09.青い果実

アジト内が静寂に包まれている。人がいない訳でもない。死んでいるわけでもない。
皆、自分のしたい事を黙ってしているだけなのだ。ただ、耳を澄ませば、微かに、カタカタ……と規則正しい音が聞こえてくる。

「ふぅー!終わったー!」
規則正しい音が響いていた部屋からまだ幼い少女の声が聞こえてくる。少女は、今終わったことを見ながら伸びをしている。そこに、一人の男……否、女が入ってくる。
「カレンー?何やってんだ?」
「あ、テンちゃん。今、シャルさんからもらったパソコンで最近始めた仕事やってたの」
「仕事?」

カレンの言葉にテンは首を傾げた。蜘蛛の雑用を全部こなしているカレンがなぜ仕事をしているのかわからない。

「さすがに、蜘蛛の皆さんにお世話になりすぎっていうことは避けたいからね。情報屋なの」
「へぇー……。カレンらしいな。そっかー、俺も仕事するべきなのか……?……まぁ、何かあったら言ってくれ。力になるからな」
「うん。よろしくね」
カレンの言葉に驚きながら、テン自身、仕事するべきなのか再び考え込む。
カレンは、それを微笑みながら眺めている。そんな時、広間からいろいろ声が聞こえてくる。
「何があったんだろ?」
そんなカレンの疑問を広間からのウボーの叫びが解決する。
「てめぇ、何しに来たんだよ!」
どうやら、今まで姿を現していなかった仲間との喧嘩らしい。不安になった二人は、顔を見合わせて広間へと向かった。
そこで、向かわなければテンにとって安全だったのか変わらなかったのか……それは、今でもわからない……。





今日、仕事は無く、皆広間で自由にしていた。テンとカレンはこの建物内のどこかでなにかしているのだろう。
が、そんなこと気にせず、静かに読書している所に奴が何食わぬ顔でやって来た。
皆、1〜2年前の仕事をサボった奴に敵意むき出しでいる。フェイタンなんてもうビンビンに殺気を出している。
俺は、そんなことより、テンとカレンが此処に来ないことを願った。絶対奴が『青い果実』とやらなんやらと言って目を付けるから……。
「おーい、皆何騒いでんだ?」
そんな思いを簡単に打ち砕いてテンがやってきた。姿は見えないがきっとテンの後ろにカレンがいるのだろう。
皆の顔を見れば、『あーあ、来てしまった・・・』と言った軽く悩んだ顔をしていた。
フェイタンもテンを気にっていた分『何で来てしまたのか・・・』と言った感じで呆れ、殺気出すのをやめている。
「おや?誰だい?君たち◆」
「うわっ、不審者!」
奴……ヒソカの問いに答えるわけでもなく、テンは、もっともな言葉を言って扉を閉めた。
広間に不思議な空気が流れる。驚き半分笑い・呆れ半分だろう。テンのあんな様子は初めて見た。
「……クロロ、あの失礼な子は一体誰だい?」
「団長と呼べと言ってるだろ。あいつらは、ただ置いているだけで蜘蛛メンバーではない。手を出すなよ」
「クックック……vメンバーでもないのに過保護なんだねvでも、ボクさっき叫んだ子、気に入ったなv」
グワッ……!

ヒソカの言葉にフェイタンからさっき以上に殺気が放たれる。しかし、ヒソカは顔色を変えるどころか喉で笑いながら、平然と立っている。
そんな中で扉の向こうでテンが何かを叫んで、こちらに走ってきた。扉を勢いよく開くと、
「フェイタン、殺気を収めろ!カレンを殺す気か?」
とフェイタンに劣ると言えない殺気を放ってくる。目もフェイタンを睨んでいる。
それに、フェイタンはため息を吐いて素直に殺気を収める。
「……すまなかたね。ただ、これの前で名前を言うのは自殺行為じゃないか?」
一瞬、忘れていたことを思い出し、すぐさま振り向くが、ヒソカはテンの目の前まで来ていた。
「どうも、初めましてvボクは、ヒソカv君の名前は?」
ヒソカの言葉を無視し、扉の奥に引っ込もうとするが、ヒソカに腕を掴まれ阻止される。
「別に俺の名前知らなくて良いだろう?放せ!」
「何で初対面の君にそんなに嫌われているんだろうね?ボクは、結構気に入ったのに……◆」
「オーラから何まで全てが気に入らない!」
まるで初対面ではないようなテンの物言いにヒソカも少し殺気立ってきている。まぁ、誰でもあんなこと言われてキレない奴はいないだろう。

