35.気づかぬ進展

『200階に来たら殺り合おうね◇』

目の前の190階の相手と戦いながらテンはヒソカの言葉を思い出し、大きくため息をついた。





時は六日前……。ヒソカとテンは天空闘技場に辿り着いた。
中に入り並べば二人に気づいた周りがざわつく。
テンはそれを不思議に思いつつ、ちらっとヒソカを見ればああ……と納得。
その姿を見れば誰も気になるだろうなぁーとのほほんとしつつ考えていれば、受付の前に。

「天空闘技場へようこそ。 こちらに必要事項をお書き下さい」

そう言われ、目の前に出された紙一枚。テンはそれに首を傾げヒソカを見上げる。

「ボクはもう登録して200階にいるんだよ◇」

漫画の事を思い出し『ふ〜ん』と短く返し必要事項をすーっと視線を通し、書いていく。

「あ、格闘技経験はどうしたらいいんだ?」
「10年ぐらいでいいと思うよ◇その方が早く上にいけるからね◆」

そう言われ、10と書いておく。全部記入し終え受付嬢を提出して奥へ入っていった。

「ヒソカはもう登録済みなんだよな?俺が戦っている間とかどうするんだ?」
「勿論、キミの戦いを見させてもらうよ◆どれくらい成長したか気になるからね……」

ヒソカがそう言い喉を鳴らすのに、テンは小さくため息をついた。





「あなたは50階へ。頑張って下さいね」

勿論、一階の相手にてこずる訳もなく、テンはあっさりと勝ち50階へと上がっていった。

「うん、前よりは動き良くなってたよ◇だけど、ちょっと攻撃とかが荒いね◆」
「そうなのか?クロロに言われた通りに動いたつもりだったんだけどなぁ……」
「もうちょっと足に体重乗せて振り上げないとカウンターで吹っ飛ぶよ◆」

エレベーターで二人50階へと上がる中ヒソカは先程の戦いでの客観的意見を述べる。
と言っても、あの戦いでそれが言えるのは、ヒソカの他に相当な念使いぐらいだろう。
テンは此処に来た頃に比べ、動きもスピードも格段に上がっていた。
本人はそれを此処に来てやっと実感しているみたいだが……。
(まぁ、周りが旅団程の実力なのだからしょうがないのだろうが)

「あ、テン。キミ今日もう一試合組まれるよ◇」
「あ?……ああ、そうか。無傷だからだっけ?」
「そうだよ◇ボク観客席でまた見てるから」

ヒソカの言葉に『はいはい』と短く返し、丁度着いたエレベーターから降りれば、アナウンスの声。

「ナイスタイミング◇」

ヒソカの言葉に再びエレベーターに戻り、上がっていった。





「あ、そーいや此処ってさ、100階からじゃないと個室貰えないんだよな?」

50階での試合も終わり、今日の試合が終わったテンは軽く伸びをし、天空闘技場のシステムを思い出す。
100階から個室……。すなわち、50階が終わって60階に上がったテンに個室はない。
外に宿を取るか、野宿しか道は無い。上に上っているエレベーターの中でテンの言葉に人の良さそうな笑みを浮べるヒソカ。

「大丈夫だよ◇僕の部屋に来ればいい」
「お前の部屋ぁ?」

ヒソカの言葉に訝しんだ視線を向ける。ヒソカは変わらず笑みを浮べている。テンはそれを眺めつつ、頭を回転させた。
今の時間はもう0時を回っていて今から宿を探せば、1時を過ぎる事は確実だろう。
それに、宿の部屋が空いているとは限らない。野宿の確率の方が高いだろう。

「……武術の稽古、それ付きなら行ってやる」
「相変わらずな態度だねぇ……◆良いよ。武術の稽古は勿論入れるつもりだからね◇」

ヒソカは肩をすくめ、200階についたエレベーターからテンをつれ降りた。





2時頃に武術の稽古も終わり、テンはヒソカの好意により先にシャワーを浴びて出てくる。
来る時に持ってきた持ち物の中から一番ラフな服を取り出し部屋に戻れば一人の青年。

