好きだよ」

最後にそう伝えると、兵太夫は意外そうに目を瞠いた。
いらいらしてるタイミングで不意打ちがくるとめんどくさいなって思ったりもするけど、
それ以外はおおむね私を楽しませてくれる。
こくりと頷いたので、わしゃわしゃと頭を撫でた。
実験台になってあげようじゃないか。


――そのたった一言で、世界は様相を変えた。







前回の演習の反省レポートが出たので、長屋で孫兵と話し合うことにした。

「ハンター文字を暗号に使ったのは正解だったな」
「うん。あれを覚えてくれてるの孫兵だけだったからちょうどよかった」

もう五十音表は覚えてしまったから、押し入れの奥にしまってある。
大切思い出の品だけど、今後暗号として有力なら燃やしてしまうのもありだなぁ。
結局私が住んでいたのってどこだったんだろう。
卒業して忍者になったらちゃんと調べてみようか。
そのうち、一度くらいは顔見せてもいいかなって思う。

「実習中に文で伝達できるときは楽なんだよね。狼煙とか矢羽音も覚えなきゃー」
「生物委員会で少しやるから今度体験しに来るか?」
「いいの!? 行く!」

孫兵が所属してるから、生物委員会の人のことはよく知ってる。
まだ見学行ったことあるのって体育だけだし、他の委員会もお願いしたら見学させてくれるかな?

楽しいことはいくらでもある。
これから満ちる日々を、わくわくして過ごそう。

fin.


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