24.

「ねえねえ、あのお店どうかな?」
「いいですね!」
「うん。入ってみよう」

クリスマス気分に染まり、街は浮き足立っている。
今日は知り合いへのプレゼントを買いに近くのデパートにきた。
二人の女の子と一緒に。


このあいだ、京子ちゃんが家に遊びに来た。
友達を呼ぶと言ったらパパとママがすごく嬉しそうにしていた。
そういえば家に友達を招くのは引っ越してきてから初めてだった。
それが京子ちゃんでよかった、と思った。

京子ちゃんは、パパが載ってる料理雑誌を持ってきていて、実物のパパに会って感動してた。
私は人に尊敬される父親を持ったことが誇らしかった。
パパはおやつにベリータルトを焼いてくれて、京子ちゃんの質問に答えて、いくつかのレシピを渡していた。

そのあとは私の部屋でいろんな話をして過ごした。
学校ではあまり話さなくて、(京子ちゃんと話さないのではなく、ではなく私が話さない)
お互いのことをよく知っているわけじゃなかったから、
それぞれが身近な人の話とかをしていたらすぐに時間は過ぎていった。

クリスマスプレゼントを一緒に買いにいく約束の計画を立てていると、
京子ちゃんが「もう一人友達を誘っていいかな?」と聞いた。
黒川さんかな?と思っていたら、違う学校の子らしかった。
緑中に知り合いがいるなんてさすが京子ちゃん。と大した意味もなく思った。


そして今日、待ち合わせ場所に現れたのは黒髪の可愛い女の子。
第一印象は明るそうな子、だった。
知らない人と話すとか近づくとかに抵抗があったはずだけど、
他校の子ということもあって、京子ちゃんの知り合いということもあって、勇気を持って話しかけた。

「初めまして、内藤かえでです」
「三浦ハルです!よろしくお願いします」

ハルちゃん……は、ぺこりと頭を下げたあと、
顔を上げて私の顔を見て首を傾げた。

「はひ?京子ちゃんとツナさんのクラスメートで内藤さん……どこかで聞いたことがある気がします」
「え?えーっと、」

っていうかハルちゃんは沢田君とも知り合いなのか。
京子ちゃんと沢田君の関係が何気に気になるんだよね。

「あー!!思い出しました!夏休みに山本さんの電話で……例の問7をあっさり解いちゃった方ですね!?」
「そう……だけど、なんで」
「ハルもその場にいたんですよー!すごいです、尊敬します!!」

ざわりと苦い思いが蘇ってきて、大丈夫と言い聞かせる。
目の前の女の子に悪意はまったくないから。

「あの問題はたしかに知ってなきゃ解けないからね。
うちの学校の先生が性悪としか言いようがないよ。見たことあったのは本当に偶然なんだ」
「そうなんですかー!でもやっぱりすごいです」
「ハルちゃん……は、沢田君たちと知り合いなの?」
「そうですよ。家が近所なんです」
「へえ……」

ハルちゃんの勢いに助けられながら会話していると、
京子ちゃんとも合流して、歩き始めた。
エスカレーターを上っていると、素敵なカフェが目に入って、二人が立ち止まったからそこに入った。

「かえでちゃんは何人くらいに買うの?」
「三人。パパとママと、並木さんって人」

他にもお世話になってる人はいるけど、
クリスマスは毎年家族+1でささやかなパーティーをやるだけだ。
人はそれぞれの生活があるから、頻繁に会うのって難しいんだよね。
誕生日はいろんな人にプレゼントを贈るんだけどね。

「どんなもの買うか決めてますか?」
「今年は使い勝手重視かなーって思ってる。
去年は部屋に飾り物で、一昨年はマフラー、その前は似顔絵だったからね。二人は?」

毎年同じようなものじゃ、つまらない。
パパとか並木さんはめったにネクタイ締めない人だから、そういうものは贈れない。
今年は、ママには最近お疲れ気味だから癒し系グッズ、
パパにはあったら便利そうな料理器具、
並木さんには文庫用とハードカバー用のブックカバーかな〜と思ってる。

「私はお父さんとお母さんとお兄ちゃんと花とツナくんとリボーンちゃんと……」
「ハルは……」

と二人は指を折り始めたので、内心で苦笑する。
全員のプレゼントを考えるのは大変そうだな、と。
それとも小さな物を配るのかな?
私は狭く深い人間関係しかしない人だからそのへんがよくわからない。
あ、でもこの二人にも何かあげたいな。

「じゃあ早速探さなきゃ、ね」

二人がケーキを食べ終わったのを見計らって私は立ち上がった。
するとそのとき、「緑たなびく並盛の〜〜」という音楽が鳴った。
校歌の着メロは着信だ。
首を傾げる二人にごめんねと声を掛けて、表示を見て驚いて慌ててケータイを耳に当てる。

「もしもし恭弥先輩ですか?」
「…………」
「今、どこにいらっしゃるんですか?」
「並盛中央病院」
「えっ!怪我ですか、病気ですか、それとも誰かのお見舞いですか!?」
「入院」
「だ、大丈夫なんですか?」
「少し風邪をこじらせてね。あまりにも暇だから、見舞いにきてよ」
「わかりました。今日の夕方に伺います」
「じゃあね」
「はい」

電話が切れるのを待って、ケータイを耳から離した。
私を見ている二人に向かって苦笑する。
ハルちゃんが、

「大丈夫ですか?」

と聞いてきて、うん、と頷く。
怪我じゃなくて、あれだけしっかりとした声なら、
今すぐに会いに行かなきゃいけないほどじゃないと思う。
心配ではあるけど。
いつから入院してたのかな、とか、入院するほどの風邪、とか。

「でもごめんね、今日はそんなに遅くなれないみたい」
「もちろんだよ!早くお店回ろうね」
「行きましょう!!」

二人の協力もあって、プレゼント選びは中々満足のいくものが選べたと思う。
私は一度家に帰って、『暇つぶし』になりそうな本をいくつか持って、病院に向かった。


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