胸の痛みに知らぬふりをした。
「海軍…?」
「中将…デミッドが?」
宴会をしていた甲板にざわざわと声が広がる。
「貴様!何が目的で親父さんの船に…!」
全員が注目する中、ジンベエがデミッドに問い詰める。
「あは、やだなぁ〜。人違いじゃないですか?」
一応、否定はしてみたものの、ジンベエは一層視線を険しくしてデミッドを睨む。
「お前さんのことを忘れるはずがないじゃろう。七武海の招集で行った海軍本部で、お前さんはわしを呼びとめて…『クジラとジンベエ鮫ってどっちのが大きいの?』と聞いてきたじゃろうが!」
ジンベエが怒ったように言うと、デミッドがああ、と手を叩く。
「そうだ!結局あのとき答えてくれなかったんだよね、ジンベエくん。あれから、僕気になって夜も寝れずに…あっ。やば」
しまった、とデミッドが口を紡ぐが既に遅く、ジンベエがほれ見ろ、とデミッドを指さす。
「やはりデミッド中将じゃな。何が目的かは知らんが、親父さんに仇なすものは放っておけん!」
「ちょっと待って、落ち着こうよ」
ジンベエの攻撃をかわしながらどうにか話をしようとするデミッドだったが、話しあうつもりが毛頭ない様子に思わずため息が漏れる。
「仕方がないなぁ」
ほんとは手を出したくはなかったんだけど。
「エア・バンド」
そう呟いてデミッドはジンベエに向かってくるりと指を回す。
「!!何じゃ、これは!」
「ジンベエ!?」
突然動きの止まったジンベエに周りが驚く。
「悪く思わないでね。そっちが話を聞こうとしないんだから」
笑うデミッドに、初めて白ひげのクルー達から敵意の目が向けられる。
「お前、能力者かい」
静寂を打ち破って、マルコがデミッドに問う。
「うん」
頷いたデミッドにマルコは顔をしかめる。
「…中将ってのも本当かい?」
「…うん」
再び首を縦に振ったデミッド。
「お前、俺らをだまして親父の寝首を取ろうとでも思っていたのかよい」
宴会の騒ぎが鎮まった静かな夜にマルコの声が冷え冷えと響く。
デミッドはマルコの目を見てから、ぐるりと周りを見渡し、ため息をつく。
「…だから言ったでしょ。知らない方がお互い良かったのにねぇ。僕は警戒されてこの船での生活を楽しめなくなるし、マルちゃん達は僕を警戒しなくちゃいけなくなる」
「当たり前だろい。それとも、お前は俺達に敵意がないとでも言うつもりかい」
そう言ったマルコにデミッドはへらりと笑う。
「ないよ〜。だって、僕今海軍長期休暇中だもん」
「は?休暇中?」
デミッドの言葉にサッチが思わず聞き返す。
「そうそう。でも、どうせそんなの君らは信じてくんないでしょ。だから黙ってたのに。ジンベエくんのせいでぶち壊しだよ、あはは」
静かな甲板にデミッドの笑い声だけがむなしく響いた。
「…ま、でも、騙してたのは本当だし、ばれちゃしょうがないか」
そう呟いて動き出したデミッドに身構える白ひげ海賊団。
カツカツ、と靴音をたててデミッドは船縁の方へゆっくり歩く。
デミッドの周りを囲んでいた船員達は、デミッドに気圧されるように道をあけていく。
「!!?おい。何するつもりだ?」
船縁の手すりの上に飛び乗ったデミッドを見て、見守っていたエースが声を上げる。
「火拳くんには本当に感謝しているよ。僕を助けてくれてありがとう」
へらっと笑ってデミッドは頭を下げる。
そういえば、シャンクスに心の底から笑えって言われたな。
嘘をつかずに最初から彼らと向き合ってれば笑えていたんだろうか。
一瞬、そんな考えが浮かんでデミッドは苦笑する。
「白ひげ海賊団の皆にもお世話になったね。あ、それから白ひげさんにはよろしく伝えといて。少しの間だったけど、うん。楽しかった。ありがとう」
誰もが何も言えない中、デミッドがとんっと手すりを蹴りあげる。
「じゃあね」
―胸の痛みに知らぬふりをした。―
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