14.手を伸ばして

いつものようにカレンはPCに向かい、黙々とランレイとしての依頼をこなしていた。
キーボードの音だけが無機質に響いていた。
けれどふとした拍子に手が止まり、どうしても考えてしまう。

“テンちゃん”との才能の違いは始めからあった。
四つも年上だから、当たり前だとも思った。
だから家事や雑用を、自分の出来ることを見つけて頑張ってきた。
特訓で疲れたテンちゃんのために温かい食事を用意して、笑顔でお帰りと言うだけでよかったのに。

シャルさんに銃を貰ったときは嬉しかった。
自分にできることが一つ増える気がして、練習すればするほど命中率や撃つ速度が上がっていくのも楽しかった。
情報屋を始めようと思ったのも、自分にできることを増やすためだった。
確かにそのせいで家事にかける時間は少し減ったけど……。
やるべきことは抜け目なくこなしているつもりだった。

『だから、それだけ?』

役に立ちたかった。負担になりたくなかった。
折角磨いた銃の腕を引き立たせる力が欲しかった……。
けれど、その程度なら此処ではいらないものだった。

どうすればいいのかわからない。
“テンちゃん”は今は仕事でいない。いなくてよかった。
自分以上に気にして、傷ついてしまいそうだから。
ちゃんと笑顔で見送った。笑えていたと思う。

そういえば、“テンちゃん”が向かった先は
あの百発百中の占いで有名な、ネオン・ノストラード嬢のところだ。

(占い……)

とカレンは思う。
もしかしたらこの状況を打開してくれるかもしれない。
カレンはすぐにコンピュータで連絡先を探し、占いを依頼した。

次の日、すぐに返信があった。
破格の依頼料を提示したかいがあったのだ。
カレンはその第一連を見て思わず震えてしまった。
そこにはこう書いてあった。

『 貴方は見失ってはいけない
  どんなに美しい花も砂漠では咲かないから
  もしもその花を咲かせたいなら
  在るべき場所を探さなくてはいけない 』

まるで必死に虚勢を張るカレンの心を見透かすようだった。
強者しか認められないこの場所はカレンにとって厳しい場所だった。
けれど別の場所でなら花は咲く、と言っている。
カレンは暫く見入ってしまった。

「在るべき、場所……」

それは此処ではないのだろうか?
けれど、あの世界でもなかったはずだ。
ならばどこだろう。
まるでどこかに自分のあるべき場所が用意されてるような……。

そして占いの詩は二連目に続いた。

『 銀色の鳥に会いにいきなさい
  その鳥は籠から出たばかり
  貴女は道端の花になって
  道を示してやるとよいでしょう 』

銀色の、というキーワードに、カレンはなぜかピンと来た。
インスピレーションに近かった。
まさか、と思って立ち上がり、慌しく部屋を出て行く。

「ヒソカさん!」
「ん?なんだい?」
「ヒソカさんは去年、ハンター試験を受けましたか?」
「うん、受けたよ◆」
「それで、今年も試験を受けるつもりですか?」
「どうしたんだい、急に◇」
「教えて下さい!」
「しょうがないな……受けるよ、今年もね◆」
「あの、一つお願いしてもいいですか?」
「言ってごらん◇」


次の日、カレンは自費で大量の食材を買い込み、冷蔵庫に入れた。
簡単に調理できる物ばかりだった。
そしていつも以上にピカピカに床を磨いた。
依頼されたランレイの仕事をすべて片付け、新たな依頼はケータイに転送されるようにした。
コンピュータはデータを消去する。そして、一つだけメモ帳のファイルを作った。
それから、あまり多いとは言えない荷物をまとめ、
部屋を、客を待つホテルの一室のような状態にした。
『情報屋ラン』の後、『何でも屋ランレイ』として得たお金は律儀に二等分して、
一つの通帳をテンの机の上に置いた。

テンの部屋を見回して、カレンは一言「ごめんね」と呟いた。
どうしてかは自分でもわからなかった。

カレンは次の日、何食わぬ顔で掃除をし、料理を作り、団員たちに笑顔を向け、そしてアジトを出た。
飛行船の中ではテンの顔が浮かんで仕方なかった。

「ごめんねテンちゃん。
でももし、この世界にカレンの在るべき場所があるとしたら、手を伸ばして求めたいの!
カレンはテンちゃんになれないけど、カレンはカレンだから……」

行き着く場所がどこかはわからない。“銀色の鳥”に出逢えるかもわからない。
けれどどうか 百発百中といわれるネオン・ノストラードの占いが当たりますようにと、

祈るだけだった。


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