元気の良さに花丸をあげよう!
「さて。それじゃ、いつもの通り頼むね。エミリアちゃん」
目標の船を視界に捉えられるほどの距離まで接近した船の甲板の上でデミッドがエミリアに、へらっと手を振る。
「分かっております。どうぞお気をつけて」
淡々と答えたエミリアの頭を一回くしゃっと撫でてから、デミッドは甲板からふわっと海へ落ちて行った。
「えっ!?エミリア中尉!デミッド中将が海に!」
助けに行かなければ!と駆け出したローザをエミリアは片手で止める。
「心配ないわ。黙って見てなさい」
でも!と慌てた表情で海を見たローザの目に映ったのは、船も何も無いのに海を滑るように渡って行くデミッドの姿だった。
唖然としてそれを見つめるローザに、クロアがそう言えば、と声をあげる。
「確か、デミッド中将は何かの能力者だとは聞いたことがあります」
エミリアはそうよ、と頷く。
「何の能力かはそのうちあなた達にも分かるわ。とにかく、これから私たちがすべきことはデミッド中将が倒した海賊たちの拿捕です。合図があるまで準備して待機なさい」
エミリアの指示を受けて、海兵達は慌ただしく準備を始める。そんな中で、ローザとクロアだけは動けなかった。
「ち、ちょっと待って下さい!さっきも言いましたが、相手はあの“土蜘蛛”ですよ!?ただでさえ海軍船一隻では相手にならないというのに、デミッド中将一人で奴らを倒しに行ったというんですか!?」
「そうですよ。いくらデミッド中将が能力者とは言え、奴らは10年間海軍が手出しできなかった大物です。これではデミッド中将を見殺しにするようなものです」
ありえない、と反論する二人にエミリアははぁっと大きくため息をついた。
「ぎゃあぎゃあ騒がないでちょうだい。あなた達はヒナ嬢のところにいたのでしょう?そこではそこなりのルールや戦略と言うものがあったでしょう。ここにも同じようにデミッド中将が決めたルールというものがあるのです」
それにしても、と言いつのる二人にエミリアは顔を険しくする。
「勿論相手によって柔軟に戦略を変えることの出来るルールです。今回の相手にはこの戦略が最善と中将が判断したのです。一度中将のもとについたからには彼のことを信じなさい。彼が背負う正義を」
そう言い放つと、話が終わったというようにエミリアはほかの海兵に指示を出しに行ってしまった。
残された二人は微妙な顔を見合わせたのだった。
「や。こんにちは〜。ご機嫌は…うん。あまり良さそうじゃないね」
“土蜘蛛”の船に着いたデミッドが軽く手を上げて挨拶すると、船にいたガラの悪い男たちがギラリとデミッドを睨みつけた。
「貴様、何者だ。この俺を“土蜘蛛”としっての侵入か」
中央で、ひと際大きな体で目立ったコートを羽織った男がデミッドに静かに問いかける。
「あー、おたくが“土蜘蛛”くんね。うん。なかなか良い覇気だね。それでね、僕海軍の中将のデミッドって言うんだけど、大人しく捕まる気ない?」
デミッドがにこやかに話しかけると、一瞬甲板が静まり返った後、だははは!と大爆笑が起こった。
「こいつが中将!?頭おかしいんじゃねェの?」
「天下の“土蜘蛛”海賊団に捕まれ、だとォ?たった一人のくせにばか言ってんじゃねェよ!この10隻の海賊船が見えてねェんじゃねェのか?」
「頭ァ!こいつぶっ殺しちまおうぜ!」
がやがやと騒ぐ船員達をダッドは片手で黙らせると、にやりと笑って口を開いた。
「坊ちゃん。どういうコネで中将になったかは知らないが、ちょいと調子に乗りすぎちまったな。ちょうど今からこの国をぶっ壊そうと思ってたんだ。その前座に、悪いがお前さんにゃあ死んでもらうぜ」
なぁ、お前らぁ!とダッドが船員に声をかけると、全員が海を揺らすほど、うおぉー!と大きな歓声を上げた。
「う〜ん。元気はいいね。花マルあげたくなっちゃうくらいだ。でも、かわいそうに。もうちょっと大人しくしとけばインペルダウンへは行かずにすんだかもしれなかったのにね。知ってる?あそこ超怖いんだよ〜…っと。話してる最中なのに攻撃しないでよねー」
構わずむかってくる海賊達にデミッドは、はぁっとため息をついた。
「あ〜ぁ。残念だ。おしゃべりはおしまいってことかな。これじゃあ、僕もやるしかないよね」
デミッドは向かってくる海賊達にふにゃりと笑った。
「大丈夫。君達を殺しはしないから」
―元気の良さに花丸をあげよう!―
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