01.ハジマリ

俺等は憧れていた。今の世界も好きだけど、あの自由でスリルがあるあの世界に…

「…ふぅ、終わり!もう、追加とかないよね?」

放送室からおさない少女の叫び声が響く。彼女の名前はカレン。小柄な中1の少女にして、報道部部長である。
彼女は仕事が終わるや否や放送室から出て行った。向かった先は高等部である。カレンが通っている学校は中高一貫なのだ。
カレンが高等部の体育館に着くと、中から声が聞えていた。その扉を静かに開け、中に入ると前にある舞台で演技が行われている。

「何故なんだ?ロザンナ!私と貴女は永遠の愛を誓った仲……!それなのに私よりあいつをえらぶというのか!」
「……ウェルズ郷、私は貴方のことを今でもお慕い申しております……けれど、私はそれ以上にあの方を愛してしまったのです。どうかお許しを……」
「……それでは私の想いは永遠に届かぬということ。ならば私は……その想いごと消え去りましょう!」

ザシュ…!

「……ウェ……ウェルズ郷!!ああ…!私はなんということを…ウェルズ郷……私は、貴方をお忘れしません……」

カーーン!

「はいっ!オッケェー。テン、ナイス演技!感情こもってて良かったよー。小百合先輩もかっこよかったですよ!」

客席から監督らしき女の子の声が響く。その女の子に呼ばれたテンという子それを聞くと、起き上がり、

「ありがとうございます……」

ウェルズ郷の衣装をただし、客席の方に向く。

「テンちゃん、かっこよかったよー!」

テンの視界にはこっちに向かってくるカレンが入る。

「カレン、仕事終わったのか?」
「うん。テンちゃんももうすぐ終わる?」

カレンの言葉に少し悩み、辺りを見回してから、

「あー、後少しかかるかも……もう少し待っててくれ。ごめんな」
「了解ー!じゃ、かっこいいキルア君でも見とくね」

テンは本当にすまなそうな顔をして返す。それにカレンは気にしないで近くの座席に座り、鞄から漫画を取り出す。漫画名は、『HUNTER*HUNTER』。
今、カレンがはまっている漫画である。勿論、テンもはまっている。数十分後、テンはカレンに近づいた。カレンは顔を上げ、

「あれ?着替えなくていいの?」

と、未だにウェルズ郷の格好しているテンに問掛ける。テンは、

「部長にそのまま帰っていい言われた……。俺も早く帰りたかったし。外暗いから、とっとと帰ろう」

カレンは漫画をしまって立ち上がり、並んで学校を出て行く。否、行こうとした。

「あっ!」

カレンは何か思い出したかの様に声を上げる。

「カレン、どうかしたのか?」

それにテンも止まり、首を傾げている。カレンはすまなそうな顔をして、口を開く。

「テンちゃん、ごめんね。理科のノート理科室においてきちゃったんだけど、取りに戻っていい?」
「いいよ。俺もついて行く」

そう言ってテンとカレンは理科室へ歩いて行った。この後起こる事など気づかぬまま……。



「カレン、そっちあったか?」
「全然……誰か持っていっちゃったかな?」

「今すぐ必要じゃないんなら明日の朝、先生に聞いてみたらどうだ?もう、七時だぞ」

テンの言う通り時計は七時を指していた。カレンは、少し考え、

「そうする……。あー、明日当てられるのにー……」

と、答える。それにテンは苦笑しつつ出て行こうとした。

「あれ?何か変な臭いがする……」

カレンがそう呟いた時、カレンの後ろで光が膨張する。テンは急いでカレンを引っ張って出ようとするが、間に合わない。テンは、無意識にカレンを庇って前に立った。そして、光は破裂した……。



今日も無事に仕事が終わり、アジトでそれぞれ、盗ったモノを愛でていた。一人の青年が、皆の輪から離れて、
宝石を愛でている男に近づく。

「団長、それが今回もっとも欲しかった宝石?」

青年の言葉に宝石から目を離さず、男は口を開いた。

「……ああ、一見何処にでもある宝石だが、面白い曰くがついていたんでな」
「ああ、えっーと、これを持っていると奇跡が起こるんだっけ?」
「えっ?団長、奇跡信じているんですか?」

青年と男の会話に眼鏡の女の子が口を挟む。それに、男は少し黙ってしまう。

「いや、信じているわけじゃないが……っと……」

けれど、すぐに口を開いて言い返すも動揺なのか、手の中で弄んでいた宝石を地面に落としてしまう。
宝石は、2〜3回跳ねて、真ん中に落ちると、光を放ち輝き始めた。
それぞれ作業していたメンバーが止めて、それを見る。
光は、だんだん強くなり、辺りを埋め尽くした。光が止んだ時、そこには、カレンとテンが倒れていた。


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