拾肆
「教科の勉強ばっかりしてたら頭おかしくなっちゃう。気晴らしに付き合ってよ」

ろ組の長屋を訪れ、そう誘いをかけると、
三人は面白そうだと言ったから、試合でもしようか。
彼らが実技得意であることは知っているし、私だって自信がある。
いい運動になりそうだ。

「武器アリだって言ったくせに自分は素手なのかよ」

一回戦の相手の三之助は不満を言った。
私が武器を使うことには制限がある。それが学園長との契約だ。
授業中に先生の監視下ならともかく、自由時間に遊んでて謹慎が出たら冗談じゃ済まない。

「素手は左門もじゃない」

私は反論する。
左門のことは慣れているから仕方ないって思っているらしい。
小柄な私に武器を振り下ろすことがやりづらいというなら、見くびられているなぁ。
こういうとき、女顔――ほんとに女なんだけど――は不便だ。弱く見えてしまう。
暗殺者としてはそれでもかまわないんだけど……。
本気の三之助と勝負がしたい。

「文句は勝ってからにしたらどう?」

挑発すると、癇に障ったらしい。
眼に闘志が宿った。そうこなくちゃね。

三之助の得物は6尺ほどの棒で、
長いリーチから鋭く繰り出される棒術の威力は脅威的と言える。
様子見とはいえ、素早く振り回して、正確に私の関節を仕留めようとする。
身長差が大きいからなおさら、隙を見つけるのが難しい。
センスあるなぁ と ほくそ笑む。

いっそ武器を掴んで折ってしまうのが手っ取り早いけれど、そんな無粋なことはしたくない。
これは死闘ではなくて試合なのだから、楽しまなくちゃ。
殺すのではなく倒す。しかも、できれば授業に差し支えるような怪我は作らない。
容赦を考えるのは両手を封じられたようなものだけれど、むしろ封じてしまっていい。
ハンデがあるくらいのほうが面白い。

かわして、往なして、最初はひたすら眼を凝らして三之助の動きを見極めた。
無駄が少なくて勢いがある。理想的だと思った。
でも、そろそろ反撃開始かな。
攻撃と攻撃のあいだを狙って、間合いを詰める。
至近距離からの攻撃を止めると、隙が出来た。衝撃は殺したから大丈夫。
腹に回し蹴りを食らわせると、クリーンヒットで吹っ飛んだ。
背後に回って、足払いをかける。三之助は身体の力が抜けて、地に倒れこんだ。

「私の勝ちだね」

信じられないという三之助の顔に笑いかけた。
『私のこと、認めてくれた?』
前回の ろ組での実技は迷子捜索で終わってしまったもんね。

これで一勝。
三之助が負けたということで、作兵衛と左門は驚いた目で私を見た。
最初から本気でかかってきてくれるだろうか。


次の相手、作兵衛の得物は縄標、というか縄の使い手だそうだ。
さすが用具委員。でも捕縄術に長けているというのは、迷子探しのせいかな…。

「つかめぇた!」

脚に縄標が絡みつく。
狙いは正確で、きつくて外れそうにない。
距離はいくらかあるけれど、作兵衛は、もう一方の手に飛び道具もかまえている。
ほんとに素質あると思うよ。迷子探しの。

「私は迷子じゃないのにぃ」
「放置してたお前も同罪なんだよ!」

本題からずれている気もするけれど、この前のろ組での実技の話だ。
だってほっといたらどこ行くかなって、見てるの楽しいんだもん。
作兵衛の心労は増えただろうけど、探すの手伝ったし、私は迷子捜索も楽しかった。

さて、足に縄標を受けたのは不注意じゃない。
お手並み拝見には手っ取り早いかな、と思ったのだ。
縄が絡みついた足を後ろに振り上げると、作兵衛は前にのめった。
引っ張る力も強くなる。でも、負けない。

「どういう馬鹿力だよ!?」
「あははっ、こういう馬鹿力なんだよー」

この反則は許されるんじゃないかな と勝手に決め付ける。
鋼鉄製でもあるまいし、こんなものは障害にもならない。
第二戦も私の勝利だね。


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