25.騎士(ナイト)

「……あー、久々の光」
「カタカタカタカタ……」

すでにギタラクルの姿に戻っていたイルミがテンの言葉に音を鳴らす。
すると、テンは彼を睨み、口を開く。

「うっさい。引きこもりの言葉で悪かったな」
「……カタカタ、よくわかったね」
「君達いつの間に仲良くなったんだい?」

テン、ヒソカ、ギタラクル(イルミ)の三人の組み合わせを横目に受験生たちはタワーの外へ出て行く。
もちろん、その組み合わせを遠くから見ていた主人公組は、テンに対し色々言い始める。

「……テンの奴、異様に浮いてねぇか?」
「まぁ、彼らと普通に会話してるのは恐らくテンだけだろう」
「そうなんですか?」

カレンは蜘蛛のアジトでのヒソカとの出会いを思い出す。もちろん、そんなことなど知らないクラピカは首を縦に振る。

「でも、よく考えてみろよ。むしろ、あいつらが他の受験生と和気あいあいに会話してても変だろ」
「……確かに、それはちょっと……」

キルアの言葉にカレンはその絵を想像し、あまりにも似合わなさすぎて思わず笑いそうになる。

「それではタワーを脱出した順にクジを引いてもらおう」

いつの間にか終わっていた説明後の試験官の言葉にヒソカがズイっと前に出る。

「あ、イ……じゃなくて、えーっと何だっけ?ギタラルク?」
「ギタラクル」

テンの間違いにさすがのイルミも声を出して直す。テンは『ああ、ごめん!』と謝り、話を戻す。

「どっちが先引く?」
「どっちでもいいよ。君が先、引きなよ」
「ありがと」

小声で話し、ヒソカが引き終えて戻ってくるのと同時に前に出て引く。

「あいつ二番だったのかよ……」
「テンちゃんですから……。けど、やっぱり凄いなぁー」

カレンの言葉にキルアがつまらなさそうな顔をしてそれを見つめる。隣にいたゴンは不思議そうに問いかける。

「キルア、どうしたの?」
「……なんでもない」

引いて戻ってくるまでに主人公組で会話が行われる。それに、一回くしゃみをしてしまう。

「……あー、やっぱタワーで薄着すぎたか?ヒソカの野郎」

もちろん、そんなこと知るわけもなく、テンはあの後起こされ、待ち時間やっていった野球拳的な賭けつきトランプゲームについての文句を言っていた。
入れ違いでイルミが前に出て行く。そんな感じで全員がクジを引き終わる。
試験官は全員が引き終わるのを確認すると引き続き今回の試験課目を説明する。
それが終わると二時間、船で移動となった。



「一番の方スタート!」

船が着くと、案内人の女性が改めて第四次試験の内容を説明する。そして、一番目のヒソカが船を下りていく。

「二番の方スタート!」

二分後、テンが船を下りる。そして、船から数メートル離れたところで立ち止まり、ヒソカの位置を確認する。
とりあえず、近くにいないことを確認し、中へ入っていった。次々二分間隔で人が入っていく。

「二十二番スタート」

順番を呼ばれ、カレンがスタートする。カレンは先に行った人の中で自分がターゲットの人がいないことを願った。
さっきの自由時間キルアとゴンとカードを見せ合い、三人それぞれターゲットでないことを確認した。
もちろん、ゴンは『44』、キルアは『199』で、原作と変わりなかった。

「……どうしよう」
「気にすんなって!俺が代わりにとってやるよ」

カレンはキルアと一緒に行動していた。カレンのターゲットを見たキルアはカレンの代わり取ってくるといっていた。

「いいよ!キルア君には悪いよ!」
「そんなことねぇって!俺はお前の役に立ちてぇんだ!」

キルアの言葉にカレンは疑問を浮べる。

「なんで?カレン、キルア君に何もしてないよ?そんなキルア君に助けられてばっかりなんて……」
「違う!俺はカレンに助けられてるんだ。だから俺はカレンの役に立ちたいんだ」

そのキルアの言葉が胸に響く。カレン自身ずっと人の役に立ちたいと思っていた。
けれど、今この時もずっとキルアの足を引っ張っているように感じてならなかった。
なのにキルアはカレンに助けられているという。その言葉はカレンが求めていた言葉だった。

