05.賭け

「それでは、さっそく念をやるぞ」
「……武術じゃなくてですか?」

クロロと初めて交わした特訓に関する言葉……。クロロはテンの言葉に思い出したように口を開く。

「ああ、そういえば、お前に武術を教えてなかったな……」

クロロの面倒くさそうな物言いに気にせず普通に大事なことを言う。

「はい、基本すら出来ませんよ?」
「そうなのか?……よし、午前は、武術マスター。午後は念に行くぞ」
「……鬼」

クロロのメニューにテンは小さく呟いた。それに、『何か言ったか?』と聞こえているはずなのに聞き返してくる。
それに、『別に……』とそっぽ向いて準備運動する。

「さて、どうしようか。とにかく、基本動作を叩き込む。その後に、いろいろ応用技を叩き込む」
「……うわー、大変そうだなー」

クロロが告げた言葉にテンは言い返す気力もないのか遠い目で感想を呟いた。それでどうにかなる訳もなく、すぐに始まった……。



その頃カレンは、シャルに銃の弾について相談していた。

「……と言う訳で、練習に使い過ぎちゃったんですよ……。どうすればいいですか?」

カレンの言葉にシャルは首を傾げながら呻いている。

「んー……そういうことは、俺よりパクのほうが詳しいんだよなー……。一応、弾補充しに行く?」
「え、でも、シャルさん、カレンは、銃のこと全然わかんないですけど……」
「ああ、安心して。俺もついて行くからさ」

それに、カレンは目を開いて黙ってしまう。そして、数回瞬き、

「……え、いいんですか?」

と叫ぶ。それに、シャルは笑顔で頷いてくれる。

「え、じゃあ、お願いします……」
「俺も丁度欲しいものあるからさ。あ、けど、一応団長に言ってこなくちゃね。ちょっと待ってて」
こうして、二人は、テンの苦労も知らず、買い物へ出かける準備をしていた。



「……中々、いいセンス持っているじゃないか。本当に午前中に終わるとはな」
「……ゼェ、ゼェ……ゼ、ェゲホゲホ。お、鬼ぃ……」

汗だくでさすがのテンも息がとても乱れていて、地に伏せている。
その様子を、平然と眺めながら声だけで驚いている。
それを、憎たらしげに小さく悪態をつく。それに、気にしてないようで、午後のメニューを考え始めている。

「……よし、5分休憩したら、基本と応用を一通り覚えさせるぞ」

もちろん、5分そこらではテンの体力は回復しないだろう。だが、テンの体力など関係なく、今日中に念のを覚えさせるのだろう。

「……もう、何も言いません……鬼」
「言ってるじゃないか……」

テンは、先程から一般人には聞こえないような大きさで悪態を呟いている。
それに、地獄耳なクロロはさっきから聞き取っている。

「あー……頭痛ぇ」

テンは、もう息が整ったのか起き上がり、頭を抱えている。そりゃあ、頭が痛くなるのは当たり前だと思う。
武術と言っても体で覚えるより先に頭へ情報が伝達される。
普通の人が数年かかって覚えることを数時間で覚えたのだ。もう、テンのことを一般人と言えない。
そのことにテンは気づいているのかいないのか・・・。クロロは、テンを眺めながらふと考えてみる。

「……4,3,2,1」

それに、急にカウントダウンし始める。それに、?を飛ばし、クロロは、何か聞こうとするが、すっとテンが立ち上がり

「5分!じゃ、次行きますか!」

と、言う。どうやら、5分数えていたらしい。それに、目を明きながら驚いてしまう。

「クロロさん?どうかしましたか?てか、早く念の修行しましょうよ」
「……本当に律儀な奴だな」
「はい?」

クロロは、本当に聞こえないほどに小さく呟いたのでテンは、?を飛ばして聞きなおす。が、

「なんでもない。さっそくするぞ。一通り見せるから見て覚えろ」
「はっ?え、あ、ちょ・・・」

と言ってテンが準備する前にコンマ単位でどんどん見せていく。それに、慌てながらもどうにか見ていく。

「……よし、やってみろ」

一通り見せ終わり、クロロは今度は実践してみろと無茶振りをしてくる。テンは喉から出かかる文句を抑え、とりあえずやってみることにした。

「えー……っと、……以上?」
「お前、本当に人間だったのか?」
「現在進行形で人間です」

クロロの念の基礎・応用を一通り見て、テンは、その基礎・応用を全てをやり遂げる。
それに、クロロは、もう驚くしかない。むしろ、テンが人間だったのか疑いたくなる。
テンは人間だと主張しているが、怪しいものである。

