猫としょうけら。


やはり、お前は期待通り…いや、それ以上の妖じゃのう。ぬらりひょん。


羽衣狐に向けた不意打ちの刃は京妖怪に阻まれたけども、そのおかげでこちらへの意識が京妖怪達から逸れた。

さて。神の気まぐれも長くはもたぬぞ、ぬらりひょん。

早いところ決着をつけておくれ。


「ワシは奴良組総大将ぬらりひょん。珱姫はワシの女じゃ。わりぃが連れて帰るぜ」

そう珱姫を振り返ったぬらりひょんと私の目があい、ぬらりひょんは目を見開く。

「白尾…?」

「にゃおん」

驚く彼に満足そうに鳴いてみせる。

白く光り輝き、ふわりふわりと長い毛がなびいている様はもはやただの猫には見えぬじゃろう。

そんな私たちの様子を見ながら淀殿…いや、羽衣狐が眉をひそめる。

「なんと…妖までもが人を助けに?異なことをする奴らじゃ。血迷うたはぐれ鼠か何かか?」

その瞬間、壁を突き破り四方から妖の大群がなだれ込んできた。

あやつの百鬼夜行か。立派なもんだ。

しかし、壊れた壁の破片が飛んでくるのはいただけない。

せっかく助けた姫達に当たるのも可哀想だからといちいち弾いてやるこちらの身にもなってほしいものだ。


おお。牛鬼に狒々もいるな。

なんてことを面白く眺めていた一瞬の隙をつかれて、京妖怪に姫達を奪われてしまった。

「にゃにをするか!」

思わず吠えると、驚いたように狒々が私を見る。

「ああ?なんで白尾がこんなところにいるんだぁ?しかも、今喋って…」

どすどす、とこっちに来た狒々を丁度良いと指示する。

「狒々、あそこの髪の長い姫を助けてやれ。私が一度助けたものに傷つけさせたら許さんからな。それから、そこの一つ目。お前はあの小さな姫を護らんか!ほら、さっさと動け!」

「な!?」

「なんでい、この猫は!」

狒々と一つ目がそれぞれ戸惑っているのを無視して私は他の姫に目を配らせる。

珱姫は…、羽衣狐のところか。
あれはぬらりひょんに任せるとしよう。

もう一人の姫は…

さっと周りを見渡して、銀色の髪をした髪…しょうけらに捕まっていた。

ひらりと私はしょうけらのもとまで飛んで見上げる。


「久しいのう、しょうけら」


「白尾…」


しょうけらとは長い付き合いだ。

実際のところ淀殿よりも長い付き合いだったりするのだが。

「このような形で再会するとは…残念だが、これも神の思し召しか」

「たわけめ。その神が私じゃとさっき正体を明かしただろうが」

鼻で笑った私に、しょうけらは十字架を持って首を振る。

「私の神はマリア様…羽衣狐様のただ一人だ」

「なおさら阿呆が。羽衣狐は神じゃなくただの妖よ」


会話の隙に伸ばした尻尾はしょうけらの刀に弾かれる。

「…姿形は立派になったが…その程度の力なのか?」


訝しむようなしょうけらに私はふんっと鼻を鳴らす。


「もともと私は武闘神ではないのでのう。…しかし、ひとつお前には面白いものを見せてやろう」


体からは急速に力が抜けていく。

早いものだ。

理とは本当に無慈悲なものだ。

しかし、ここで手を出したのは私自身。

最後までやらせておくれ。


「私はもともと盲目で生まれてきた猫。それを憐れんだ月の神、月詠が私に授けてくれた右目。夜の夢現の幻影を見せてやろう」

にやりと笑った私の銀色の目から靄が広がり、しょうけらを包み込む。

「…!これは…!」

靄がかたどったのは戦帷子に身を包んだ戦士たち。

それに囲まれたしょうけらは仕方なく刀を突きつけていた姫から手を放し、靄との戦いに身を投じる。

そこを見逃すはずもなく、尻尾を伸ばして姫を救出する。

「あ、ああありがとう…ございます…!神様…!」

青い顔でがたがたと震えながら礼を言う姫の頬に私は肉球をぷにっと押し付ける。

「姫よ。戦国の姫ならばもっと毅然とするがよい。それに、お前も神通力持ちなのだろう?」

問えば、びっくりしたように目を見開く姫。

「は、はい…。私は先を視ることのできる、貞姫と申します」

「うむ。覚えておこう」

そう言うと、貞姫は初めて少し笑った。

その体はもう震えてはいなかった。




「白尾…。このような幻影ごときで私を倒すことなど出来ぬ」

貞姫と話しているうちにしょうけらは靄を打ち払ってしまったらしい。

「なかなかできる奴よのう。…しょうけら。お前にはよく飯をもらった。話もしてくれた。良い友になれると思ったが…」

「ここまでのことをしておきながら、虚言を…」

私と貞姫に向かって刀を振りかぶるしょうけらに私は溜息をついた。

「悲しいのう。ほんに、悲しいぞ」

そう言って今度は私は右目をつぶって左目でしょうけらを捉える。


「!!…な!」


そうして不自然な恰好のまま固まったしょうけら。

「動けぬだろう?私の左目は、片目しかない私を憐れんだ天照大御神から頂いたもの。闇の化生はこの瞳に捉えられるだけで動けなくなり、私の意思で一瞬にして消える」

「き…さま…」


金色に輝く瞳を僅かにゆがめて私はしょうけらを見る。


「悲しいのう。だが、さらばじゃ」



その時だった。


―ドンッ


「おおおおおおおぉおおお!!」


羽衣狐の悲鳴が響き渡った。





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