21.減らない問題

第一次試験官が集団の前に下り、歩きながら説明し始める。皆も何一つ言わず試験官についていく。

「第一次試験404名全員参加ですね」

試験官は言葉を発した後、スピードを上げた。
それに周りは舌打ちをする者もただ文句言わない者もいたが皆スピードを上げて走り出す。
その様子に顔も向けず試験官は自己紹介や一次試験について話を始める。
走っている途中、ある一人が一次試験官の言葉に疑問を持ち問いかけた。
それに、相手--サトツは顔色ひとつ変えず説明する。その内容に意気込む者がいたが、テンには関係ない。
テンは多少ドベの方へ行き、彼らの様子を見る。

「おい、ガキ共それ反則じゃねーか?」

始まった……。主人公組とカレンたちが出会う。ふと、カレンの靴を見る。さっきはいていた靴とは違う。
キルアに乗せてもらうとか思っていたが……。

「カレンらしいな」

彼らの様子を横目に小さく呟く。もう怒鳴り合い(?)は終わっていて一緒に行くことになったらしい。
カレンは楽しそうに笑っている。蜘蛛にいた時よりも……。



5,6時間経過し、やっと一人の脱落者が出る。だが、それに気をとられる理由もなくただ黙々と走り続ける。
周りは結構息を切らしているがテンは切らしていない。それ以前に汗すらかいていない。
周りは訝しんだ目でテンを見ていたが、本人は気にしていない。それからまた数十分経過したぐらいに、

「マジかよ……」

誰かが呟いた。目の前に先の見えない長い長い階段を見て。サトツは彼らを一瞥し、スピードをもっと上げる。
それに、苦戦しながらもあがっていく受験生。大変だな……という意味を含めながら見、ふとカレンを探す。
と、階下に一人靴を脱いで履き替えをしている。それに、目を丸くしながらはぁ……とため息をつき下りていく。

「……カレン、置いて行かれるぞ」
「あ、テンちゃん。丁度良かった」

周りにはもう受験生たちがいない。テンはカレンを見ながら、問いかける。
カレンは喜んだ顔をし、立ち上がる。

「実はこの階段こと忘れててね……。どうしようか悩んでて……」
「何の為に俺がここにいると思ってんだ」

カレンの言葉に皆まで言わせず、テンはカレンを持ち上げる。小さく悲鳴を上げるが、テンは気にせず階段を駆け上がる。
数分すると最後尾が見えてくる。テンはその最後尾に目もくれず、駆け上がった。そして、視界にキルアたちが入ると速度を落とす。

「テンちゃんどうしたの?」
「キルア達と合流したら俺が担ぐとか言いそうだし、この姿、キルアに文句言われそうだしな……。だからちょっとスピードを落とした」
「文句?テンちゃん、その姿かっこいいから問題ないと思うけど……」

カレンの言葉に苦笑して言葉を濁す。テンはこの姿が男だからという意味で発したのだが、カレンは変装姿が不安と捉えたようだ。
どうやら、お互いがお互いに、なのだろう。早くどちらかの気持ちに気づけばいいのだが。そんなことを考えていると階段が終わりになる。

「見ろ!出口だ!」

急な光に一瞬目が眩むがすぐ違う風景が広がる。




『ヌメーレ湿原 通称"詐欺師の塒"』

二次試験会場までここを通って行かなければならない。
カレンがキルアの元へいったのを確認し、テンはヒソカに近づく。

「どこ行ったのかと思えば彼女のところへ行ってたんだね◇」
「まぁな。ところで入り口だった所の建物の後ろに隠れている」
「ウソだ!そいつはウソをついている!」

テンの言葉の途中に入り口だった建物の後ろにいた奴らの叫び声が響く。それにテンは小さくため息をつく。
騒ぎを起こしてほしくないため、殺すなと言おうとしたが、遅かったらしい。
ヒソカはこの様子に薄く笑みを浮べながら眺めている。周りはざわついている。

「……あー、ちょっと離れよ」

テンはヒソカが輪の中から中心に移動した時に嫌な予感を感じ、輪に交じった。同時に彼はトランプを投げた。
サトツに4枚、偽物に3枚、流れ弾でテンに1枚……。やはり嫌な予感は当たっていた。テンは大きくため息をついて避けると、たまたま後ろにいた『76』に当たった。
『76』は血を流し、ゆっくり倒れた。それに、ふとそれの顔を見る。
どこかで見た顔のような気がするが、思い出せない。『ま、いいか』テンは呟き、また走り出した。



森の中は霧が深く不気味さを表していた。その中テンは黙々と走っていく。
カレンはキルアの元に居るのだから一番前だろう。騙されることはない。
……問題はテンだ。極度の方向音痴である自分が(一応自覚はある)こんな霧の深い所で迷わないでいけるわけがない。
それどころか、前の人を見失えば連絡手段のない自分がホームに戻ることすら出来ないだろう。
テンは一生懸命、前の人に集中して走っていく。

「マジかよ!」

前の人の首が取れるまでは……。知らぬ間に騙されていたようだ。
人だと思っていたものは亀のような、大昔の恐竜みたいな奴だった。攻撃を避ければ、それは自分の後ろにいた奴らを食べた。
その出現は受験生を更なる詐欺へと導いていった。
周りにいた受験生たちは色々な生物の獲物になっていく。勿論、自分も例外でもなかった。
霧の奥から何枚ものトランプが飛んでくる。テンはそれを払いつつ、木の後ろに隠れる。奥からあいつが現れた。

