閑話3−3:

「幽霊は、世界を越えられると思うか?」
「だって佐為は私の守護霊だし、私が越えるなら越えられるんじゃないの」
「この世界における守護霊、な」
「含みのある言い方だね」
「俺は物事を示すのにお前がなじみやすい言葉しか使わないから、
多少定義のずれや齟齬は生じているかもしれない」

そりゃ、ジン君の母国語は日本語じゃないだろう。
もしかしたら口調とかも私仕様なのかもしれない。
外見だって、私好みのかっこよさだもんなぁ……。

「それで?」
「佐為に関しては、一度成仏して形を失った魂を拾い集め、
お前という存在に結びつけた風船のようなものだ。
風船は大気圏を越えられないだろう?」
「耐久性ってこと? それってどうにかならないの」
「存在を歪めるのか? 佐為はこの世界の存在だ」
「私を私の世界から連れ出したでしょう?」
「同じことをするのは無理だ。神に召し上げるのが容易だと思うな」
「……はい」

佐為は我が儘なんて言ってないって言ってくれたけど、
私、ジン君には随分我が儘を言ってるなぁ……。

「それがお前の望みなら、どうにかするさ」

ジン君は、ずるい。すべて叶えられてしまったら、甘えたくなってしまう。
願い事には限りがない。
ジン君みたいな神様が、私みたいなたった一人を贔屓しようとしたら、なんだってできるの。
甘やかされているからこそ甘えちゃいけない、甘やかされるたびに試されているんだと思っている。
だって形のない無償の愛を注がれて、いつか愛想を尽かされたら終わりでしょう?

「剥き出しの風船がいけないなら、お前が防護するしかない。
風船の紐の先はこの世界に結んだままになるから、切れないように折々帰ってくる必要がある。
荷物が増えたなら、滞在時間にもかかわるし、
そもそも佐為を連れていける世界と、行けない世界がある」

「その違いは?」

「幽霊が実在の世界があり、迷信の世界があり、存在できる世界とできない世界がある。
幽霊が定義されている世界、されていないが異端に寛容な世界、不寛容な世界だ」

当たり前かもしれないけど、『世界』にもいろいろあるんだなぁ。
私の世界はどうだったんだろう?と考えて、一つ思い至る。

「もしかして、私の世界には幽霊がいなかった?」
「どうしてそう思う?」

「ずっと疑問だったの。
猫になってたジン君が見えたのは、第六感が優れてるせいだったって言ってたでしょ?
でも、私は生きている間に幽霊やおばけなんて見たことがなかったし」
「可能性は高いな」

「そうなんだ……」
「悔いでもあるのか?」
「あぁ、ううん。生きたいというのが私の望みだったけど、
どっちにしろ幽霊になってあの世界に留まるって選択肢もなかったことがわかってすっきりしたよ」

「そうか」

「うん」


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