「……キルア君、ありがとう」




一方テンは自分の引いた札を眺めていた。

「どうしようかな……、盗ろうと思えば簡単なんだろうけど」

独り言が森の中で小さく響く。今回テンのターゲットは『98』。
ずーっと悩んでいた。船に乗っている時から。カレンと出会うことなど無く、ただ一人で。

「どうしよう……」

また呟く。例え呟いたからと言って良い方向に向くわけでもない。けれど、テンは呟かずにはいられなかった。

「……とにかく行動は2,3日見送るか」

テンはそう呟き今座っている木の上で寝始めた……。



2,3日はあっという間に過ぎ、テンは行動を始めた。まずは『円』をし、回りを探る。
知っている気配が二つと知らない気配が一つ。『あいつらか……』と呟き、『絶』をしながら木の上を走る。
辿りついた場所の近くに川があり、川から数十メートル離れた所に二人はいた。
彼らは笑っていた。それがあの時の出来事を思い出し、テンの胸に痛みを引き起こす。
が、テンは大きく頭を振り、当初の作戦を実行する。テンは手に持っていた大きめの石を川に投げる。
石は大きい音を響かせ水の中に沈んでいく。二人は笑い合うのを止め、警戒し始める。
それに、聞こえなかったが2,3言喋ると少年の方が川の方へと向かっていった。
その様子を見届けると、テンは静かに気配を消したまま少女の後ろへ降り、口を塞ぐ。
一瞬少女の身体が震えたが、小さく耳元で『カレン、俺だ』と言う。それに、少女は警戒を解いた。
カレンがゆっくりとこちらに向く。

「テンちゃん……」

カレンは悲しそうな顔でテンを見る。テンはそれに多少の疑問を覚えつつ、

「……カレン、急に気配消して出てきて悪かった。けど、二人きりで話したかった」

と切り出す。それに、カレンは少し俯く。カレンの表情が見えなかったが、テンは唾を飲み込み口を開いた。

「その、ごめん」

そのテンの言葉にカレンは顔を上げる。

「なんで、テンちゃんが謝るの?あそこから勝手に出て行ったのはカレンなのに……」
「違う。俺のせいなんだ。俺が、カレンのこと考えてなかったから……」
「違うよ。テンちゃんはいつもカレンのことばっかり考えて自分のことは後回し。カレンはいつもそれに甘えちゃってたんだよ」

そのカレンの言葉にテンは首を振る。違うと首を振りながらパクノダに言われたことを思い出す。

「……違う。俺に力がなかったんだ。カレンがあの空間で生きるため、居場所を守る……そんな力が俺にはなかった」

そこで一回切り、テンは息を吸う。まるで、認めたくないかのように。

「だから、俺はカレンを蜘蛛から追い出してしまった……」

カレンはテンの言葉に何も言わず、再び顔を俯かせた。

「結局、弱かった俺はカレンが傷ついていたのも気付けなかった……。本当は気づいていなければならなかったのに……」

テンの言葉にカレンは何かを呟く。何と言ったのか、テンは聞き取れなかったが顔を上げたカレンに言葉を飲み込んだ。

「……ょ。もう、止めてテンちゃん……。もうそれ以上自分を責めないで」

カレンの目からは沢山の雫が溢れている。テンは止めることもできず、ただそれを見つめていた。

「カレンは、自分、自身の意志であそこを、出ていった、の……!テンちゃんは、関係な、いよ!」

カレンの言葉にテンは沈黙で返す。カレンは涙を流し続け、言葉を続ける。

「カレンは、今のまま、じゃ駄目だ、って……。テンちゃんはどんどん、強くなって、いってるのに、カレンは変わらずで……。
それでも、こんなカレンが誰かの役に立てるなら、って……ただ、そう思って、」

カレンの言葉に返せる言葉が見つからず、泣き続けているカレンに背を向けた。

「……泣かしてゴメン」

ようやく見つかったのは慰めには程遠い謝罪の言葉で、テンは小さく発し、森の中に姿を消そうとする。

「カレン、何も……てめぇ、カレンに何をしたんだよ!」

それに丁度様子を見てきたキルアが帰ってきて、今の状況に殺気立つ。
それに、テンは零れそうになった涙をなんとかこらえ、平然とした態度で振り返った。

「何もしていないよ。ただ、君が帰ってくるまでお相手していただけさ。こんな物騒な所に一人置かれて、もし襲われていたらどうするつもりだったんだ?」
「だったら、何泣かしてんだよ!」

