私はサンノスケと分かれて別方向を探し始めた。
狭い山なので、足を速めればすぐに麓まで来てしまう。

「三之助ー!」

呼び声が聞こえた。人影はすぐに見つかる。
サンノスケと同じ、ニンジャスタイルだ。
そしてやはり私と同じくらいの年頃かな。

「サクベー?」
「わっ!」

木の上からぶら下がって話しかけると、驚かせてしまった。
悪戯は嫌いじゃないので、にこっと笑った。

「そうだけど……誰だ?」
「私はシオン。あのね、サンノスケが探してたよ!」

私は珍しく善いことをしたのに、サクベーはなぜか むっとした。

「俺が! 三之助を探してんだよ!」
「……そうなの?」
「あんの無自覚バカ、ちょっと目を離した隙に隣の山まで来やがって」
「ああ、だから他の人がいないんだ」

そのことは少しおかしいと思っていたので、これで納得がいった。
そういえば、最初に出会ったときもサンノスケは不自然に道を逸れていた。
あれは迷子になっていたのか。
本人はわかっていなかったようだけれど、方向音痴なのだろう。
どちらの証言が真実かはともかく。

「サンノスケのいる方向、だいたい案内できると思うよ」
「じゃあ頼む…けど、紫苑はこんなとこで何してんだ? 珍しい着物だけど…」
「私もある意味、迷子かなぁ……。ここがどこだかわかんないし」
「迷子…か」

その単語に、サクベーは疲れた顔をした。
相当振り回されているらしい。
私は別に方向音痴じゃないと言っておいたが、
サンノスケの例があるから信じてはもらえなかった。

「それにしても、この服、そんなに変かなぁ?」
「応、少なくとも俺は初めて見た」

あんまり服装のことを指摘されると、自分のセンスに自信がなくなってくる。
ニンジャスタイルと比べるとそりゃあ全然違うけれど、私の方が世間一般的であると主張したい。

「どっちかっていうと、ニンジャのほうが珍しいと思うけど」
「忍者は普段、自分が忍者だって言いふらすモンじゃねぇからな。
今回は制服着てるし、隠しようがねぇから仕方ないと思うけど…」
「ふうん…」

生粋のニンジャの里に足を踏み入れたのは初めてで、
私と同い年くらいの子というのが珍しかったのだけれど、
裏の世界を探せば見つかりそうだとぼんやり思った。


* * *


それから、今度はサクベーと二人で、サンノスケを探した。
サンノスケは、すでに私の予想とは違う方向に向かっていたので驚いた。
早く探したからよかったけど、もう少し遅かったら見つかったかどうかわからない。
いつも探し出しているっていうサクベーを尊敬してしまう。

「あ、いたいた」

悪びれずに私たちを示したサンノスケを見て、私は全面的にサクベーを信じた。
サンノスケはどこまでも無自覚らしい。

「お前なぁ、あと少しで解散って時に……」
「俺は作兵衛を探してただけだぞ?」
「探されるようなことはしてねえ! 左門を探してくるからその場から動くなっつっただろうが!」

どうやら左門というのも彼らの友達で、迷子になりやすい性質らしい。
二人は埒の明かないやりとりを繰り返していた。面白いなぁ。

「ねえ、今から『学園』に帰るんでしょ?」
「おう」
「私も連れて行ってよ」

お願いをすると、二人は言い争いをやめて、顔を見合わせた。

「部外者は学園に入れちゃダメ……だよな?」
「ああ、というか、ついてきてどうすんだ?」
「入学するとか」

半ば冗談を言ってみた。
二人がいるんだから、私も適年齢だろう。
彼らがいるなら楽しそうだし、気に入らなかったら辞めればいい。
ここがどこかわからないし、行く宛もないし、連絡手段もない。
観光気分でニンジャの学校を見学するっていうのも悪くないんじゃないかな。
目的地が『人里』から『学校』に変わっただけなのだから。

「入学希望者?」
「じゃあ、先生に聞いてみるか」

二人は、思ったよりも真面目に受け止めてくれた。
聞いてみると、一つ上の学年に素人から編入してきた生徒がいるのだとか。
それから、ふたりはやはり私と同い年で、『忍術学園』の三年生なのだそうだ。


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