03.スタート

「……ちっ」
「お、お願いします……」

なぜなんだろう。なぜ、第一印象がお互いに悪い人が一回目の先生なんでしょうか……?

「……おい、さっそくやるぞ。基礎体力を上げるためにまず、腹筋・背筋・腕立て・スクワット・ビーバー・縄跳び二重を100回×5セット。その後、2時間走れ」
「うわー……」

ノブナガの練習内容に、テンは表情変えないが、声だけで多少の脱力感が感じ取れる。

「何か文句あんのか?」
「いえ、別に……。強いていうなら、体力上がるといいなーです」

ノブナガの殺気に、これまた表情変えることなく、緊張感ないコメントを返す。その態度にノブナガは相手は素人だからと普段しない我慢をし、再び口を開く。

「……言っておくが途中サボったり、リタイアしたら斬るぞ」
「了解です……。っと、コート脱いでいいですか?」
「とっとと始められる用意をしろ!」

ノブナガに怒鳴られ、テンは、コートを脱ぎ、軽く準備運動をして始める。
やはり、トリップ定番なのかテンの基礎体力は前の世界より上がっていた。
だから、全て楽々にこなして・・・・・・・はいなかった。
縄跳び二重50回目で、テンは、足を引っ掛ける。そして、そのまま、

ベチャ!!

「……お前、引っ掛かったからって、こけるこたぁねぇだろ……」

ノブナガが呆れた声で言葉を投げつけた。テンは顔から突っ込み、数秒固まっている。

「……手、つけば良かった。痛い……」
「……お前、マジで一発殴っていいか?」
「えー……痛くなければ」

やる気あるのかと一発殴りたくなるような気だるさにノブナガはMK5(マジでキレる5秒前)である。
それに、気づいているのかいないのか分からないが、テンは起き上がり、縄跳びを終わらせた。
そして、再び準備運動をして、

「何処、走る、んですか?」

あまり息が整ってない状況でテンはノブナガにコースを聴く。
それに、軽く目を明いたノブナガは、薄く笑みを浮べ、

「てめぇ、根性あるな。休憩しようと思わねぇのか?」

と言ってみる。それに、テンも薄く笑みを浮かべ返し、

「そんなこと、考えていたら、一生、強くなれないですよ」

と今回初めての意志ある言葉を発する。それに、ついにノブナガは大笑いし始める。

「えっ、ちょ、ちょっと!意志ある発言したのに、大笑いはないでしょう!それより、コースは何処ですか?」
「くくっ……悪ぃ……くくっ……面白え。遅れんなよ。コースは……」

テンの言葉に含み笑いをしながらも、ニヤリと笑ったまま、後ろを向き、

「俺が走る所だ!」

と叫んで、消えた。否、一般人には消えたように見える速度で走り出した。
ところが、テンには、それが、通常に近いスピードで見える。
その様子にテンは驚きながらもノブナガの姿を見つけて後ろを走る。
ノブナガは、後ろを振り向き、驚くが、すぐニヤリとして、速度を上げた。
テンもまだ余裕で速度を上げる。ノブナガはもっと上げた。テンももっと上げる。更にノブナガも、テンも……


「っ、てめぇ、どんだけ力残ってんだよ?」

ついに、痺れを切らし、ノブナガは自分のすぐ後ろを走るテンに叫ぶ。それに、ケロっとした表情で、

「え、あ……さぁ?」

と答える。それに、ノブナガは、なんともいえない顔をして、ため息をついた。
その調子で、一日目の訓練が終わった。



その頃、カレンは、マチにアジト内の部屋や、仕事内容を教えてもらっていた。
最後台所に着き、夕食の用意を命じられた。
カレンは、嫌な顔一つせず、笑顔で『了解です』と答える。早速夕食の準備に取り掛かろうと冷蔵庫を開けるが、

「……すいません。これ、何か教えてもらえませんか……?」

元の世界では見たことの無い食材(?)が冷蔵庫に入っていた。
それに、嫌な顔一つせず、マチは一つ一つ教えていく。
そして、一通り説明が終わった頃にカレンは夕食の準備に取り掛かった。



テンは、走り終わると、ノブナガに湖に連れて行かれ、汗を流してから帰って来いと置いてかれ、早2時間……。
簡単に汗を流し終わったテンは、未だにアジトに辿り着けないでいた。
どうしようかと迷いながら歩いていると、何処からか、夕食の匂いが漂ってきて、テンの嗅覚を刺激する。
テンは、助かったと思い、匂いのする方へ走っていった。それが、今歩いてきた道とは知らずに……。



「蜘蛛の皆さーん!ご飯出来ましたぁー!」

カレンは、先ほどマチに教えてもらった食卓の机にご飯を並べ終わると、報道部自慢の声で叫ぶ。
それに、数秒〜数分かかってアジトにいた蜘蛛のメンバーが揃ってくる。それぞれ美味しそうな御馳走に小さく
感心する。
揃い終わると、テンがいないことに気づき、クロロはノブナガに声をかける。