「おや、上がったのかい?」

否、メイクを落としたヒソカ。初めて見るヒソカの素顔にテンは視線を外さず瞬きする。

「?どうかしたのかい?」
「……いや、メイク取ったヒソカ見んの初めてだなぁ〜って。結構綺麗な顔してんのに、何でメイクなんかしてんだ?」

テンの言葉に今度はヒソカが目を瞬かせた。不思議そうに首を傾げるテン。

「クククッ、テンの口からそんな言葉が出るとは思わなかったよ◇」
「何だ、メイクを取ってるヒソカは変だと言って欲しかったのか?」
「そっちの方がキミらしいよ◆今思えば、テンのボクに対する態度は丸くなったのかもね」

ヒソカの言葉に小さくため息をついて、『何時までもあんな態度でいる訳にもいかないだろ』とぶっきら棒に返す。
再びヒソカは喉を鳴らす。テンはベッドに座り込み、頭をタオルで拭き始めた。
どうやら会話は終了したようで、ヒソカもそれ以上会話を繋げようとする気は無く、風呂へと向かっていった。





「いや、別に予想はしてたけどな……」

寝る場所としてソファに座っているとヒソカが風呂から出てきた。
その姿にテンは頭を抱え大きくため息をつく。
腰にタオル一枚のヒソカをもう一度見、再び大きなため息。

「俺が言うのも何だけどな……お前、一応軽くでも良いから服着ろよな」
「おや、テンもそんな事気にするのかい?」

ヒソカは薄く笑いながら心外だという表情を浮べる。テンは少し顔を染め、ヒソカから視線をずらす。

「その格好はどんな奴でも目のやり場に困んだろ」
「今度から気をつけるよ◆で、先に寝てても良かったのに、なんでまだ起きているんだい?」

時計を見ればもう4時。もう数時間もすれば夜も明けるだろう。
テンも普段こんな時間まで起きないためか半分うとうとし始めている。
欠伸を噛み殺しながら、ヒソカを見上げる。

「今から寝ようとしたんだよ」
「何でそこで寝るんだい?ベッドで寝れば良いのに……◆」
「ヒソカ言えども泊めてくれてるしな。そんな泊めてもらってる奴がベッド使えるか」

再びテンは欠伸を噛み殺して、伸びをする。ヒソカはその様子に肩をすくめ呆れた視線を送る。

「テンって本当に律儀なんだね……◇」
「別に良いだろう……。兎に角、俺は寝たいんだ」
「じゃあ、一緒のベッドで寝るかい?」

ヒソカは冗談半分でそう問いかければ、予想通りにテンの驚きの視線を受ける。

「……お前、本気でそんな事言ってんのか?お前を最初から嫌っている奴に」
「おや、その嫌っている人の部屋に泊まっているのは誰だい?
泊まらせている部屋主が良いよって言ってるんだからベッドを使えば良いのに◆」

そのヒソカの言葉に何かを言い返そうと口を開くも、言葉を紡がず口を閉じる。

「……ったく、俺は眠いっつてんだろ」

そう言いながら、テンはソファから立ち上がり、ベッドの方へと向かう。

「枕は俺使わねぇから、お前が使えよ。変な事したら即刻蜘蛛から違う奴呼んでホテルに泊まるからな」

「……ククッ、冗談だったのに◇」

その小さなヒソカの呟きがテンに聞こえる訳も無く、『ん?』と問いかけてきたテンにヒソカは『何でも無いよ◆』と返す。

「あ、ちゃんと服着ろよ。そんな格好の奴とは死んでも寝たくねぇ」
「はいはい◆」

ヒソカはテンに言われた通り服を着、寝ようとベッドに向かえばもう眠ってしまっているテン。
先程まで警戒していたテンの無防備な寝顔を無言で眺め、小さくため息をつく。


「キミはボクの気持ちに気づいているのかい?」


あの冗談が本気に取られるとは思わなかった……

自分でも聞こえるかどうか分からない小さな声でヒソカはそう呟いた。





「テン選手、190階一発クリア――――!!」

試合が終わったテンは軽く整理運動をし、闘技場から下りて観客席にいるヒソカの元へ駆け寄った。


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