23.二人きり

三次試験は二次試験とは違う場所で行うらしく、飛行船で移動らしい。
それに、皆が次々乗って行く中テンは最後尾でとても大きい飛行船を見上げた。
記憶が間違っていなければ、今日はこの中で一日を過ごさなければならない。
テンは小さくため息をついた。

「テンちゃーん!早く乗らないと置いてかれちゃうよ!」

飛行船からカレンが首を出して叫んでいる。それに、短く返事し乗り込んだ。


夜になるとネテロ会長の紹介が始まり、一次試験会場で札を配っていた男に次の試験について軽く説明される。

「こちらから連絡するまで各自自由に時間をお使いください」
「ゴン!カレン!飛行船の中探検しようぜ!」
『うん!』

キルアの言葉に二人は声をそろえて答える。その様子をテンは遠くから眺め、ヒソカに近づくか、クラピカと親交を深めるか考える。
一人でいてもいいのだが暇で仕方が無い。ハンター試験に来てまで暇は面白くない。
……冷静に考えれば、暇ではなかった。暇では……。ただ、終始イライラしていたため、こんな時ぐらいヒソカの顔を見ないでいたい。
そうだ、そうしよう。
テンはごたごたした受験生の中からクラピカを探そうとする。特徴的な姿なためすぐ見つかるかと思えば、なかなか見つからない。

「もっと奥の方かなぁ……」
「テン、どうしたんだ?」

後ろを向くと、女らしい顔を持っている少年--クラピカに声をかけられる。テンは見つかったことにより嬉しそうな声で言葉を発する。

「クラピカを探してたとこなんだ。飛行船の中で一緒に過ごそうと思って」

それに、クラピカは目を丸めるもすぐに微笑む。

「そうか、じゃあ、向こうに場所を取ってる。そちらに行こう」

クラピカに言われ、連れて行かれた場所にすでに一人の男がいた。男はクラピカに気づくと手を挙げる。

「探してた奴は見つかったか?」
「ああ、丁度彼も私を探していたようだ」
「探してたの?」

クラピカの言葉に驚きを隠さず、問いかける。クラピカは一度頷いて口を開く。

「ヌメーレ湿原でヒソカに襲われた時、お前の合図によって私たちは無事だった。礼を言いたくてな」
「まぁ、俺はあの後戻っちまったけど、あの時合図がなければ早く死んでたかもしんねぇしな」

二人の言葉に声には出さず、ああ……と思い出す。あの後のせいかすっかり忘れていた。

「紹介が遅れた。俺はレオリオだ。よろしくな」
「あ、俺はテン。よろしくな。レオリオ」

自己紹介をしてないことに気づき、テンはレオリオと握手を交わす。ついでにヌメーレ湿原で気になったことを思い出す。

「そういや、クラピカ」
「どうした?」
「いや、あのヒソカが去った後、ゴンと自己紹介交わしただろ?その時、警戒してたのになんで礼言いたいだけで俺を探してたのかなーって」

いつ何がきっかけで警戒が取れたのか全くわからない。というか、そもそも礼のためだけに呼ばれたのかすらわからない。
すると、クラピカが小さくため息をついた。

「一次試験の会場でヒソカと一緒に問題起こしていただろ?ならば、その連れを警戒しない理由はない」
「なっ、問題を起こしたのは奴だけだろ!俺は起こしてねぇよ!」

クラピカの言った事実にテンは問題を起こした意識はないのか、抗議の声を上げる。更にレオリオまでがため息をついた。

「人一人殴ってヒソカと騒いで問題起こしてないという方が無理あんだろ」
「あれは、避けるあいつが悪い!……で、それなら、今も警戒対象だろ?」

二人のため息に反論する気をなくしたテンは話を切り替える。

「森林公園でブタの丸焼きの時、カレンと一緒に行動しただろ?カレンと知り合いなら警戒に値しないと思ったんだ。カレンからは悪意も何も感じなかったしな」
「……へぇー」

