大きな背中にときめくのは女だけじゃない。



「デミッド中将。会議のお時間です。会議室に向かって下さい」

エミリアが、ソファで寝転がって干し梅を齧りながら海を眺めているデミッドに声を掛ける。


「えぇ〜。会議?めんどいなぁ。僕なんて存在が空気なんだから行かなくても良くない?」

実際、最年少の中将であるデミッドの意見は会議においてほとんど求められることなどないし、エアエアの実の能力者なだけに本当に存在を空気にできるのだからデミッドの言葉は間違ってはいない。

エミリアははぁっとため息をついて、そっとデミッドに呟く。

「せっかく今回私が苦労して、幻の“冬になった梅”を使った干し梅を入手したというのに…いらないならば部下に差し入れておきますが…」

「やだなぁ〜、エミリアちゃんったら。僕が会議に出ないわけがないじゃないか。帰ってくるまでにお茶の準備お願いね」

デミッドは素早く起きあがるとあっという間に部屋から出て行ってしまったのだった。









あ〜ぁ、めんどくさ。
いくら幻の干し梅のためとは言っても…
…めんどくさ。
結局サカズキさんから有給休暇の許可はおりなかったし。


内心溜息をつきながら会議室に向かうべく廊下をゆっくりと歩いていると、前方に見知った背中を見つけた。

「モ〜モちゃんっ」

同じ中将の中での数少ない友達(自分で思っているだけかも)の背中にがばっとかぶさると、少し怒ったような声が返ってくる。

「貴様…。いつも俺の背中におぶさるなと言っているだろうが」

モモンガがこめかみをひくつかせながらデミッドを振り返るが、デミッドはお構いなしにモモンガの首に後ろから腕をまわす。

「モ〜モちゃーん。僕さ、前の任務で怪我しちゃったから歩くのやだ。会議室までおぶって」

自分よりも大きな背中に体重を預けると、モモンガは文句を言いながらもきちんと背負ってくれた。


「いや〜。モモちゃんって優しいから大好き」

モモンガの優しさに感動して愛の告白をしてみるが、モモンガはやめろ、気持ち悪い。の一言だった。

その言葉にあはは、と笑いで答えてからデミッドは呟く。



「…ドレーク少将が海軍辞めて海賊になったらしいね」

「…あぁ。今日の会議もそのことが主だろうな。…全く奴の考えていることが分からん。ドレークとお前は仲が良かっただろう。何か聞いてなかったのか?」

背中越しに響くモモンガの声にデミッドは苦笑する。

「なぁんにも。まさか僕に何も言わずに行かれるとは思わなかったなぁ」

デミッドは自分の情けない声に自分でも驚いた。思った以上にドレークのことについてはショックを受けてたんだな、僕。とようやく自覚する。

モモンガもデミッドの普段とは違う声色に何かを感じ取ったのか、そうか、と小さく頷いただけだった。



「でもね」


デミッドはもっと声を小さくしてモモンガに呟く。

「僕にはドレークの気持ちが分かる気がするよ」

その言葉にぴくっとモモンガの背中が反応する。


「それから、ドレークのことは寂しいというより、正直先越されたなぁって感じなんだよねぇ」


中将として、思うことはおろか言ってはいけないデミッドの言葉にモモンガは眉をしかめた。


「…今のは聞かなかったことにしよう。お前も気をつけることだな。ただでさえお前は目をつけられている。何があったかは知らんが早まるなよ」

同じように小声で返されたモモンガの言葉にデミッドは嬉しそうに笑う。

「本当に優しいなぁ。モモちゃんってば。大丈夫。ここを出て行く時はきちんとモモちゃんには挨拶しに行くからさぁ」

「おい。おれの言ったことを聞いていたのか?」

前を向いたまま不機嫌そうに言うモモンガにデミッドはけらけらと笑う。

「やだなぁ、モモちゃんったら本気にしちゃって〜。もしもの話だよ、もしもの」

そんな馬鹿なもしもの話があってたまるか、と怒ったように言うモモンガにデミッドは目を細める。



「ねぇ、モモちゃん。“正義”ってなんだろうね」




静かな廊下に落ちた言葉にモモンガが反応する前に、デミッドはするりとその背中から降り立った。

「ここまでおぶってくれてありがとう、モモちゃん。後は自分で行けるからまた会議室で会おうねぇ〜」

ひらひらと手を振ったデミッドは一瞬で消えてしまった。恐らく能力を使って移動したのだろう。




「おれが運んでやる必要などなかったではないか」

後には憮然とした表情のモモンガが残されていたのだった。







《○月□日
天気:晴れ時々あられ
気分:めんどくさい

ドレークが海賊になったんだって。面白いよね。
やろうと思えばなんだってできちゃうんだねぇ。
本当に人って面白いよ。

みたいな話をモモちゃんとした。



会議は思ったとおりめんどくさかった。
暇つぶしにほじくった鼻くそをこっそり飛ばしてみたらガープ中将の髭についちゃった。
まぁ、本人は寝てたから気付かなかったみたい。良かったね。


今日も一日暇でした。

byデミッド》





―大きな背中にときめくのは女だけじゃない。―



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