15.進展

「ちっ!」

ガンっ!

テンがネオン護衛の仕事から帰ってきた日、いつもの様に蜘蛛に迎えられた。
蜘蛛は、カレンがいなくなったことに気づいていないのだろうか……?
否、絶対気づいている。何せ、食事はカレンの仕事なのにカレンがいない。けれど、誰も騒がない。
カレンがいなくなって、早三日……。ただただ、テンの胸の内が黒く渦巻いている。
部屋で、一人カレンの置いていった通帳を見る。それは、何でも屋ランレイの時に稼いだお金より若干多めに入っていた。カレンの気遣いだろう。が、ここにいる時点でテン自身お金を持つ必要は無い。
必要な物など蜘蛛の皆が盗ってくるか作ってくれる。俺が憧れていた優しさなのかもと思うが、違うとも思う。

(俺はカレンが居ればそれで良かった。カレンと共に味わいたかった……)
「……もう一度探してみよう」

見つからなければ、もう諦めよう……。
そう思い、テンは倒れていたベッドから身体を起こし、扉に手をかける。

「……何でお前がここにいる」

テンは扉を開けると同時に今までの苛立ちからか数十倍の殺気を扉の向こうに居た相手に放つ。
相手は気にせず、笑っている。笑いを止めると、薄く笑みを浮べたまま、口を開く。

「ちょっと、君に話があってねvどこか出かける前に話さないかい?」
「聞く気なんて無い」

その喋り方自体、ムカついてくる。テンはヒソカの横をそのまま通り過ぎる。
ヒソカは後ろでそのまま薄く笑みを浮べたままそれを見送っている。

「ボクね、去年ハンター試験落ちちゃったんだよ◆気に入らない試験管殺しかけちゃってね◇」

その言葉にテンは足を止める。今までテンは時間軸など気にしていなかった。
ただ此処で修行し、盗みをし、カレンと共に過ごしていくと信じていたから……。

「……で、今年も受けるのか?俺には関係無いだろう」
「……カレンが、関わっていると分かっていても?」
「お前、カレンの居場所を知っているのか?」

ヒソカの言葉にテンは勢いよく振り返り、ヒソカを胸倉を掴んで壁に押し付ける。それに、ヒソカは笑みを消さず、

「さぁ、どうだろうねv」

と誤魔化しを入れてくる。それに、殺気を放ち、

"pHを変える左手"

と念を発動させる。そして、左手のpHを3まで下げ、腕を掴む。ヒソカの掴まれた腕はゆっくりとシュウゥゥ……と音を立てる。それに、ヒソカは目を開き、

「くっくっくっ……v面白い念だね◇」
「カレンは何処だ……?」

笑っている。痛いはずなのに普通に笑っている。それに、一層腹ただしく感じ、声を低くして問いかける。

「くっくっ、残念ながらボクもあの子の居場所は知らないよ◇」
「とぼけるな!」
「嘘じゃない◆ただ、あの子からお願い事をされてねv」
「……お願い事?」

ヒソカの口から吐き出された「お願い事」という言葉にカレンがこいつに何をお願いするんだという言葉が頭を支配する。

「君を今年のハンター試験に連れて行くことv」

ヒソカの言葉に目を開き、左手のことも忘れ、頭をフル回転させる。

『カレン、キルア君が好きだな〜。かっこいいよね!会えるなら、会いたいなぁ〜』
『キルア君って本当にかっこいいよね!テンちゃんもそう思わない?』

キルア……。カレンが言ってたのは、キルア・ゾルディックのこと……。
なら、今年のハンター試験に出ないはずは無い。ヒソカが今言ったことが本当ならば、その年にキルアとゴンは出会う。
きっと、カレンはキルアと共に居る……!
テンは、そう思い込み、安堵する。とはいえ、確証のない思い込みのため、不安も残っているが……。
ならば、俺もハンター試験に行かなければならない。と、そこでヒソカが肩を叩いてくる。

「考えている所悪いけど、そろそろ放してくれないかい?さすがのボクも多少痛くなってきたから◆」

そのヒソカの言葉に?を浮べるが、ヒソカの指を差した場所――自分の左手を見て、思い出す。
テンは慌てて外し、ヒソカの腕を見る。想像以上に焼け爛れていた。

「想像以上に焼け爛れているな……」
「まぁ、これぐらいなら数日で治ると思うけど◇自分の能力ぐらいちゃんと管理しないよ◆」
「え、あ、悪い……」

ヒソカの言葉に素直に謝るテン。それに、ヒソカは目を開く。その様子にテンは?を飛ばし、すぐ薄く顔を赤くする。

「いや、別にお前のことがマシになったというわけじゃないからな。ただ、自分の能力が不便なのを知っただけだからな」

目をそらしつつ、テンは自室へ入る。小さく閉める直前何か呟いたが、ヒソカに届いたかどうかは分からない。
ただ、ヒソカは、テンが入っていた扉を見、薄く笑みを浮べていた。それはとても愉しそうに目を細めて……。


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