ピピピピピ。バシ。
目覚ましの音で目が覚めた。

「…ぃやかましいッ!」
この電子音は頭に響く。変えたほうがいい。絶対。
電子音のせいではなく痛む頭を抱えながら、仙蔵は起き上がる。
そこは子供部屋だった。自分の部屋だ。

うん?
頭が痛い。どうして自分はベッドで寝ているのだったか。
ベッドとはなんだったか、いや何を寝ぼけている。寝具だろう。

…ん?
なんだか自分の身体が小さい気がする。いや、違う、これでいいんだ。
酷い夢を見ていた気がする。身体中が痛かったし、最後はなんだか腑に落ちない気がした。
腹が立ったので、ベッドの縁に寄りかかって寝ている文次郎の後ろ頭を叩いてやった。

「いてっ!」
叩いて、おや?と思う。

もんじろう…?なぜ文次郎が居るのだ。
というかこの子供は文次郎なのか?ああ、うん、文次郎なのだ。

「あ、せんぞう起きたか!大丈夫か?頭もう痛くないか?どっかからだ、痛くないか?」
「は…?いや、ちょっと後ろ頭が痛いくらいでそうでもない、な…」
言いながら文次郎は額に手を当て熱を測ったり、後ろ頭が痛いといえば後ろ頭を撫でたり。
ぽかんとしていると、文次郎にべちょ、と濡れたタオルを顔面にぶつけられた。地味に痛い。

「きのう!ジャングルジムから落ちて今までずっとねてたんだぞお前!」
「…きのう…?いや、一昨日だろう?…多分」
時計の電子カレンダーを見やる。今は朝で、日付は二日分進んでいる。夕方から丸々一日とさらに半分、寝ていたのだ。それは寝すぎで頭が痛くもなるだろう。

「そうそれだ、おととい、おとつい…?熱だしてずっと苦しそうだったけど覚えてないのか」
「いや、全く。そうか、そういえば落ちて…。頭打たなかったのは奇跡だな」
身体の節々が痛いのはそのせいか。何となく納得する。
そして見ていた夢…ではないが、その内容も思い出す。

「つまらんな。私は思い出したのに、お前はそのままか。どうせなら一緒に思い出せばよかろうに」
「?」
ク、と笑う。
じぃと文次郎の顔を観察してみる。隈が無い。邪気がない。叩けば怒るがすぐ泣く子供。
家が近所で、小さい頃からずっと遊んでいる子だ。

「そういえばお前、いつからここにいるんだ?」
ふと気になったので訊ねる。まぁ昨夜ここに泊まったのは確かだろうが。
文次郎は少し、むっとした顔で答えた。

「おまえが倒れてずっと」
「……ハ」
おばさんは何を考えているんだ!?意識もない子供の傍に独り置いても仕方が無いだろうに!
「…か、母さんは何も言わなかったのか?」
「帰って寝たほうがいいって言われたけど、でもお前しんぱいじゃん。帰らねーっつったらしょーがないわねーって」
「か、帰れよ」
「もうほんとうにどこも痛くないな?」
掠れ声で返せば、文次郎はやはり心配そうに訊ねる。
「な、ない…」

「頭は?」
後頭部に手を置く。
「大分マシ」

「足は?」
左足に手を置く。
「全く」

「手は?」
左腕に手を置く。
「う…ん、平気だ」

「胸は?」
胸に手を置く。
「……、」
心臓の音が聞こえる。
「せんぞう?胸は?…平気か?」
「…、ああ。平気だ。もう…、…もう平気だ。心配ない」

胸に手を置く。
ぐちゃりと、あの感触も、痛みも、もう、ない。

「大丈夫だ。どこも痛くない。…だいじょうぶだ」
「お、おい、せんぞっ!?」

涙が頬を伝う。止まらないがぽろぽろと、流れる涙の理由を今度はちゃんと知っている。
文次郎はハンカチを取り出した。ふ、と仙蔵は笑う。文次郎のくせに。
仙蔵は文次郎の頭を抱きこんだ。

「大丈夫だ…。ありがとう、文次郎」


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