「それじゃあ、一応何系か調べて本格的にやるか。とりあえず、中に入るぞ」
「はーい」

二人は、アジトの中へ戻っていった。



「団長ーって、あれ?テン、今日の特訓もう終わり?」
「いえ、念の系統調べるそうです」
「えっ?早すぎじゃない?テンって本当に人間だった……?」

先ほどクロロにも言われた言葉にテンは確かに念の形はなんとかできたけど……と思いながら口を開く。

「クロロさんにも言われましたが、れっきとした現在進行形の人間です」
「シャルー?どうしたんだ?」

テンの言葉に愕然としたシャルの後ろから、眉なしことジャージことフィンクスがやってくる。
彼はシャルの様子を見て軽く?を浮べている。シャルは目を明いたまま、

「……テンが……念の系統調べやるんだって」
「はぁ?念習い始めたの今日だろ?本当にテンは、人間だったのか?」

と答える。それに、フィンクスも驚いて叫ぶ。テンは引きつった笑みで、

「……どうして、皆さん俺を人間だったかと、過去形で疑うんですか?
百歩譲っても許す気はありませんが、疑うことは構いませんが、だったとは、おかしいでしょう?
それに、そんなこと言ってしまえば、貴方方も人間なのか疑わしいでしょう?貴方方は俺より強いでしょう?」

と一息で言ってのける。そこに、丁度グラスと葉っぱを持ったクロロがやってくる。

「……お前らどうしたんだ?」

三人を不思議そうに見る様子に、テンはクロロに怒りの矛先を向けた。

「っ、お前のせいだろ!お前がまず、過去形で俺に、質問してきた内容が悪いんだろ!」
「ちょ、ちょっと待て!なぜ、俺を責める?」
「お前が最初にあのくだらない質問してきたからだ!」

テンの矛先がまさか自分に向かうと思わなかったのかクロロは、軽く目を明きながら叫ぶ。それに、テンも叫び返す。
シャルは言い合いを始めた二人にどうしようかと悩んでいる時に天使はやってきた……。

「シャルさー……ん、どうかしたんですか……?」

シャルを見てからクロロとテンを見てカレンは問いかける。それに、シャルは丁寧に説明する。
それを聴いて、カレンはため息をつきながら二人を見つめなおした。

「そうなんですか……。テンちゃんもクロロさんも喧嘩やめないと今日の夕ご飯なしにしますよ?」

そういうと、二人が面白いようにピタッ……と動きが止まる。
それに、シャルとフィンクスは軽く驚きながらカレンを見る。『そういう手があったのか……』という眼差しで……。
喧嘩が収まったところでカレンはテンに近づき、問いかける。

「で、テンちゃん。念の基礎覚えたんだって?カレンも見たいなぁー」
「あ、ああ……。でも、まだ形だけで全然だぞ?」
「そうなの?でも、今日水見式やるんでしょ?」

カレンがクロロをちらりと見、テンもちらりと見る。クロロが何も言わず、水見式の用意をしている。


なんともせつなく感じるものだ……。


その姿を見ていてあのA級賞金首である蜘蛛の団長と思えなくなる二人はそう心の中で呟いた。

「……さっそく、やるぞ。このグラスに手をかざして『練』をやるだけだ」

もちろん、二人がそんなことを思っているとは知られず、クロロは用意を終え、やり方を説明する。
テンは素直にグラスに手をかざし、『練』をしようとする。

「テンちゃん何系だろうね?」

皆が思っている言葉をカレンがテンに投げかけた時、変化が出る前に『練』を止める。周りが各々テンに対するイメージを言い始める。

「んー……俺的にテンは操作系じゃないかな?だって、初めての時でもフェイタンに対して理屈っぽいこと言ってたし……」
「いんや、強化系かもしれねぇぜ。だって、さっきといい、前回のそのことといい、感情すぐ出してんだろ」
「……ふむ、やはり具現化系じゃないか?律儀すぎるだろう」

その言葉を聞いて、テンの大好きな性格が働く。テンは、嬉しそうに笑みを浮かべ、

「じゃぁ、賭けませんか?俺がもし、操作・強化・具現化だった場合貴方方の言うこと一人一つずつ聴きます。
ただし、俺が、……そう、変化系だった場合、後は、確率が低いですけど特質系だった場合俺の言うこと一人一つずつ聴いてくれませんか?」

と、賭けを。相手は軽く目を明きながら、薄く笑みを浮べる。そして、代表でクロロが答える。

「いいぞ」
「それでは、行きますよ。……っ!」

クロロの答えを聞いて、テンは、一回深呼吸をして『練』を行う。
カレンたちは、グラスの周りに立ち、様子を見ている。グラスの中には、何の変化も起こらない。
それに、賭けをした男たちはあちゃ〜っといった残念そうな顔をする。
テンは彼らの顔を見て、この変化が三人の言っていた系統に当てはまらないことを確認し、口を開く。