そりゃ、そうだ……と心の中で呟き、三人は次の試験に備えて寝ることにした。




「結構広かったね……」

一方カレン、キルア、ゴンのグループは、夜景の見える席で探検してきた感想を述べている。数秒、沈黙が走り、飛行船が雲の中を抜ける。

「うわすげー!」
「宝石みたいだね」
「綺麗……」

雲から抜け、夜景が出てくると口々に感想を述べる。述べた後また沈黙が走る。

「……キルアさぁ、」

ゴンが沈黙を破る。それに、聞いているのか分からない声を上げるキルア。

「キルアの父さんと母さんは?」
「んー?生きてるよー……多分」

ゴンとキルアの会話にカレンは口を挟まず聞いている。

「何している人なの?」
「殺人鬼」
「両方とも?」

ゴンの言葉に目を明くキルア。そして、突然笑いだす。

「面白いなお前……マジ面でそんなこと聞き返してきたのお前が初めてだぜ……」
「え?だって本当なんでしょ」

ゴンの言葉にまた沈黙が走る。

「なんでわかるの?」
「なんとなく」

ゴンとキルアはキルアの家についての話に夢中になっていく。
その様子にカレンはこっそりと抜け出し、シャワーを浴びてこようとする。すると、正面から急にもの凄い殺気が放たれた。

「きゃっ!」

その殺気とカレンの悲鳴にゴンとキルアはカレンの方に振り向いた。カレンは驚いて座り込んでいる。
そして、カレンとは反対方向からネテロ会長が飄々とした表情でやってくる。
一瞬キルアとネテロ会長との間に火花が散る。どうやらあのゲームが始まるシーンらしい。
カレンはそれを思い出し、どうしようか悩む。

「で、ぬしはどうじゃ?」
「はい?」

急に振られ、多少声が上がって問いかける。隣からキルアが『ボールゲームやるかどうか』と教えてくれる。それにお礼を言い、

「いえ、眠いので……」

と断る。それにキルアはカレンを気遣ってか、『とっとと寝てこいよ』と声をかける。
それに頷き、取っておいた場所へ行きすぐ寝てしまった……。




そして、午前1時過ぎたぐらいに目が覚める。ふと、キルアのことを思い出し様子を見に行く。
少し進むとゴンの声が聞こえてくる。まだやっているらしい。それに、軽く驚きながらキルアの声を聞き取ろうとするが聞き取れない。

(いない……のかな?キルア君何処だろう……)

カレンはキルアのことが心配になり、もう少し其処へ近づこうとすると、誰かにぶつかった。

「あ、す、すいません!」

カレンが謝っても相手は何も答えない。不審に思い顔を上げると同時に、丁度雲に隠れていた月も顔を出す。
月明かりによって相手の驚きに溢れた顔が青白く照らされる。後ろには元・受験生だろう。
バラバラになった死体が散乱していて、血が流れている。殺されたばかりなのだろう。
目の前の相手を見れば、肩とかに赤いものがついている。
それに、カレンはすぐ相手を誰か察し、何をしたのかを思い出す。

「キルア君……」

が、なぜかカレンは自然と安心し、微笑む。それに、彼の顔はもっと驚きを増す。

「暗かったから知らない人かと思っちゃった。キルア君はもう終わったの?」

カレンはキルアがしていたことを知っているのを微塵に感じさせず、問いかける。
キルアが戸惑いながら肯定すれば、カレンは笑顔で口を開く。

「お疲れ様!」

キルアは何も言えず、下を向く。それをただ静かに見つめる。

「……一緒に寝ようぜ」

キルアは顔を上げ、カレンに言う。カレンは『いいよ』と微笑みながら二人並びながらさっきの場所へと戻っていった。




次の日目的地へ一時間半遅れて到着する。そこは何もなくただ高い場所だった。
そこから下を眺めるが霧で隠され全然見えない。そこに受験生たちは下ろされた。
説明は『制限時間72時間の間に生きて下まで降りてくること』
ただそれだけ。受験生たちはタワーの上でウロウロしながら降りる方法を探していた。

「カレン、何やってるん……だ!」

ふと一人の少女が不思議な鞄からパラシュートを取り出している。その子にテンは声をかけようとするが誰かに押される。
こけるほどでもなかったが、急なことに踏み止まろうと足を出したところに運悪く入り口があり、落ちていく。
気づかずカレンは後ろを見るが、押した本人もテンもすでにいなかった。




「……とっ」

落ちたテンは急なことだったが慌てず落ち着いて着地する。辺りを見回すと、看板を見つける。

『二人の道
 今から二人でこの道をクリアしてもらう』

シンプルな説明文に気配を消してある人物の方へ向く。

「……なんだ、イルミ・ゾルディックか」
「何で名前知ってんの?」

テンの言葉に変装を解いているイルミは針を構える。それに、『あー……』と呟き、頭をかく。

”人体変化”

