世界が輝いて見えたのだろうか。
「あ、れ…?」
確かに、自分は船から降りようとしたはずだ。
思考が追いつかない状況で、デミッドは必死に頭を巡らせる。
「なーんで、白ひげさんが目の前に…?」
どうやら、今自分は船の外に落ちようとしたところを白ひげに腕を掴まれて宙ぶらりん状態になっているようだ。
いつの間に白ひげはこの場に居たのか。
全く気づかなかった。
「あ、はは、どうも」
自分の腕を掴んで見下ろす白ひげにとりあえず笑ってみる。
が、次の瞬間
「グラララ。このアホンダラが」
白ひげはそう言うと、ぶんっと腕を振ってデミッドを船の上に投げ飛ばす。
「いててて!」
受け身をとったのにも関わらず体に走った痛みに思わず声が出る。
「小僧。誰が降りて良いと言った」
上から降ってくる声にひやりと背筋が冷たくなる。
「あれ。もしかして、これ、逃がさない的な?死亡フラグだったりします?」
笑えない。
白ひげ相手にこの状況は笑えない。
そんなデミッドを見下ろして白ひげは笑う。
「グラララ。俺ァ、約束は破らねェ。次の島まで乗せてやるってんだから大人しく乗ってろ」
「…は?」
白ひげの言葉に、今度は違う意味でデミッドは固まる。
「…!親父さん!しかし、そいつは海軍の…!」
声を上げたのは未だ動けずにいるジンベエ。
「ああ?こいつが海兵だから何だってんだ、グララ。そんなんでびびるような腰ぬけがこの船にいるってェのか?」
ぎろり、と白ひげが甲板を見渡す。
それに一斉に首を振る船員達。
それを呆気にとられて見ていたデミッドは我に返って首を振る。
「いやいやいや。それは駄目でしょ。この船にはいられませんよ。僕、仮にも中将ですよ?」
「何だ、おめえ。休暇中じゃあなかったのか?」
「いや、そうですけど…」
「グラララ。なら良いじゃねェか。息子が拾ってきたのに違いはねェんだ。それを親が途中で捨てるわけにもいかねェだろうが」
「はぁ…」
妙な説得力を含んだ言葉に、デミッドは気が抜けたように答えることしかできなかった。
「野郎ども、宴の続きだ」
そう言って白ひげは船首の方へ歩いていってしまった。
「おい!デミッド!」
ぼうっとしてたところに突然後ろから声がかけられる。
「うえ!?な、何?」
振り返ると、エースが怒ったように立っていた。
「お前、なんであんな危ないことをした?」
「あ、危ないこと?」
思い当たらずに首を傾げたデミッドを見て、エースは帽子に手を当ててため息をつく。
「能力者、なんだろ?海に落ちたら終わりじゃねぇか」
「いや、それは…」
「そうだぜ!俺なんか落ちるお前を助けようと咄嗟に海に入る準備をしたんだからよ」
そう言ったのはサッチで、確かに、いつも頭にあるコック帽は地面に丁寧に置かれていた。
「あ、あは」
それを見て何だか笑いが止まらなくなってしまった。
「あははは!あ、あは…!はははは!」
笑いすぎて、体に力が入らず甲板に仰向けになる。
エースとサッチが、とうとう頭が可笑しくなったのか?と顔を見合わせていたが、そんなの全く気にならない。
「あははは!はぁ…あっははは!」
駄目だ。苦しくって涙まででてきた。
どれくらい笑い続けたのだろうか。
ようやく、だいぶ落ち着いてきて、デミッドは深呼吸する。
「はぁ…。星が、綺麗だ」
涙でじんわりとかすんだ夜の空にはたくさんの星が輝いていた。
陸にいるときよりも、海の上の方が星って綺麗に見えるのだろうか。
それとも―…
いつの間にか傍らで同じように甲板に横になって空を見上げていたエースとサッチがデミッドを見て、ニカッと笑ったのだった。
―世界が輝いて見えたのだろうか。―
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