「試験官ごっこv」

そんなふざけたことを呟いて。テンはその言葉に顔を顰めるがすぐ戻し聞き耳を立てる。
どうやら二次試験までおとなしくする予定だったらしい。テンはヒソカのおとなしいという言葉と我慢という言葉を知っていることに驚き、
『いつもしてねぇくせに……』と小さく悪態をつく。そう呟いている間にも2〜3人が倒れていく。

「あっはっはっはァーーーーァv」

ヒソカの興奮は最高潮に達したのか笑い出す、それに、怯えて受験生たちは逃げていくが次々と殺されていく。
そして、あっという間に死体が広がる。ヒソカは向き直り、

「残るは君達二人v木の後ろに隠れている子はどうしようかなぁ◇」

と言ってくる。それに、疑問が出てくる。確か漫画では三人と言ってた。なのに、今は二人。
それにさっきの『76』を思い出し、記憶にあるこのシーンのキャラクターたちと顔を合わせていく。

「……あ」

思い出した……。さっきのやつはここで二人に逃げろと合図する男だ。
さっき自分がトランプ避けた時に死んだためここでの未来が一時変わったらしい。
それに、はぁー……と大きくため息をつき、出て行く。後ろから人が出てくるとは思わなかったのか二人は目を開いていた。

「えーっと、二人ともごめんな」

しかも、突然謝ってきたのだ。テンの状況なんて知らない二人は?を浮べる。

「……とにかくどうしようか。合図するから逃げよう」

急なことに多少慌てるが状況が状況だけに素直に頷く。ヒソカは気にせず歩みだす。それに、大体の感覚で、合図を出す。

「今だ!」

テンの叫びに三人は散る。それに、ヒソカは薄く笑みを浮かべ立ち止まる。そして何かを言って数え始めた。

「レオリオ!」

ぼぉーと走っているとクラピカが叫ぶ。それに、『あー……』と小さく呟き、

「彼ならきっと大丈夫だよ」

とクラピカに言う。それに、一瞬睨まれる。

「貴様、奴の力量を見てなかったのか?あのままだとレオリオが死ぬぞ!」

それに、多少慌てて、原作を知ってると答えそうになるのを我慢して、言葉を考える。

「お、落ち着け!俺の名前はテン!そんな、ネガティブに考えんなって!」

クラピカはテンの言葉に多少の落ち着きを取り戻す。ある程度進んでから、先ほどの場所へと走り出す。
テンはクラピカを見失えば、もう次の試験会場には行けない。一種、命綱を放さないようにクラピカと共に走っていけば、一人の少年が座り込んでいた。

「ゴン!」

クラピカはその少年の名前を叫び近寄る。近くにはヒソカたちがいない。期待していた者はどうやら行ってしまったらしい。

「……うわ、マジかよ」

それにテンは頭を抱え大きくため息をつき、小さく呟く。その様子に気づき一人の少年がやってくる。

「お兄さん、どうしたの?」
「え、ああ、次の試験会場までどうやって行こうかと……。ほら、あの……列からはぐれちゃったからさ」

ヒソカと一緒に行動しているとは言いたくなくて、お茶を濁しながら説明する。
テンの言葉にゴンが純粋無垢な瞳で嬉しそうに言う。

「大丈夫だよ!レオリオのオーデコロンの匂いを伝っていけば着けるよ!」
「……そうなのか?悪いけど一緒に行ってもいいか?」
「うん、いいよ!俺、ゴン!ゴン=フリークスって言うんだ!」

ゴンが自己紹介と共に手を差し出してくる。テンは反射的に手を握る。
しかし、なぜか隣のクラピカからは警戒の色が取れていない。
テンは何かしただろうかと考えるも表に出さず、クラピカとも握手を交わした。

「……クラピカだ」
「テンだ。ヨロシクな、クラピカ、ゴン」


しばらくして、ゴンがレオリオのオーデコロンの匂いを嗅ぎ付け、二次試験会場に辿り着けた。
二次試験会場へ辿り着くと、テンは彼らに礼を言って離れる。そのまま迷うことなく進み、ヒソカの元へ行く。
というより、彼女が発する殺気に自然とヒソカまでの道が開く。

「お前さ、何置いてってくれた訳?俺のこと残念ながら知ってるよね?」

ヒソカの顔を見るなりテンは睨む。ヒソカは楽しそうに軽く喉を鳴らし、言葉を返す。

「ゴメンネ◇ついねvどうせ、また怒鳴られそうだったし◆」
「帰って来れなかったらどうするつもりだよ。俺野垂れ死ぬよ?」
「テンなら簡単に死なないよう訓練されてるから大丈夫だよv」

と言うからテンは叫んだ。それはもう念能力を使う勢いで。

「何が大丈夫なんだー!この変態殺人狂がぁ!」

テンは叫びながら右の拳にオーラを溜め、ストレートを放つ。ヒソカが笑いながら避けたためまた一人被害者が出た。
その様子にカレンは青く澄んだ空を見ていた。


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