何でも屋ランレイの格好をする。そして、軽く目を開いているイルミに、

「これならわかるだろ」

と問いかける。声もランレイの時の声になっている。それに、イルミは針を下ろす。

「……なるほど。あの時のは変装だったんだ」
「今のも変装さ。本当の姿はある都合で見せられない」
「へぇー……」

テンの言葉にイルミは多少興味有り気に呟く。が、その感情が出ているわけがなく、テンは気づかず元の変装に戻す。

「とにかく先に進めばいいんだな」
「……足、引っ張らないでね」

二人はそれぞれタイマーみたいな時計を腕につけると、目の前の扉が音を立てて開いた。
中は松明で照らされ、とても明るい。だが、曲がり角や分かれ道が多く、迷路のようになっている。

「はっ!」

しばらく歩き続けたところで、横の壁から敵が大声を出し、テン目がけて来る。もちろん、気配でわかっているために簡単に避ける。
敵は避けられると思っていなかったのか、勢いで反対側の壁にぶつかった。

「うわっ!」

壁にスイッチが設置されていたのか敵の頭がスイッチを押すと、横から伸びた鋼の鋭い刃物が左右の壁に突き刺さる。
テンの体が間に挟まれ、身動きができなくなる。その様子を前を歩いていたイルミが足を止め、感情の籠っていない目で見つめる。

「足、引っ張らないでって言ったけど」
「いや、今のは俺は悪くないだろ!」

テンは迷うことなく念を発動し、前を通るその刃物に触れた。

”phを変える左手”

それは音を立て、あっさりと崩れ落ちた。テンはその罠から抜け出すと、イルミに追いつくために小走りで近づく。

「だっ!」

イルミに追いついたと思えば、床にも罠が仕掛けてあったらしく、天井から水が落ちてきてテンは濡れる。イルミにも多少の飛沫がかかる。

「お前もここ通っただろ!」
「うん、きっと一人目は大丈夫で、二人目に発動するタイプだったんじゃない?」

興味なさげに説明し、すぐに進み始める。
水の冷たさにテンは一度体を震わせ、イルミの後をついていく。
その後もなぜかテンだけに罠が降りかかる。

「何だよ、これ!」
「よくそんなに罠を発動させられるよね。避ける気ないの?」

何時間歩いたかわからないが、小さな空間にようやく出たので、テンが少しの休憩を申し出た。
最初はなぜ?という疑問や呆れの眼差しで見つめられたが、テンがイルミに近づいた時に発動した罠により前後の道が塞がれた時、殺気と共に許可が下りた。
しかし、テンはそんな形で許可が得られると思っていなかったらしく、愚痴を零さずにはいられなかった。

「そもそも、お前もここの部分踏んでただろ。罠っぽい感触あったら踏まないように言うとか注意しろよな!」
「そんな感触あるわけないでしょ。罠なんだから」
「だーもう、それならお前にも罠降りかかれよ!」

理不尽な物言いにイルミがあからさまにため息をつく。テンは気にせず文句を呟いている。

「じゃあ、君が前を歩くかい?」

イルミなりに多少の気を使ったつもりだ。というのも、文句が耳障りだったというのが彼の本音だ。
それに、彼女の足元を見れば、罠が設置している場所もなんとなくわかるだろう。それがイルミの考えだった。
しかし、彼の言葉にテンは首を縦に振ることなく、大きくため息を吐いた。

「方向音痴が先頭立てるわけないだろ」
「……なるほど、これが仕事関係なしに人を殺したくなる感情か」

イルミの物騒な呟きはテンの耳には入らず、テンが聞き返すもイルミは別に、の一言で言葉を切る。
すると、丁度前後の扉が音を立てて開いた。テンは立ち上がり伸びをし気合を入れる。

「よし、じゃあ、行くか」

テンの言葉にイルミは何も答えず、無言で歩き出した。再び二人を沈黙が包む。

「……さっきのところで、一区切りだったのか?」

先ほどから罠に引っ掛からなくなったテンはぽつりと呟いた。もちろん、イルミも引っ掛かっていない。

「じゃない?また向こうに扉あるし」
「扉の向こう側には嫌な予感しかしないけどな」

テンの呟きを拾ったイルミは前方を指さし言葉を投げかける。テンは扉の向こうから感じられる気配に小さくため息をついた。
二人が扉の前に近づくと、扉は音を立て開いていく。扉の向こうには漫画でも見たことのある超長期刑囚と戦う舞台。
向かいに目深にフードを被った超長期刑囚が立っていた。