テンは今までの空気を感じさせない口調で言う。キルアはテンの言葉に殺気を多少抑えるも、睨みは外さない。
テンはその問いに無言で胸につけていたプレートを外した。

「泣かしてしまうのは予想外でね。私のプレートを渡そう。どうせ、1点しかなら無いと思うが」
「いや、結構だよ。丁度こいつのターゲットがあんたなんだ」

テンは驚きの表情は出さなかったものの目を明く。カレンはどうしたらよいか迷っている。
しかし、迷っている内にテンのプレートはキルアの手元へ移動する。

「ちなみにあんたのターゲットは?」
「俺か……。『80』だよ」

テンの言葉にキルアは軽く安堵し、『消えろ』と目で言う。テンは、カレン達に別れを告げ、今来た道を戻った。




キルアたちから離れて、しばらくしテンは足を止めた。手には『98』と書かれた札。グシャと握り締め、捨てる。

「これで良かったんだよな……」

テンはぽつりと呟く。すると、先ほど抑えていた涙が零れた。
今頃、キルアがカレンを上手く慰めているのだろう。いつの間にか、カレンを守るポジションはテンではなくなっていた。
いや、ずっと守っていたつもりが所詮、ごっこ遊びの域だったのかもしれない。
テンの涙は止まらなかった。

「おや、テンv何してるんだい?」

急に声をかけられ、テンは慌てて目元を擦るも、涙は止まらなかった。
数メートルの距離で立ち止まった相手にテンは振り返らず、呼びかけに応じた。

「こっちの台詞だ。なんで、こんなところにいるんだよ。もう狩り終わったのか?」
「ああ、昨日6点分集まったよ◇テンはもう集めたのかい?」

ヒソカの言葉にどう答えるべきかと、沈黙で返す。その様子に、一つの考えがヒソカの頭に浮かぶ。

「君のターゲットはカレン、だった◆けれど、君は彼女のプレートが奪えず、困っている◇そんなところかい?」

ヒソカの掠っているような考えにテンは隠すことを諦め、振り返った。ヒソカが目を一瞬目を丸くしたが、普段の表情に戻る。

「俺のターゲットはカレンだった。で、カレンのターゲットは俺だった」
「それで君自身のプレートを彼女に上げてきちゃったのかい?とんだお人好しだね◆もしくは馬鹿だ◆」

ヒソカの言葉にテンは隠しきれない自嘲の笑みを零す。

「本当、そうだよな……。全く、俺は」
「で、どうするんだい?今回のハンター試験は諦めるのかい?」

半ば遮るようにヒソカが問いかければ、テンは驚いたように口を開く。

「まさか。これとそれは別だろ。6点分を稼ぐさ。まだ四日あるんだ、すぐ集まるだろ」
「じゃあ、ウジウジしてないでとっとと行っておいでよ◇普段の君じゃないとこっちも気が狂うよ◆」

ヒソカはテンの頭に手を伸ばすも、寸でのところでテンに払われる。

「お前はいつも気が狂ってるだろ」
「酷い言い草だな◆」

テンはヒソカを睨んでいると、丁度プレートが頭の上に降ってきた。掴んで見れば『197』。

「おや、あっさり1点分が入ったね◇」
「残り5点分も降ってきたら楽なんだがな……。そろそろ行く。じゃあな」

ヒソカの言葉を待たず、テンはその場を去った。涙はいつの間にか止まっていた。





それをポケットに入れ、まず目当ての人を探す。

「ゴール付近か……?」

テンは『円』を最大限まで広げ、辺りを確認する。近くに一つずつの気配しかない。
はぁーとため息をつき一人一人確認していく。最後で見つける。テンは『絶』近づくとそのまま手刀で気絶させる。

「悪いな、ポックル。さすがにお前をあの場所に行かせることは出来ない」

そう倒れた人に呟き、プレートを奪う。『53』と『105』。
次の獲物を探しに行く。とはいえ、反応があってもプレートが取られた後の人などが多かった。
テンはため息をつきながら『円』で一人一人探し、ある人を見つけ後をつける。
テンはそいつの前に出て行き、交換を持ちかけた。
相手は渋っていたが三枚持っているのは面倒らしく素直に応じてくれた。
これで、テンの持ち点は5点になった。あと1点だが、残り一日でしかも夜でないと取れない。
テンはをため息をつき、近くの現場になりえそうな場所に行き夜に備え仮眠を取る。
時間はあっという間に夜になり、『円』で見ると近くで4人のオーラが固まっている。
テンは素早く其処へ行き、3人が消えるのを確認し、木にもたれている少女に近づきプレートを取った。
ようやく、6点分のプレートが集まった頃、島全体に四次試験終了の放送が響いた。


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