それから、当然ヒカルさんが勝って、
ヒカルさんからも佐為からも講評を貰って、検討して、
また佐為とヒカルさんが打って、話をして、
そうこうしているうちに気づいけばどっぷり日が暮れていた。
「家まで送ろうか?」
玄関でヒカルさんに聞かれた。
断ると、「でも」と食い下がってきた。
さっきヒカルさんのお母さんが帰ってきて、私について何か言っていたから、
一人で帰すのは忍びないのだろうと思う。
駅までくらい送ってもらうのが筋なのかな。
でも、送ってもらうわけにはいかない。
それは私の確たる意志だった。
なんとなく、自宅の場所は知られない方がいいと思うのだ。
秘密だらけの距離感が保つためにも。
マンションはジン君が用意してくれた場所で、外観は普通のマンションだけど、
少なくとも私の住んでいる部屋は特殊な空間になっている。
おそらく、この世界で唯一、この世界の創造主とは別の神様の力が加わってる場所なのだ。
佐為は外ではだいたい私のそばにいるけど、マンションの中ではそうとは限らない。自由に動き回れるのだ。
それに、ジン君の部屋がある。消えたくなければ入るなと云わしめた部屋が。
そんな危険な場所に、どうして人が招けるだろう?
私は黙ったまま笑って首を振った。
しばらくするとヒカルさんが口を閉ざした。
ヒカルさんにしてみれば、私の言動が何に重きを置いているのか、
何にどうして従えばいいのかわからなくて、不便だろうなと思った。
命令的なことばかりで、苦手意識でも持たれていないといいけど。
「大丈夫です。佐為もいるから」
もちろん私以外に見えていないその存在が、
安全面で効果があるのかといえば、答えは否だった。わかっていた。
でも、私は笑顔を浮かべて干渉を許さなかった。
もしもここに夏実がいたなら、不愉快だからやめなさいと怒られていただろう。
曲がったことが大嫌いな夏実。
手厳しいから、いらない責任を一人で背負うのだ。
そんなことを思い出した。
こんなときに迎えにきてくれる人がいればいいのに。
と思って、思いついた。
「じゃあ、保護者に連絡してみますね」
ジン君を呼び出す方法というのは部屋の前で呼べということだったけど、
一方で、携帯のナンバーも教えてもらっていた。これって通じるだろうか。
好奇心から、アドレス帳の入ったそれを選択する。
2コールほど鳴った後、音が途切れた。
切れたのか繋がらないのか壊れたのか考えたけど、
何が起こるかわからないので希望を諦めずに待っていた。
砂嵐のようなノイズの後、
「もしもし?」
という声が聞こえた。
ちゃんと電話のマナーに倣っているのが面白い。
「もしもし、ジン君? 今、忙しい?」
「携帯ということは自宅じゃないな。急用か?」
「実は単に迎えに来てほしいんだけど」
「……まあ、いいだろう。行ってやる」
そう言って、電話は切れた。
ジン君はたぶんこの世界にいなかったってことだと思うのだけど、
どれくらいで此処まで来られるのだろうか。
やっぱり、私がいる場所なんて一発でわかってしまうのだろうか。
「誰?」
「お兄ちゃん」
たぶん。という言葉が続くけど。
ああ、ジン君を人に会わせるのって多分初めてだ。
30分ほどして、久しぶりに見ても壮絶に格好いいジン君が現れた。
「玲奈」