閑話3−2:

「なんでっ! ジン君って心読めるんじゃないの? 私の考えの変化くらい、察してよ!」
「深層意識まですべて筒抜けのほうがいいのか?」
「……それは、よくないけど」
「別に、いけないと言ってるわけでも、不可能だと言っているわけでもない。
ただ、認識に相違があったことがわかったことと、難しいということだけだ」

難しいとかできないとか、ジン君はいつも私の望みに苦言を呈する。
聞いてくれる時点で破格の待遇とはわかっているんだけど、
精一杯の嫌みを込めて息を吐いた。

「神様って完璧じゃないのね」
「創造主のやることなすこと全てが"最善"なら感情や多様性なんて生まれないさ。
あえて感情を捨て機械的になる神もいるが……。全知全能は使いようだ」

そもそもジン君が"完璧"なら、たとえば私を死なせたりしなかっただろう。
死なせて当然って扱いならともかく、後で埋め合わせをしたから、
あれはジン君にとって不本意な事態だったのだ。

「創造主は、たとえば競技を行うグラウンドを作って、選手を集めて、ルールを決めるにすぎない。
審判を派遣することはできても、どのような試合が行われるかには関与しないというわけだ。
予測と現実には誤差が生じるものだろう?
まぁ、運命なんて名で、八百長を起こす創造主もいるけどな」

完璧ではないというだけで、万能かつ無敵であることには代わりないし、
むしろ人間味があって好感が持てるから、いいけど。
前から思っていたけど、ジン君って、どこか抜けてるところがある。
詰めが甘いっていうか……。空気読まないし。

「悪かったな」

ぼそっと言われて、筒抜けだったらしいと気づく。
慌てて弁解しようとしたけど、別に怒っているわけじゃないらしい。
そういえばジン君って私に対して怒らないなぁ。神様だから寛大なのか。

「そういえばジン君は、世界を作ったりしないの」
「お前には無限の生と死を自分の責任において見守ることができるのか」
「……ごめん、想像もできない」

だろうな とジン君は言った。
私はついこの間まで非力な人間だった小娘だ。
でも、ジン君は神様の中でも変わり者なんだろう。

「俺たちは、他人の作った様々な世界を渡り歩いて、見聞し、自らの世界の構想を立てるというのが本来の役割だ。
だが、さまざまな世界を渡り歩いていても悲劇は目にする。
芸術を好み、多彩な絵の具と、様々な種類の画材をいくらでも用意できる環境にあり、技術があり、悠久の時間があると仮定しよう。
お前はそれからの生涯の全てを費やして、とりかえしのつかないたった一枚のキャンバスに絵を描けるか?」

――俺には、描きたいものがないんだ。

そうつぶやいたジン君は、私に神様という存在に実感を湧かせると同時に、
それが酷く人間的な存在に思わせた。


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