「……そういや、ハンター試験受けるのに、クロロの許可とってないや」
テンは自分の部屋で横になっているとふとそれを思い出す。思い出すや否やテンは部屋から出て行った。
「クロロー、報告することがー」
テンは気だる気に広間に入っていく。そこには昨日までいたフェイタンやウボー、パクノダはおらず、シズクとフィンクス、クロロ、シャルしか居なかった。その四人の視線を集めつつ、テンは発表する。
「えーっと、今年でいいんだっけ?ハンター試験受けるから」
『……は』
急なことに皆が呆けた顔になる。いや、シズクは驚かず本から顔を上げる。
「そうなんだ。頑張ってね」
「ありがと」
「いや、急に何を言っているんだ?」
突然ことに驚いていたクロロは我に返り問いかける。それに顔色変えないで答える。
「いや、実力を試すのに丁度いいだろう?」
「……そうか、確かに実践とかも雑魚ばっかりだったしな。ハンター試験は基礎能力が試されるのか?」
「そうだね。でもほとんど人が念が使えない弱い奴らばかりだよ。たまに、念能力が使える奴が混ざってるけど」
クロロの言葉にシャルが説明する。『なるほど……』と小さく呟き、また考え始める。テンはおとなしく待っている。
「……いいだろう。ただし、念能力は一切使うな」
「うげっ!」
クロロの条件にテンは叫ぶ。どうやら、使う気満々だったらしい。クロロはその様子ににやりと笑う。
「何だ?何か問題でもあったか?」
「あ、いや、でも、戦闘に関係なければいいだろ?念知らない奴に念がばれなきゃいいんだから」
「何を言っている。全体通してに決まっているだろう」
クロロの言葉にテンは悩み始めた。ハンター試験に行かなければカレンには会えない。けれど、今回の試験では今後大きく関わってくる主人公組との接触も避けられないだろう。
できれば、この姿で行きたくない。もちろん、他にも理由はあるが、主人公組にこの姿で会えば色々面倒である。
もちろん、念を使わないで変装することは可能だが、ずっとは不可能だし、変装する時間と手間をハンター試験中には割けない。
「……あ、賭けの罰ゲーム!その命令解除!」
「構わん」
悩みに悩んで思い出した賭けの時の条件を言えばクロロは了承した。テンはそのあっさり解除した意図がわからず怪訝そうな顔でクロロを見る。
「賭けの命令はそれで終わりだ。残りはフィンクスだけだな」
『はぁ!?』
クロロの言葉に真意を気づいて驚きの声を上げるテンと、裏切り者の意で叫ぶシャルとフィンクス。
「ところで、ハンター試験の持ち物何も買わなくていいのか?」
責められるともわかっていたのか文句を言われる前に話を変えるクロロ。その用意周到さに何を言っても無駄と思い、必要なものを考える。
すると、ふと今の殺風景な部屋にも何か置きたいと思い、せっかく買い物に出るついでに買おうと考える。
「……クロロとフィンクス荷物持ち&道案内でついてきて」
「しょうがねぇーな」
「しょうがないな」
テンの言葉に二人は許可を出した。
「しっかし、よくそんな紙切れ一枚で辿り着けるよな……」
デパートまで辿り着くと、テンはポツリと言葉を発する。それに、クロロとフィンクスが振り返った。
今はクロロはテンの目の前で初めて髪を下ろしている。フィンクスは変わらず、ジャージでいる。
「フツー辿り着けるだろ」
「むしろ、辿り着けないお前が凄いな」
テンの呟きに二人がけなしてくる。それに、一瞬むかっとくるが、面に出さず、
「別に大丈夫だろ。俺は、屋敷とかなら迷わねぇ」
『狭いな』
と言うが、二人にハモられツっ込まれる。それに、小さく『うっ』と呟くが、
「と、とにかく買い物行くぞ!」
と話をすぐに変えデパートへ入っていく。それに肩をすくめ、二人も入っていた。
「いい買い物したな……」
「それでいい買い物じゃないとか言ったら殴るぞ」
テンの言葉にクロロが古書などの本を持って言い返す。フィンクスは大量の荷物を抱えるので精一杯で口を挟む余裕がないが、こめかみに浮かぶ青筋が彼の気持ち全てを物語っている。
(テン<クロロ<<<フィンクスの順に荷物が多い)
「ところで……てあれ?」
しばらく歩いていると人混みに出、気にせず歩いてふと思い出し問おうとしたがクロロとフィンクスがいないことに気づく。周りは変わらず流れている。途中二、三回スリの腕を折ったが……。
それに、『円』をして視るが、クロロ・フィンクスらしき人が引っ掛からない。それにすぐ止め、息を吐く。
「どうしようっかな……」
自分が今まで歩いてきた道はもちろん、ここからアジトの方角も分からない。辺りを見回していると、テンの視線がある一点で止まった。
そして、もう一度辺りを見回し、そこへ近づく。そこには、大きなクマのぬいぐるみがショーウィンドウの中にいた。
テンの目は輝いていた。頬も多少染まっている。
「いいなぁ……」
そのクマのぬいぐるみをじっと見つめながら小さく呟く。
しかし、値段を見るがそこらへんの人から掏っても全然足りない。
それに、小さくため息をつく。クロロから少しでもお金を貰っておけばよかった。
「どうしたんだい?」
その言葉にテンは他の素人が見てもあからさまにびくっ!と反応し、声にならない悲鳴を上げて勢いよく振り返る。
そこには、メイクをしていないヒソカが私服で立っていた。それに、驚き半分ショック半分で目を開く。
「……ヒ、ヒソカ」
「いいねぇvその反応、ゾクゾクしちゃうよv」
ぞわっ!
