11.ブラックユーモア

何でも屋ランレイが出来て早一週間……。と、言ってもほとんど情報の仕事ばかりで、仕事が来ないテンは暇だった。

「あー……もう、どうしよう。暇過ぎる」
テンは自分の部屋でぐーっと伸びをする。テンの寂しい部屋を証明するかのように伸ばしても何も当たらない。
「……そうだ。買い物行っちゃうか。そうと決まれば許可もらわないと……」
テンはそう呟くと、ベッドから降り、皆が集まっている部屋へと向かった。

「・・・と言うわけで今日は、」
「クロロー!」

仕事の話をしているクロロの元へテンは、扉を勢い良く開けて、入っていく。その場にいたメンバーはテンは見る。
「何だ、今取り込み中なんだが……」
「暇だから、買い物行ってきていい?」
いきなり出てきたテンの言葉に皆はため息をつく。それに、不思議そうな目で皆を見る。
「……いや、あんた自覚無いのかわかんないけど、買い物行ってきて帰って来れるのかい?」
「そもそも辿りつけやしねぇだろ」
「う、うるさいな!頑張ったら二時間とかで着けるかもしれないだろ!」
マチとフィンクスの言葉に答えたテンの言葉に皆はため息をつく。
「なんだい、テンは方向音痴なのかい?」
「俺の行く方向に目的地がない方が悪いんだ。てか、誰もお前に言ってねぇよ」
「……本当、君は綺麗な棘を持っているよね◆」
テンの言葉にヒソカは気を害した様子無く、ただ呆れた声で呟いた。
「……テン、ちょっと待ってくれないか。今、仕事の話をしているんだ。終わってから、俺がついていってやる」
その様子を見慣れたクロロはテンに待ったをかけ、仕事の話を再開させようとする。
「……了解」
いくらテンでも仕事の話と分かれば素直に了解し、ヒソカから離れた場所に座る。
「・・・で、今回の仕事は、長期で行う。シャルとカレンは明日から潜入し」
「カレンが行くのか!」
クロロの言葉に立ち上がったテンの言葉が被さる。それに、クロロはため息を付きつつ、テンのカレンに対する執着を思い出す。それを気にせず、テンは続ける。
「誰か、他の人が行くことが出来ないのか?マチとか、フィンクスとかフェ・・・」
「潜入調査に我慢できない奴が行けるわけないだろ」
テンの続けた言葉にシャルの冷静な言葉が挟まれる。それに確かにとテンは言葉を切る。
だが、目はクロロに『どうなんだ?』と問いかけている。クロロは、ため息をつき、
「今回二人に潜入してもらう所は、マフィアが経営する大型のホスト・ホステスのクラブで、今回両方の方に潜入してもらうんだ。よって、男同士は無理だ」
「んで、私はこれからちょっと仕事入ってて出来ないんだよ。そしたら、女はカレンしかないからカレンしか潜入の仕事できないだろ?」
とクロロの言葉にマチは付け加える。それに、一瞬テンの動きが止まり、不安げに口を開く。
「……お、俺も女なんだけど」
一瞬時間が止まったような気がしたが、
「わかってるさ。ただ、そういうのやるタイプじゃないだろ」
「まぁ、そうだけど……」
と、冷静に返してくるマチ。本当に覚えていたのだろうかと疑いながらも頷くテン。その様子に、シャルは一瞬考え、
「……一つだけいい方法があるよ」
と言う。それに、皆の視線が集まる。シャルは薄く笑みを浮かべ言う。
「テン、君が行くんだよ」
しばらく時が止まっていた。そして、本人は目を数回瞬きし、
「え、あ、俺が?」
と滅多に見れない戸惑いを見せながら呟く。シャルは、笑顔で『うん』と頷く。
「……俺が出来るわけ無いだろ」
「そうかなぁ、でも君達が初めてここに来た時変装してただろ?あんだけの変装ができるなら潜入調査も簡単じゃない?」