「ってことは……変化系かな?俺のか「テン、水を舐めて変化無かったら変化系とは言えないぞ?」

それに、無駄な足掻きというのかクロロが、水を舐めても変化が無いと変化系じゃないと屁理屈を言ってくる。

「はいはい……。……っ!」

テンは、自分が『練』をやった水を人差し指につけ、舐めてみる。そして、舐めてから目を明く。
それに、男たちは、軽く大丈夫か?という目で見てくるが、

「……おいしい!ただの水だったのが、こんな美味しい水に変わっていると言うことは、変化系だよな?」

と、喜んで、もう一度確認なのか水を舐める。それに、男三人も舐める。
カレンも舐めようとするが、テンに止められる。なんで?と言った目で訴えるが、

『辛っ!』

男たちは、舐めた途端口を覆い、テンをなぜ平気なんだという目で見てくる。テンは軽く笑いながら一つ試してみる。
もう一度グラスに手を当て『練』を行い、舐めて顔を歪める。

「……これなら激甘だぞ?」

とグラスを指す。それに、男は、前のがあるからか警戒している。テンはため息をついて、

「カレン、ちょっと舐めてくれるか?」

と、すまなそうに言ってくる。それに、カレンは頷いて舐める。カレンは目を明き、テンを見て

「凄い!甘くておいしい」

「ほら、カレンもこの通り甘いと言ってるだろ?我慢して舐めるかそのまま辛いままでいろ」

テンの言葉にしぶしぶ三人は、舐めてみる。グラスの中の水は本当に甘くなっている。
が、舐めた三人の感想は同じで、

『……テン、本当に人間だったの?』

と、テンがキレかけそうでも言ってしまうほど、驚いていた。
なぜなら、普通、主人公組でも『発』に、2,3週間かかっているのに、一日でしかも、数十分で普通の念使いの基準で激辛・甘いを自由に出してしまうテンは、何者だろうか?
裏ハンター試験なら、もう一発合格である。

「……とにかく、テンは『変化系の混ざった特質系』だということが分かった」
「イコール、賭けはテンの勝ち」

クロロの言葉の後に、皆が認めたくない言葉をテンが改めて発する。
クロロとフィンクスが舌打ち、シャルは『あ〜あ』と呟いた。テンは、笑っている。

「命令は、皆に認められてから言いいます」
「……ていうことは、フェイタンとかに認められてからって……何命令する気なの?」
「そんなの言うわけ無いじゃないですか」

ゾクっ!

そのテンの言葉に賭けに負けた蜘蛛のメンバーに訳の分からない悪寒が走る。
それに、気にせず、カレンはその様子を見ていて、ポツリと呟く。

「……いいなぁ〜、テンちゃんは念が使えて……」
「そうか?じゃぁ、カレンも精孔開けるか?」
「えっ?いいよ!テンちゃんじゃないんだから、死んじゃう!」

しかし、近くにいたテンはそのカレンの呟きを聞き取り、問いかけてみる。実際、念が使えた方が今よりは確実に自衛能力が高くなる。
だが、その反面、精孔を開けるまでが大変なのだが……。

「……大丈夫大丈夫」
「その間は、何?」
「いや、カレンにも遠まわしに人間否定されたなぁ……と」
「えっ!あ、そんなこと言ってないよ!それより、シャルさん!買い物どうするんですか?」

テンの言葉に慌てて否定し、話しをすぐさますりかえるため、シャルに声をかける。
相手は、それを聴いて本来ここに来た理由を思い出す。

「あ、そうだ!団長、今からカレンと買い物行ってきていい?」
「ああ、構わない。何しに行くんだ?」
「えーっと、俺は、もっと高度なハッキングをやりたいからその本を立ち読みしに……カレンは、弾の補充」

シャルの言葉にテンは不思議そうにカレンを見る。

「カレン、銃もらったのか?」
「うん、小型のやつなんだけど威力は強いよ」
「……気をつけろよ。いざとなったら、シャルを盾にしろ」

テンはカレンの肩を掴み、至極真顔でカレンに言い放った。その言葉に周りは呆けた顔になる。
カレンは、慣れているのか、笑いながら言葉を返す。

「テンちゃん、そんなことしちゃ駄目だよ。それに、そんなことしなくてもシャルさんは強いからカレンの出る
幕無いよ。だから、安心しといて」

その言葉に若干の不安は隠さないまま頷き、テンはクロロを見る。

「次、何やるの?今日は、これで終わりってこと無いだろ?てか、あんたにはもう、敬語使わない。なぜなら、
使う気失せたから。イラつくから。お前の言葉に殺意を覚えたから」

と、一気に喋る。それに、カレンは、『テンちゃーん……』と、軽く困ったような声でテンの名前を呼ぶ。

「……構わん。ああ、あと今日は部屋に戻っていいぞ」
「もう、修行は今日終わりなのか?」
「ああ、部屋に戻って、『練』が一日続くように鍛錬して合間にでも『発』を考えておけ」
「了解。カレン、気をつけろよ。シャル、絶対カレンに傷一つ負わせるなよ?」

テンは、カレンとシャルにそう言って、部屋に消えていった。
完全に気配が消えると、三人は、一斉にカレンを見る。

「テンちゃんいっつもそうなんです。カレンに優しいんです」

その言葉にどういう意味が含まれていたのかはもっと先に知ることになる……。


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