31.日常

「……そういや」

テンの何気ない言葉に小さな戦いが勃発した……。

「どうした?テン」

テンの言葉にクロロは本から顔を上げずに、問いかける。周りもテンを見ている。

「……こんなこと聞くのもなんだけど、こん中で一番腕相撲強いのって誰?」

ふとテンは漫画のことを思い出していたのだが、腕相撲のランキングが所々抜けていたので気になったのだ。
それに、クロロは本から顔を上げ、顎に手を当て小さく唸る。

「……確か、一番はウボーが強かったぞ。そして、次がフィンクス、三番目がヒソカだ」
「へぇー……、で、クロロは?」

テンがそのことを聞くと、沈黙が降りる。それに、?を浮べる。それに、場の空気を読まない声が響く。

「団長は、7位よ。強くなければ弱くも無いよ」
「へぇー、戦闘能力と腕相撲の順位って一緒じゃないんだな……」
「っ、いや、今からやるから順位が変わるかもしれん」

テンの言葉にクロロは本をバタンと閉じ、立ち上がる。はっ?と言った驚きの目で見るテンたち。

「何している、やるぞ?」

クロロは側にある石の台を真ん中において声をかける。テンはそれに近くにいたシャルに問いかける。

「……俺、何か地雷踏んだのか?」
「テンが……というよりテンとフェイタンが、だね」

軽く苦笑しながらシャルは答える。そのフェイタンは気にせず本に没頭している。題名は『世界が怯えた!!世界の拷問器具ベスト100』。
その本を目を細めながら読んでいる。それを、凄いなぁと眺める。それに気づいたのかフェイタンが顔を挙げ、

「テン、ちょとこの拷問体験してみないか?」
「やりません」

と問いかけてくるのを内容も見ずに即答で返す。『そうか……』とフェイタンは残念そうに呟く。

「ほら、テン、フェイタン。腕相撲やろうよ」

シャルが石の台の近くから声をかけてくる。どうやら、ここにいるメンバーたちが集合してきたらしい。

「面倒……」
「なんでやらなきゃいけないね……」
「せっかくなんだしやろうよvじゃ……」

後ろから声が聞こえてきて、テンは反射的に身体をビクつかせその場から離れる。言葉を遮るように、座っていた瓦礫を蹴り、離れ、テンがいた場所に軽く足跡が残る。
自分でも驚く早さだった。テンの顔は若干青くなっていてヒソカを睨む。フェイタンはヒソカが近いからなのか殺気立っている。

「なんで、お前が此処にいるんだよ!用事じゃないのか?」
「ああ、それは暇つぶしだよ◇本当の用事はもうちょっと先じゃないかな?」
「クロロ!本当にあいつもやるのか?だったら俺はやりたくない!むしろ、この空間から出て行きたい!」

テンはヒソカから目を逸らし、クロロを見る。若干、クロロの目がテンを哀れんでいる。それだけ、顔が青いのだろう。
だが、それで『やめよう』と言うクロロではない。むしろ、そんなこと言ったら、誰?という状況になる。

「ワタシもやらないよ。しかも、これがいるなんてやてられないよ」

フェイタンの言葉にクロロはわざとらしく考える振りをする。

「そうか。残念だな。この間新しい拷問器具の情報が手に入ったんだが……。捨ててしまっても大丈夫か」

その言葉に反応を示すフェイタン。そして、しばらくした後、

「……やるよ。ただし、ヒソカとはやらないね」

と答え、石の上から降りてくる。そうすると、やらないと拒否の意を表すのはテンだけになるわけで。

「テン、腕相撲やろようよv」
「だーかーら!」
「バラすよv」

ヒソカの言葉にテンは綺麗に動きを止め、頭を抱える。

「……あー、やります。……どうして俺あん時ヒソカと会ったんだろう……」

テンは返事しながら嘆きだす。それに、何だ?と言った目がヒソカに向く。

「……ヒソカ、言ったらキレるぞ」
「わかってるよvボクと君の二人きりの約束だしねv」
「……なんか、それはそれでムカつくな……とにかく、やるならやるぞ!」

こうして、緊急腕相撲大会が始まったのであった……。



「今この場にいない女性陣とテンがまだあっていない奴、ノブナガを除いてやるぞ。いない奴の順位はそのままだ」

クロロが順位について軽く説明をする。テンは適当に『ふ〜ん』と相槌を打っておく。

「で、まず誰と誰がやるの?」
「そうだな。テン、お前は順位がないから先にやれ。そうすると、順位的に相手は……シャル、お前だ」
「えっ!そうだっけ……。まぁ、いいや」

テンとシャルは石の台の上で手を組む。

「……腕相撲って、相手の手の甲をこの台につければいいんだよな?」
「そうだけど、テンって腕相撲知らないの?」
「違う。もう何年もやってないからうろ覚えだっただけだ」