ヒソカの言葉にテンの背筋に悪寒が勢いよく走る。顔も若干青い。
「ち、近寄るな!」
「ヒドイ言い草だなぁ◆……で、テンはこんなところで何しているんだい?」
ヒソカの言葉にテンの動きが止まる。ヒソカの視線はもちろん、後ろのショーウィンドウの方に向いている。
テンがこれを見ていたことは彼には気づかれているのだろう。
本当のことを言うべきか……。言わないべきか……。
一瞬そのような考えが出てくるが、すぐに決まる。
「……カ、カレンに買ってやろうかと」
「あの子に?今、いないだろう?」
「帰ってきた時に喜ぶかと思ってな……」
ヒソカは疑問と反対に口には愉しそうな笑みが浮かんでいる。テンは多少汗を掻いている。
「へぇー、テンはあの子のためにショーウィンドウに張り付いて目を輝かせるのかい?」
なんでそんなことを知っているんだ、と言いかけた言葉をぎりぎりで呑み込み、せめてもの抵抗として睨みつける。
「……お前何時から居たんだよ」
「いつでしょう?」
ヒソカは『くっくっくっ◇』と笑い出す。それに、無意識で多少の殺気を送っている。
それに気にせず、ヒソカは笑いを止めると、その店の中に入っていった。それに、?を浮べる。
数分後、ヒソカが出てくる。
「これが、欲しかったんだろ?」
ショーウィンドウの中にいたクマのぬいぐるみが包まれている包装紙を持って。
それにうっと多少詰まるが、すぐ視線をそらす。
「そんなんじゃない。ただカレンのためにだな……」
「じゃぁ、これは要らないかな?」
ヒソカは包まれている包装紙を片手で上に掲げる。それに、テンの視線も釣られて上に上がる。
「……も、もらって欲しかったらもらってやる」
「本当にテンって強化系じゃないのが不思議なぐらい単純だよねv」
それにすぐ我に返り、視線をそらし小さい声で返す。ヒソカは笑いながらその荷物をテンに渡せば、
『うるさい』と反論しつつ、素直に受け取る。その様子におかしくてヒソカは再び笑い、頭をなでる。
「や、止めろよ!」
テンは顔を真っ赤にし、ヒソカの手から逃げる。『可愛いなぁ……v』と小さく呟く。
「と、とっとと帰るぞ!」
テンは照れ隠しか叫びながらアジトとは反対方向へ歩き出す。
「……逆だよ◇」
さすがにヒソカはここで遊ぶ気はなく、素直に間違えを教える。テンの顔がもっと赤くなったとか……。
「テン!どこ行っていたんだ?……ってその荷物は何だ?」
「関係ない。迷って悪かった」
「関係ないって……顔も若干赤」
「関係ない!」
テンはそう叫んでクロロを睨み、とっとと部屋へ戻っていく。それに、?を浮べる周り。
「くっくっくっ◇」
その様子の理由がわかっているヒソカは含み笑いをしている。周りが目でヒソカに問いかけるが、もちろん答えない。
「せっかくの青い果実との秘密なんだから簡単に教えないよ◆」
ヒソカは呟き、自分の仮部屋へと行った。
「んじゃ、行ってくる。」
三日後、テンは買った荷物をポーチに入れ、動きやすい服を纏い、広間で皆へ挨拶をする。
出口の方にはヒソカがもたれて立っている。皆口々に『ヒソカに気をつけろ』や『ないかもしれないけど落ちてきたらフェイタンの拷問』などテンが受かる事前提にふざけた話してくる。
テンはテンで適当に相槌を打つ。
「……テン、そろそろだよv」
その様子にヒソカが呼びかける。テンは短く返し、改めて
「行ってきます」
と言った。アジトから出て、ヒソカと歩いていると、(世間一般ではこれを全力疾走又は音速移動という)急に止まるよう合図が出される。テンは素直に止まり、
「何だよ?」
と問いかける。ヒソカは何もない空間から小さな紙袋を取り出し、嬉しそうに言葉を発する。
「目、つぶっててv」
が、さすがにヒソカ相手に目をつぶる勇気はない。テンは少し恐怖を感じ、身を後ろに引くも、ヒソカは、素早くテンを捕らえ木に押さえつける。
それに、一瞬息が出来なくなるがヒソカはお構いなしに自分の目的を行う。
テンの左耳に一瞬軽い痛みが走る。すぐに収まり、ヒソカもテンを放した。
テンは数回咳をし、ヒソカを睨んだ。殺気も昨日以上に出ている。ヒソカは笑顔で、
「どう?」
と嬉しそうに問いかけてくる。それに、『何が!』と叫ぼうとすると、左耳に違和感を感じた。目の前に鏡が現れる。
見ると、黒い雫型のピアスがついている。
「ボク的には似合ってると思うんだよねv」
ヒソカの言葉に軽く顔が紅潮する。テンは生まれて初めてこんなことをされ、カレン以外に初めて褒められたのだ。どう反応すればいいのかわからず、ただ睨んだ。
「だからって急につけることはないだろう。痛かったんだぞ」
「ゴメンゴメンv」
ヒソカは笑みを浮べたままの言葉に、またイラっとくるが……。
「とにかくボクは似合ってると思うよv」
「うるさい!とにかくとっとと行くぞ!」
テンはまた走っていく。それに、ヒソカは薄く笑みを浮かべ、
「だから、逆だって◆」
「早く言えー!」
とまた逆方向へ走っているテンに注意していた。テンの方向音痴が治る時は来るのだろうか……。
それは、誰もわからない……。本人さえも。