猫と貞姫。


「ぬ…ぬけてゆく!?こ…これは…ワラワの妖力が抜けてゆく!?」

羽衣狐の顔面に走る一筋の傷から黒い妖力が天井を突き破って迸る。

「まま待て…、どこへ行く…!戻りやあああぁぁ!!何年かけて集めたとおもうとるぅーーー!!」

抜けていった妖力を追いかけて羽衣狐も上へと飛んでいく。


「淀、殿…!?あいつ…なんということを…!!」


私の瞳に囚われて動けないしょうけらが自分の置かれている立場も忘れてその光景に目を見張る。

ぬらりひょんは珱姫を牛鬼に任せて、羽衣狐にとどめを刺すために追いかける。

それを見て、私はにやりと笑う。

「のう、貞姫や。おぬしにはこれからあの妖達の戦いがどうなるか視えるかえ?」

尋ねれば、貞姫はふるふると首を振る。

「私は…意思とは関係なく“ふと”視えるのです。今の私にこの結末はわかりません」

その答えに満足して私は喉を鳴らす。

「ならば、特等席で見せてやろう。貞姫、お前は“視る”ものなのだよ。この結末、最後までおぬしが見届けて後世に伝えるがよい」

そう言って、私はぶわりと巨大化して貞姫を背中に乗せて天井を突き破った。

闇の世界の決着を見届けるために。






暗雲立ち込める大阪城のてっぺん。

羽衣狐を追いかけたぬらりひょんは不意を突かれて肝を取られる。

それに、目を見張る貞姫。

ぶるりと体を震わせる彼女を私はからかう。

「怖いかい?戻ろうか?」

しかし、返ってきたのは力強い否定の言葉。

「いいえ。いいえ!私は…私が死ぬ運命を視てました。それなのに、私はこうして生きています。運命を変えてまで私を神が生き残らせたのだとしたら、私はきっとこの戦いの結末を見届けなければならないのです。表では決して語られることのない、この物語を」


そんな貞姫の言葉に、私は目を細める。

「良き面構えになったの、貞姫」

「猫神様の、おかげです」

「ほほ。ならば私の名も語り継いでおくれ。私の名は白尾、という。遥か昔に、愛しい人がつけてくれた大切な名じゃ」

「白尾、様…」

「ああ、ほれ。そんなことより羽衣狐が本気になったぞ」


ぬらりひょん。お前は面白い奴じゃが、本当に羽衣狐を倒して珱姫を幸せにすることが出来るのかい?

そのときだった。


「 式神破軍 」


涼やかな声が響いた。


そして黒い文殊が羽衣狐を絡め取り、その動きを止める。


「邪魔するな…、秀元」

血まみれのぬらりひょんに秀元は笑う。

「おいおい…、その刀造ったんボクやで?よう斬れるやろ。ぬらちゃん、ええとこ持っていき」

「ち…。お前に借りを作ることになんのかよ」

秀元自慢の妖刀を手にぬらりひょんが動けぬ羽衣狐に迫る。

「ま、またんか!!」

必死に声を張り上げる淀殿。


「悲しいのう。羽衣狐。私はお前とも友になれると思っていたのじゃがな」


一閃。


私の呟きは羽衣狐のおぞましい呪詛に掻き消された。

「お…おのれぇええ!おぬしら…!ゆるさん!絶対に許さんぞ!呪ってやる!!呪ってやる!!ぬらりひょん、わらわの悲願をつぶした罪…必ずや償ってもらうからな!!おぬしらの血筋を未来永劫呪ってやる!何世代にもわたってな…!おぬしらの子は孫は!!この狐の呪いに縛られるであろう!!」

そして、依代を失った羽衣狐は遥か遠くに飛び去って行った。

これにて、大阪城の決戦は終いじゃ。

私の物語も、じきに終わる。





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