1.
――並盛は戦場と化していた。
未知の兵器の製造法はわからず、入手しがたい分だけ防戦を強いられている。
調べれば調べるほど謎が深まり、雲を掴むようだった。
不機嫌そうに眉を寄せる、恭弥の手を取って申し出る。
「恭弥、匣に触らせて。製作過程を見てくるから」
「……できるの」
恭弥は低い声で呟くように応じた。
私の提案を一蹴できないくらい、途方に暮れているんだ。
「やってみる。どこまで行けるかわからないけど、何度か潜ればちゃんと見られると思う」
万物の過去は共通のものだ。一つ過去を持つ物体があれば、どこまででもさかのぼっていける。どこにでもいける。
「君は耐えられるの?」
「触ってみないとわからない。でも、私も戦いたいの。組織のためじゃなくて、並盛が好きだから。この町を守りたいから」
この小さな心一つで『歴史』に飛び込むのは恐ろしい。
帰ってこられなくなるかもしれない。
それでも、マフィアのためでも組織のためでもない、この町を守るために、大切な人を失わないために、私にしかできない戦い方がある。一人じゃない。恭弥が恭弥の戦いをするのと同じように、私も私の戦いをするだけだ。一緒に戦わせてほしい。今ならきっと、決意の反動も背負い込める。
「怖いなら、できないって言いなよ」
「ちゃんと考えて、決めたことなの」
門外顧問という独立して対等な立場のおかげで私はボンゴレに利用されることなく、ただ恭弥の掌の内にあった。
私がやらなくてもいい、他の道を探すこともできると、わかっている。できることをすべてしなくていい、してはいけないって、言われている。理解と配慮をもらっている。
それは彼らの甘さで私への優しさだ。私が苦しむことを知っているから、強要しない。
"内藤さんが頑張らなくても、どうにかするから"
どうにかなったとしても、回り道をした分だけ誰かが犠牲になる。それなら、”できる範囲”を少しだけ拡大させたい。
「少しずつ訓練してみる。時間をちょうだい」
守りたいと思う気持ちは、自己犠牲じゃない。
短髪と髪飾り、懐中時計の鎖だけが残る童話のようなこと、対象が物でないなら、笑えないと思うから。
私の両眼は、両手は、大切な人を大切にするためにある。
恭弥が私を大切にしてくれるから、私も私を大切にして、恭弥を大切にする。
また平和な世界で一緒に笑えるように、彼が守ってくれたものを自ら損なわないように、彼が安心して戦えるように。
その上で、選んだ。
「必ず帰ってくるから」