「おい、ノブナガ。テンは、どうした?」
「あいつなら、汗流させてから此処くるように言っといた」
「え、そうなんですか?あー……」

ノブナガの言葉にカレンは声を上げる。それに、全員が訝しんだ目でカレンを見る。それに、うっ……となりながらも、カレンは説明する。と、言っても一言で済むのだが。

「テンちゃん……方向音痴なんです」

カレンの言葉に皆沈黙し、ノブナガに視線を送る。それに、ノブナガは耐えられなくなり、

「ちっ!探してくればいいんだろ!」

と言って立ち上がった。それに、丁度のタイミングでそこの部屋にテンが入ってくる。
それに、皆がテンを見るが、その姿に目を大きく開いた。

「……どうかしました?」
『……誰だ(い)?』

テンがそう問いかけると拍手を送りたくなるようなハモリで、テンを驚かすような言葉を言う。
それに、数秒沈黙が流れる。が、それを、顔を真っ赤にしたカレンが破った。

「テンちゃん!何て格好してるの?服着なよ!」
『テン?』

カレンの言葉に蜘蛛の全員が叫んだ。それに、テンは、現状がわからず頭を掻く。

「……えー、改めてテンです……?」
「そんなこといいから、服!」

テンの今の格好は、シャツ(下着)にズボンというラフな格好で、さっきまでの様な動きにくそうな服ではなくなっている。が、蜘蛛にとって、その辺はどうでも良くて。

「……テン、いくつか質問するから正直に答えろ」
「あ、はい……」
「一つ、お前は、黒髪黒目か?」

クロロの質問に何を今更と不思議そうに首を傾げつつ、

「はい、地毛地目です」
「二つ、お前のさっきまでの髪と目は何だ?」

と、答えればすぐに次の質問が来て先程の質問を理解する。

「鬘とコンタクトです」
「最後だ。お前は、……女なのか?」
「はい、そうですけど……?」

テンの答えに、驚きを隠せない蜘蛛メンバー。それに、?を飛ばしながら一応コートを羽織るテン。カレンはカレンで、オロオロと見守るしか出来なかった。

「……えーっと、何か問題でもありましたか?」

テンの質問にも答えを返さず、固まったままの蜘蛛。が、テンは気分害さず、食卓に並んでいる美味しそうな料理を見て、目を輝かしている。そして丁度、

ぐうぅー……

テンのお腹が盛大に鳴る。それに、蜘蛛の沈黙が壊れ、空気が柔らかく(?)なる。

「くくっ……、冷めないうちにとっとと食べるか」

クロロが笑って料理に箸をつける。他の蜘蛛たちも後からどんどん箸を付けていく。テンも席に着く。

「美味しい!カレン、料理上手だね」
「あ、ありがとうございます……!」

シャルナークに言われ、カレンは、笑顔でお礼を言う。その様子を見ていたテンは、何かを思い出したのか声を上げた。
皆の箸が止まり、視線がテンにいく。
それに、『大したことじゃないんですけど……』と言って重要なことを言う。

「……俺たち、貴方方の名前知らないんですけど」

テンの言葉に皆が今気づいたという顔をする。そして、順々に自己紹介していく。

「俺は、クロロだ。普段は、皆に団長と呼ばれているが好きな様に呼んでくれ」

クロロが第一に名乗り、他の団員も名前を名乗っていく。

「俺は、シャルナーク。よろしくね」
「私はマチだよ。よろしくね」
「俺は、ノブナガだ。よろしくな」

最後の一人の小柄の青年はテンを一瞥した後、興味なさげに料理を食べる。

「……別によろしくする気もないし、名前も言う気も無い。というより必要ないね」

その様子に、テンは、笑顔でとんでもないことを発した。カレンは、顔を青くしていたかもしれない。

「それでは……、『そこの』と呼んでもいいんでしょうか?それとも、『小さいの』がいいですか?」
「……お前、口を慎むよ。お前らは、ワタシたちに生かされてるよ」

フェイタンの殺気がテンに向けられている。が、テンはうっすらと汗をかくもそれに臆した様子も無く、

「そんなことわかってますよ?ただ、貴方を呼ぶ時呼べないですからこう宣言してるんじゃないですか。貴方と
何時までも呼べないでしょう?」

と、言い切る。テンの視界には不機嫌で殺気をビンビンに放っているフェイタンと笑うのをこらえているノブナ
ガ、目を開いているクロロが入っている。
それを、気にせずそんなことをいうテンはある意味命知らずかもしれない。

「……テンちゃん」

カレンの声も空しくテンは、笑顔のままだ。フェイタンは、フェイタンで、怒っているように見える。

「お前、いい加減にするよ。何様のつもりね」
「別に何様と思っていませんよ。ただの、蜘蛛の方々にお世話になっている一般市民(?)です」
「ふざけてるか?」
テンの言葉に更にフェイタンの殺気が倍増する。テンは気絶しそうになるのをなんとか気力で抑え、言い返す。

「こんな状況でふざけるほど馬鹿じゃありませんよ。とにかく、名前を教えていただけませんか?」
「……お前に名乗る気ないよ」
「では、俺の好きな様に呼ばせてもらいますが?」

二人の間に険悪なムードが流れる。いつの間にかテンも殺気を放っている。
フェイタンは、睨み付けたまま、殺気を増やして放っている。重い沈黙が流れる。

「そこまでだ。フェイタン、相手は、素人以下の強さだ。大人気ないぞ。テンもテンで死ぬ気か?」
「そんな気ない(です)よ」

二人は、クロロの言葉にハモって返す。それに、お互いが睨みあい、クロロはため息をつく。

「ご飯、三人ともいらないんですね……」

殺気が収まり、ようやくカレンは言葉を発せられるようになり、三人に言葉を投げかけた。カレンの言葉に三人が食卓を見れば、たくさんあったはずの料理がもうほとんど無い。

「えっ?ちょ、ちょっとー!俺、一口も食ってないー!」

テンは残り少ない料理に慌てて箸を伸ばして食べていく。

「……自業自得ね」
「お前ら二人のせいだろ!」
「(ワタシ/俺)は、関係(ない/ねぇ)よ!っ、お前、ハモんな!」

クロロの言葉にフェイタンとテンの言葉が被り、お互い再び睨みあう。

「食べ終わった方ー、食器はここに乗せてもらえますか?」
「わっ、カレン!もうちょっと待って!」

こうして、この世界での一日目がようやく明けていく。


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