シャルの言葉にテンは頭に手を置き、大きくため息をついた。

「変装ってなぁ……。あれはたまたま演劇の衣装を着てたからであって……」
「演劇得意なんだろ?じゃあ出来ない理由は無いよね?」
「……『演劇』と潜入は違うだろ」
「じゃあ、仕方ないけどカレンが潜入するしかないよね」
シャルの言葉にテンは簡単にうっとつまり、二つ返事で肯定する。

「じゃあ、クロロ俺がカレンの代わりに行っていいか?」
「構わんが、いいのか?女の格好だぞ」
その言葉にまたテンは言葉に詰まるがシャルの姿を見て、すぐにやりと笑う。
「……シャル、交換しようぜ」
全員が『はぁ!?』と叫ぶ。確かに、わざわざ男女で潜入させるのに交換する意味はないだろう。だが、テンは女性の格好をしたくなかった。
「いやに決まってるだろ!」
「残念ながら拒否権ねぇだろ。まさか、忘れたとは言わないよな?賭・け」

テンの言葉にシャルはあの時の賭けを思い出し叫ぶ。一部の人間は?を飛ばす。
「……とまぁ、そう言われると俺は、どうしようもないんでな。頑張れ」

原因を知っているクロロは半笑いで冷酷に見捨てる。原因を知っているもう一人の人物はその話が出た時点で、視線をあさっての方向に向けている。こうして、テンとシャルの潜入調査が始まった……。


「あっははっは……!」
「フィンクス!ウボー!笑うなよ!ヒソカも何、含み笑いしてるんだよ!」

次の日、一応どういう服装で行くのか確認するためお披露目会が行われた。
シャルは昨日のテンの言葉通り女の格好をしていた。顔を真っ赤にしつつも、意外と似合っている。元々中性的な顔だったからなのだろうけれど……。しかし、皆シャルしか見ていない。
テンがその場にいないというわけでもなく、ただ、見れないのだ。恐ろしく……。
「おーい、皆その辺にしてやれよ。シャルが可哀想だろ」
テンの言葉に皆笑い等が止まる。カレンはカレンで、
「本当、テンちゃんって凄いなぁー……」
と感心している。今のテンは、ウェルズ郷の格好ではなく、また違う格好である。
服も、適当に盗ってきたものである。しかし、服が変わるだけでこうも人は変わるものだろうか……。
まぁ、テンとしては声もちゃんと変えているのだが……。

「……本当に、お前は人間なのか疑いたくなるな」
「そう?てか、男装なんて、俺の得意分野だし」
そう言って、髪を上げる。その仕草も男そのものだ。これで、念も使っていないのだから人間を疑いたくなる。
きっと、カレン以外はそう思っているだろう。が、勿論テンはそれに気づかない。

「んじゃ、とっとと行こうぜ。俺はホスト、シャルはホステス。名前はそのまま。潜入期間は、2〜3週間。間違いないな?・・・んじゃ、2〜3週後に会おうな」
テンはシャルと共に男の足取りでアジトを後にした。

「いい?俺たちが探るのは年代モノの宝石で『信じるモノには見えず、信じぬモノに見える我が宝石』。それらしい情報の収集だからね。あんまり、仕事に気をとられすぎないようにね」
「了解。シャルも女の子役で入るんだから俺じゃなくて『私』とか言えよ。んじゃ、連絡は人気の無い場所で携帯な。頑張れよ」

マフィアが経営するホスト・ホステスクラブ『チェリーラム』はとても大きく、店の金だけで建てられたと思えない建築物だった。入り口は二つあり、そこからもう分かれていた。建物の近くで最終確認をして二人はそれぞれ入っていった。


「どうも、初めまして。テンと申します。どうぞよろしく」

ホストのテンは、早速仕事をやらされていた。女の子は、テンを見るなり、小さく叫ぶ。
「今日は、俺を選んでくださいまして、ありがとうございます。貴女方が楽しめれるよう精一杯努力しますので、どうかその眼差しで俺を見ていてください」
「……は、はい」

