『見上げた空は違う色』1.

※本編の《if・もしも》の十年後です。
『未来』の可能性のうちの一つの形として捉えてください。
原作の十年後編もまるっと無視しています。
本編によって、きっと未来は変わっていきます。


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恭弥が卒業してから、
私は誰もいなくなった応接室に鍵をして、
自分を律することだけを考えた。

風紀委員会については「好きにしなよ」と言われていたから、
先輩の跡を引き継ぐことも出来たけど、ガラじゃないし、誰にも務まるわけがないから、委員長不在のままだ。
ブレザーの学校で学ランを着た、一般に不良と呼ばれる生徒の多くが、
恭弥の進学した優秀な学校を志望したことをご存知だろうか。

私も委員でありつづけた。
応接室には行かない。
代わりに、恭弥に呼び出されれば知らない高校の書類だって纏め上げる。

それ以外の時間は大抵勉強したり出かけたりして、穏やかに過ごしていた。
知り合いの知り合いの、知り合いが沢山できた。
そしてもう、主席を譲りはしなかった。
だから高校受験のとき内申点も当日のテストも満点だった。
胸を張って、恭弥と同じ高校の門をくぐった。高校三年間は一番幸せな時間だったと思う。
恭弥の隣を取り戻して、たくさん一緒に過ごした。

卒業すると恭弥は他の人たちよりも一足早くイタリアへ渡った。
空白の一年間は国際電話ばかりかけていたけど、勉強もした。
志望の大学に合格して、語学ではイタリア語を選択して、そして二年生のときにイタリアに留学した。


そして今。

私はボンゴレの所有するマンションの最上階に住まわせてもらってる。
セキュリティ対策は万全で、エレベーターの最上階を選択できるのは私と恭弥だけだし、
インターフォンを鳴らせるのはボンゴレの幹部とか親しい人だけだ。

なんでこんなに厳重に保護されているかというと、
大学に通っていたときに一度誘拐されかけたことがあって、それ以来、一人で出かけることを制限されている。

大学を卒業し、表面上はなんの変哲もない企業の社員ということになっているけど、
実際にはボンゴレというマフィアの経理兼、幹部である雲雀恭弥の秘書官をやっている。
仕事を終えて帰ってきた恭弥に触るだけでその内容がわかるから面倒な報告書が書ける。
そんな感じで仕事をこなしていた。

会うのは"知っている"人たちだけということもあり、対人関係で緊張することはない。
ボンゴレのボスが見知った男の子ということもあって、よく気遣ってくれる。
それにしても、あのダメツナと呼ばれていた男の子がこんなふうに成長するんだから、
自分がマフィアなんかに手を貸しているんだから、人生って何が起こるかわからない。

「ただいま」
「おかえりなさい」
「晩御飯は?」
「出来てるよ。ちょうど新米が送られてきたの」

つくづく親不孝者だなあって、申し訳なく思う。事情も話せないまま、けれど譲れなくて、強情で、我侭で。
酷い娘なのに、パパは心配して野菜とかお米とか料理のレシピを送ってくれる。
子供のころはパパに任せっぱなしでキッチンに立つことなんて殆どなかったのに、
今は少しでもその味に近づけるように日々努力している。
それ以外にも、いろんな人とメールとか国際電話で頻繁に連絡を取っているし、
年に何度かは帰国している。きっと寂しくはない。

「そういえば、ボスから伝言」

食卓に腰掛けながら、恭弥は私を見て言った。
一応、用件を尋ねたけど、内容は簡単に想像できてしまった。

「明日"仕事"をしてほしいってさ。見てくれたほうが早いな」

そういわれたので、私はしぶしぶ恭弥に触れた。
――私がボンゴレという組織に保護されている最大の理由。

「人身売買を疑われている幹部の過去を読めばいいのね。わかった」

スパイ活動こそが私の本業だ。
それほど適した仕事はなく、私ほど簡単に情報を盗める人もいない。
まさかこの力をこんなふうに使う日が来るなんて想像もしていなかったけど。


「かえで」

名前を呼んでくれる人がいるから、きっとこれ以上の幸せは見つからない。


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