テンの言葉が終わるぐらいにクロロから『準備はいいか?』と問いかけが入る。それに、両者無言で返す。

「レディー……ゴー!」

試合開始がされる。ミシッ!と音が鳴る。両者一歩も引かず、互角の戦いをする。
しばらくして、シャルの手の甲が台につく。テンはそれを確認すると、手を離し、息を吐く。

「……シャル、強いなぁー。どんな、特訓してんの?」
「はぁ?失礼だね。俺だってこれぐらいの力はあるよ」
「でも念で筋肉とかを強化してたよねv」

ヒソカの言葉にテンは声を上げるも、小さく誰の耳にも届かない。シャルは何を当たり前のことを、という眼差しでヒソカを見やる。

「当たり前だろ。念能力同士の腕相撲なんだし……」
「テンは、念使ってなかったけどねv」
「え、嘘……?」

ヒソカの言葉に今度はシャルが驚き、テンに視線を送る。テンは気まずそうに口を開く。

「え……腕相撲って念使わねぇんじゃ……」
「……嘘」

テンの言葉にシャルは呆然とする。ヒソカはその様子に『クックックッ……v』と喉を鳴らす。

「ということは、シャル、お前は念なしのテンに負けたんだな」
「うっ……!」

クロロの言葉にシャルはトドメを指される。それを横目に、

「続きやろうよ……」

と促せば、皆気にせず、『そうだな』と言って腕相撲を再開させる。

「次、誰?」
「次は団長よ」

フェイタンの言葉にクロロが振り返り台に近づき、手を置く。

「どうして此処までやる気なんだか……」
「どうした?早くやるぞ」

きっと聞こえているであろうテンの呟きをクロロは聞こえぬ振りをし、急かす。テンはため息をつき、『凝』をしてみる。
一定量のオーラがクロロの右手に集中している。それに、深呼吸を一回。テンも右手にオーラを集中させる。

「んじゃ、いくよ。レディー……ゴー!」

何時立ち直ったのかシャルがクロロとテンの手の上に手を置き、試合開始を唱える。
グッ!と音を立て、一瞬互角に見えるが、しばらくしてクロロの手が台につく。

「よし!クロロに勝った!」

つい、テンはそう叫び、ガッツポーズをする。その様子に、ウボーがテンの頭を大笑いしながら撫でる。

「良かったじゃねぇか!案外強ぇな!」
「ちょ、ウボー!頭を撫でるな!髪がぐしゃぐしゃになるだろう!」

そう叫ぶテンの顔は軽く朱に染まっている。その様子にヒソカだけが気づい、小さく喉を鳴らして笑う。

「あーあ、団長。負けたね」
「シャルも負けただろう。念を使っていないというハンデのもとで」

ここから離れた所でクロロとシャルの言い合いが始まる。それを、はぁ……と軽くため息をつきながら眺める。

「テン、気にしないことね。それより、ワタシとやるよ」

どうやら次はフェイタンらしい。テンは確認のため『凝』をする。フェイタンも腕にオーラが集まっている。
テンは『凝』を止め、腕にオーラを集中させる。

「んじゃ、俺がやるか。行くぞ……。ゴー」

気の抜けたフィンクスの合図にフェイタンとの試合が始まる。ミシッ……!と音が響く。両者共に一歩も引かない。
少しテンの方に手が傾く。が、すぐに持ち直される。今度はフェイタンの方に手が傾く。これもすぐに持ち直される。
否、持ち直されたかのように見えたがまた傾き、寸でのところで形勢逆転し、テンの手がつく。

「……疲れたー」

それを確認し、テンは息を吐きながら手を離す。手にはまだ痺れが残っていて、小さく震えている。
フェイタンは目を細め、手を軽く開いたり閉じたりとしている。

「まだまだだけど、前より強くなたな。折角だし、他の奴ともやるといいね」
「フェイタンに褒められるとは……、じゃあ次は?」

驚きながらも折角だし、とテンが辺りを見回せば、ニコニコしているヒソカが目につく。テンは嫌な予感がした。

「ボクだよv」
「却下。やっぱ、やらない……」
「大丈夫v念は使わないであげるよ◇」

ヒソカの言葉に『ウゼェ……』と小さく呟く。テンの眉間にもシワがよっている。が、それはすぐに取れ、

「ふぁー……。っと、今何時?」

テンは大きく欠伸をしながら時間を問う。それに、言い合いが終わっていたのかシャルが『4時だよ』と言ってくる。

「……マジかよ。そんなに時間かかってたか?」
「まぁ、始めた時間も遅かったしな。眠いなら寝て来い。腕相撲の続きはまた今度でもいいだろ」

それを聞き、テンはもう一度欠伸をし、『んじゃ、おやすみ』と言って広間から出ていく。広間には蜘蛛だけになる。

「……テン、元気そうで良かったね。疲れていたけど」
「所々、空元気に見えるがな。まぁ、あれぐらいならこれからの仕事には支障は無い」
「テンはそれくらいで辛いの見せる奴じゃないよ」

シャルたちはテンが出て行った扉を見、そう呟く。それに、急に扉が開き、テンが不機嫌な顔で戻ってきた。

「どうし……」

クロロがその様子に何かを問いかけるが、テンが息を吸って、

「心配してんのかわかんねぇけど、変な気を使うなよ!確かに俺にとってカレンとの別れは辛かったが、自分で決めたものだ!お前らにとやかく言われる筋合いは無い!それに、そんな気を使われるとこっちが困る!」

と叫ぶ。どうやら、今の会話を扉の前で『絶』をして聞いていたらしい。その『絶』の上達振りに『ほぉ……』と呟き目を細める蜘蛛。

「……それと、」

テンは一回言葉を切り、彼らに聞こえたかはわからないが、呟き扉を閉める。

「……ありがとう。此処にいさせてくれて……」

と。
地獄耳並みのクロロには勿論、その場にいた蜘蛛たちにはその言葉が届いていた……。


 top 




- ナノ -