場所は変わって、シャル。シャルも初日から仕事を付けさせられた。周りには、男が2,3人。シャルはどうするべきか悩んでいた。勿論、周りの喋りにも耳は傾けている。

「ねぇねぇ、本名教えてよ」
「電話番号でもいいよ。あ、それとも、メルアドの方がいい?」
「(あ〜、もう五月蝿いなぁ……。情報言わないんなら黙れよ)あ、ごめんなさい、そういうのお断りなんです(あ〜、もう自分で言ってて気持ち悪い……。テンがやればいいのに……一度、嫌がらせでもしようかな?)」


そうこうしているうちにもう、情報は軽々と集まっていき、日数も残りわずか3時間……。多少の最終確認のため建物の裏側に二人は集まっていた。近くには人の気配は無く、遠いところから様々なクラシックが流れていた。

「3時間後、団長たちが今まで集めてきた情報を元に此処に来るから。俺たちは、先に目撃者の始末をしておく。わかった?」
「……了解。あー、もう疲れた」
「あと3時間だから頑張りなよ」
テンは、シャルの言葉に気だるげに答える。それに、笑いながら応援する。が、テンは何を思ったか薄く笑みを浮かべ、壁に手を置く。
「じゃあ、シャルが俺を癒してくんない?」
とシャルの耳元で呟く。いきなりのことにシャルははぁ?と声を上げる。

「ちょ、何言ってんのさ!」
「本当に君を見ていると、俺の胸が苦しくなるんだ……。けれど、シャルとは永遠に結ばれない存在……。なら、せめて一時でも君の本心に触れたいんだ。シャル、俺の事を見て」
いつものテンと違い、シャルは本当に疲労で頭がイカれたのかと疑う。そもそも、今の話の脈絡からこの口説きに行った理由も分からない。
「ちょ、……ちょっと、テン!」
「シャル、ちょっと、話し合わせろ。誰かが近くにいる」
テンに言われシャルが気配を探ると、確かに此処へ向かってきている人がいる。蜘蛛にしても時間はまだある。多少警戒しておく。テンは壁から手を離し、
「……俺はシャルのことは好きだよ」
と呟いて出て行く。そして、向こうから来た人も止まる。
「リュウ!どうしたんだ?」
「……テンか、お前どうしてここにいる?お前が用ある場所じゃないだろ?」
「用は十分あるって。No.1,2争う女口説くのに、人気のある所で口説けるかって」

どうやら、テンと一緒に働いている奴らしい。オーラから念が使える奴だろうが、そんなに強くない。

「それより、帰ろうぜ。確か、次は俺たちも出席だろ」
「……ああ。そうだな」

二つの気配が遠ざかっていく。そして、完璧遠ざかったのを見計らって、大きく息を吐く。
『一時でも君の本心に触れたいんだ……』
テンが囁いたこの言葉……。あれは、実際に俺らがテンに思っていることかもしれない。
理由は分からないけれどそう感じる。

「テン……、俺らに見せてるのは本当の君?」
シャルは、そっと小さく、自分でも聞き取れないぐらいに問いかけた。


仕事は予定通りあっさりと終わり、年代物の宝石を手に入れた。それは、結構昔に加工された宝石らしいが、そういうのに興味があるのはクロロぐらいしかいない。皆それに興味は持たず、それぞれ好きなことをしていた。
「テンちゃん、お疲れー」
「カレン、全然疲れてないぞ。暇だったからな」
テンとカレンとの会話……。他の人と変わらない言葉の抑揚、話すときの表情。だけど、微妙に違う状態。
俺は、ちょっとその表情で話し合ってみたい……。きっと、団長が一番そう望んでいるはずだろう。
案外、こん中でテンのこと一番に気に入っていると思う。
「どうしようかな……」
あの表情をこちらに向けるのは勿論、あの変な意味不明な口説きの仕返しついでに……。どうやって嫌がらせしてやろうか……。


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