「……テン、ちゃ……ん」
「カレン!大丈夫か?」

フェイタンの強い殺気に当てられてどうやら弱っていたらしい。カレンの額に薄っすらと汗が光っている。
テンはカレンのその言葉を聞き、我に返り、カレンに近づこうとするも、ヒソカに腕を掴まれ近づけない。
本来ならば、殺気を放つのだが、カレンが弱っているため、テンはヒソカを睨むだけで止まっている。

「腕を放せ!」
「へぇー……◇君、テンって言うんだv」
その様子にヒソカは喉で笑いながら腕を放す。ヒソカが腕を放しても警戒を解かないテンは急いでカレンに近づく。

「君はとてもいい。今からでも楽しそうだよv」

ヒソカの言葉にテンは思わずカレンを庇うように前に出て、睨む。その様子に、ヒソカは目を細めながら口を開く。

「大丈夫だよ。ボクは君に興味を持っただけでそっちに興味は無い◆」
「……俺は、お前のオーラから何まで全て嫌いだ」
「構わないよ◆好きにさせるだけだからv」
お互いの間で緊迫した空気が流れる。
「……お前ら、そこで止めておけ」
さすがにそろそろ静止を入れるべきかと思い口を開く。このままだと、戦闘が始まりそうな空気が漂っていた。
俺の言葉にヒソカは肩をすくめテンから離れる。テンは視線をそらし大きく息を吐く。
しかし、ヒソカと出会って此処までなるとは思わなかった。
「テン、ヒソカと何かあったのか?」
「初対面なのに何かあってたまるか。俺は、ただ変態が嫌いなだけだ」
「本当、初対面なのに、酷い言い草だなぁ◆」
「けど、よかったよ。テンの感性だけでも人間と同じで」
俺の問いに変わらず敵意むき出しで答える。それに、ヒソカは、肩をすくめる。そこで、マチの声が入る。
周りのやつらも『確かにな・・・』と言った目でテンを見ている。

「どういう意味だよ」
「そのままの意味に決まってるだろ」
周りの視線が気に入らなかったのかテンの不貞腐れたような物言いに答える。が、表情は変わらずため息をついている。
「……とにかく、テンはそいつに慣れろ。仕事で一緒になることだってあるんだ。カレンはもう慣れているぞ」
俺の言葉にテンはカレンを見る。カレンは、ヒソカの近くに立ち自己紹介等をしている。
それに、ヒソカも愛想良く受け答えしている。テンは再びため息ついて、こちらを向く。
「……クロロ、俺はあんな風に愛想良く出来ない。むしろ、引きつっても出来ない」
と今までに無い真面目顔で言ってくる。このままの状態だとあとあとの仕事の時に面倒だろう。少し考え口を開く。
「……そうか。じゃあ、ヒソカ、テンが慣れるまでお前はテンと組め。い」
「……ヒソカ、よろしく。言っとくけど、お前とは組まないからな」
が、嫌々ヒソカによろしくと言うテンに遮られる。その様子に俺は大きくため息をつく。
しかし、ヒソカは気にした様子もなく、よろしく、と素直に返事をする。
「クロロ、絶対ヒソカを俺に近づけるなよ。勿論、カレンには絶対だ!カレンを危険な目に遭わすな!」
俺にそう怒鳴ってくるテンを適当に流しながら横目にカレン達を見る。
「……ヒソカさんは、今日此処に止まりますか?」
「うんvせっかく面白い青い果実を見つけたからねv」
カレンはヒソカの言っている意味がわからないのか首を傾げている。ヒソカは薄く笑いながら『別に気にしなくて良いよ◇』と言っている。
「あ、好きなものとかありますか?ご飯は、いつもカレンが作っているのでご希望があれば作りますよ?」
「そうなのかい?けど、ボクはあんまり気にしないから◆基本的に嫌いなものも無いしね◆」
「はい、わかりました。それと、カレンが言うのもなんですが、テンちゃんを虐めないでくださいね」
カレンの言葉にヒソカは面白そうに喉を鳴らす。

「大丈夫だよvところで、その呼び方からしてテンは、女の子なのかい?」
「はい、そうですけど?」
「そうなんだvクックックッ……v」
その様子に、カレンはまた首を傾げるも、時計を見て、急いでどこかに向かった。恐らく、夕食の準備へと向かったのだろう。
テンは、まだ色々なことを叫んでいる。テンの言葉にを適当に『それは無理だ』とか『わかった』と答えていたため内容は頭に全然入っていない。
それがバレて怒鳴られるのはほんの数分後の話だった。




ヒソカは誰にも聞こえない程度に呟いた。
「・・・・・楽しみだなぁv早く殺り合いたいよ◆」


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