猫と終わり。



しゅるりと元の猫の姿に戻って、貞姫を大阪城の屋根に降ろす。


「君は―魑魅魍魎の主になって何がしたい?」

ふと、秀元の声が聞こえた。

「徳川の世は明るいで…今よりもっとな。闇は―確実に消えてゆく。この先……妖には生きにくい世の中になる」

隣の貞姫は真剣な眼差しで二人のやり取りを見守っていた。

私は背中の毛をぺろぺろと舐めて毛づくろいする。


「人の行いも認め…妖の世界も守る。“共生”やな…。それはムズイで」

「そうでもないさ」

立ち込めていた暗雲から日の光が差し込んでくる。

「ワシが…無敵になりゃあいいんだからな」

…口だけは達者な奴め。

相変わらず毛づくろいしていると、下の方からバタバタと音が聞こえてくる。

「妖様〜〜!!」

「珱姫!?な、何故ここに!?」

「おケガを…」

言いかけた珱姫が崩れかけた屋根から落ちそうになる。

それを慌てて抱きとめたぬらりひょん。


ほんに面白い奴じゃ。

神に恋して、人と結ばれる、か。

どこまでも奇想天外な奴だった。


お?空から差し込む光が私に注がれる。

ああ。潮時か。


「にゃおん」


一鳴きすれば、その場の全員の目がこっちに向く。

「白尾ちゃん?そういえば、さっきの白い猫神は白尾ちゃんやったんか」

目を見開く秀元。

ああ、朧車の窓から是光も見えるのう。

「「猫様!」」

おやおや。姫様たちも皆登ってきてしまったのかい。

「白尾…!」

髪長姫を追いかけてきた狒々も私を見る。

そして珱姫を抱いて私を見るぬらりひょんの顔は驚いているようだった。

「白尾…、お前体が…」

天からの光に体が溶けていくのを感じる。

「にゃ。理に触れたようじゃからな。歴史の節目に手を出した神は罰せられるさだめ。狒々や。お前、なかなかに良い男じゃったぞ。姫達や。この私が助けたんだ。生きろ。秀元は、もう肉球を触らせてやることはできんの。それから…」

早口に、集まった面々に言葉をかけるが、否応なしに何千年も浮世を巡った体は形をなくしていく。

「ぬらりひょん。お前には楽しませてもらった。珱姫を…」


幸せにしてみせろ。

そして、またいつか面白い物語を見せておくれ。


チリン、と鈴の落ちる音がした。








遠くの山から白と黒の閃光が迸った瞬間、暗雲は全て晴れ、気まぐれで不思議な猫はもうどこにもいなかった。



ちりんと転がった鈴が陽の光りを浴びてきらりと輝いていた。



了.



そして400年後へ。





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