『今から彼らと戦ってもらう。先に五勝上げた方が勝ちとする』
「こっち二人なのになんで五勝なんだよ」
『それはお前たちの実力を考慮して、だ。こちらも簡単に試験を通過させるわけにはいかないのでな』

スピーカーから聞こえてきた試験官の声にテンは大きくため息をついた。一人の超長期刑囚がフードを脱ぎ、真ん中へと伸びた橋を渡ってくる。

「どっちが行く?」
「……今までの鬱憤晴らしたい」

イルミの言葉にテンは短く言葉を返す。イルミは何も言わず一歩下がり、見物を決める。
テンは無言で橋を渡り、相手と対峙する。

「私はデスマッチを所望する」
「それでいいから、五人全員かかってきてよ。時間の無駄」
『……構わないだろ、全員上がってこい』

テンの言葉に試験官が言葉を返し、残りの超長期刑囚が上がってくる。
それぞれ元・傭兵か何かだったのか、とても筋肉質でテンがとても小さく見える。

「行くぞ!」

その叫びと同時にテンは近くにいた胸ぐらを掴み、顔面から地面へと叩き落とした。
相手が叫び声を上げる間もなくテンは次の敵へと向かった。
数十秒経ったか、立っているのはテンだけになった。

『……以上で試験は終わりだ』
「案外簡単だったな」

テンは試験官の言葉に腕を回しながら呟く。その横をイルミが通り過ぎる。
テンも遅れないように、イルミと共に進んでいく。

「……あ、そうそう。そういえば君の本当の名前は?」

イルミは思い出したかのように問いかける。それに、『そういえば……』とテンも思い出し、

「テンだ。よろしく」

と答える。それに、一度『テンか……』と呟く。それに、?を浮べるが『気にしなくていいよ』言われ、問いただすのを諦める。
終着地点に着き扉が開く。

『45番テン 301番ギタラクル!三次試験通過第二号、第三号!所要時間6時間27分!』
「あれ、ヒソカ。先についてたんだ」
「まあね◇君達一緒だったんだ◆いいなぁ……◆」

ヒソカとイルミが会話している横を通り過ぎ、二人から離れて壁側に座る。

「そういや、テン。なんで濡れているんだい?」
「うるさい、濡れたくて濡れてるんじゃない」
「俺らが進んだ道が罠だらけでテンが引っ掛かっただけだよ」

その様子にヒソカは呆れたような目で見てくる。テンは再びうるさい、と悪態ついた後にくしゃみをする。

「そのままだと風邪引くんじゃないかい◆」
「タオルない……」
「僕の貸してあげるv」

そう言ってヒソカは何もない空間からタオルを出し、テンに近づき渡す。テンは怪しんだ目でヒソカを見た後、凝をしてタオルを見る。

「タオルに何も仕掛けてないよ◇」
「お前なんだから、わからないだろ」

何も仕掛けられていないことを確認し、ヒソカからひったくるようにタオルを奪い、拭き始める。
ふとヒソカの視線が向けられたままに気づき、何かあったのか再び凝をする。

「別に何もないよv」
「だったら何見てるんだよ……。あ、タオルありがと」

一通り拭き終わり、タオルをヒソカに返す。タオルは再び何もない空間に消えた。

「今から寝る。起こすなよ。起こそうとしたら死ね」

そんな言葉を言って眠り始めた。疲れていた分今までの睡魔が襲ってきたのですぐ寝てしまった……。
その様子を見ていたイルミは近くに戻ってきたヒソカに口を開く。

「俺らがいるのによくあんな無防備に眠れるね」
「それが新鮮でいいんじゃないか◇彼女が僕らを信頼してるかは置いといてv」
「彼女?あれ、テンって女だったの?」
「知らなかったのかい?残念◆教えなければよかった◇」

イルミの言葉にヒソカは残念そうな顔で言葉を発する。
イルミはイルミで先ほどのテンの能力を見て何か利用できないだろうかと考えていたが、ふとヒソカの視線を感じる。

「言っとくけど、テンは僕のだから取らないでねv」
「……君に気に入られるなんてテンもご愁傷様だね」

テンのくしゃみがもう一度この空間に響いた。


 top 




- ナノ -