他人の空似だと思います。


「んで?」

マルコが机に頬杖をつきながら、床に正座しているデミッドを見下ろす。

「正直に話せよい。どうやってこの部屋から出た?」


「だから〜。するっと。ね?するっと抜けたんだってば」


何度も交わされた同じやりとりにマルコは苛々と机を叩く。

「抜けられるわけねぇだろい。ドアには鍵が掛かってたんだぞ」

「うん。だからね、空気に溶けてする〜っと。ほら、僕なんて存在が空気だからさ」

「ふざけんのも大概にしろよい。だいたい、てめえみてぇに濃い奴を空気とは言わねぇよ」

深くなってくるマルコの眉間のしわの数を数えながらデミッドは困ったように笑う。

「あはは。マルちゃんと話が通じない。誰か通訳呼んできて〜」

「通訳が欲しいのはお前じゃなくて俺の方だよい…」

疲れたようにマルコが言ったとき


コンコンッ


丁度、マルコの部屋のドアが控えめに叩かれた。

「開いてるよい」

マルコが声をかければ、遠慮がちに開かれたドア。

顔を覗かせたのは、一番隊の隊員だった。

「あの〜、マルコ隊長…」

「何だい」

機嫌が悪い声でマルコが答えれば、隊員は息を飲みながらも恐る恐る言葉を発する。

「え、宴会の、用意が出来たんで、客人と一緒に出てくるようにと…親父が」

それを聞いて、マルコが舌打ちをする。

「もうそんな時間かい。今行くと伝えといてくれい」

その言葉を聞いた隊員は触らぬ神に祟りなしとばかりに、頷くとそそくさとドアを閉めて去っていった。


「仕方ねぇ。続きは後だ。行くぞい」

隊員の去った部屋で、マルコが立ちあがってドアノブに手をかけるが、一向にデミッドの動く気配がない。

不審そうに眉をひそめて振り返ったマルコの目に映ったのはひきつった半笑いで、自分に助けの手を求めるデミッドの姿。


「マルちゃん…。正座、で、足、痺れた…。動けない…」





「おっ!デミッドとマルコ!」

甲板では、既に宴が始まっていた。

その中心にいたエースはやってくる二人の姿を見つけて手を振るが、二人の変な様子に首を傾げる。


「マルちゃんがそんな奴だとは思わなかった。ほんと、失望した」

「馬鹿だねい。ああいう時は一気に動かした方が良いんだよい。むしろ感謝しろい」

「足が痺れてるときに地面を引きずられる人の気持ち考えたことある?地獄だよ。そもそも、正座させたのマルちゃんなんだからね。全部マルちゃんが悪い」

「そもそもの大元を辿れば、てめえが勝手に抜け出したのが悪いんだろい」

「…正論ばかりの男って嫌われるよ」

「余計なお世話だねい」




「…?何だか知んないけど、お前ら仲良くなったな」

「なってない」

「なってねぇよい」


エースの言葉に揃って返した様子にサッチが笑う。

「ぶはははっ!あんな怒ってたマルコがここまで丸くなるとはなぁ。心配して損したみたいだな」

サッチに背中を叩かれたマルコは憮然とサッチの頭を叩き返す。

「うるせぇよい。…それより、親父はどこだい?」

マルコの質問に、笑いをひっこめたサッチがデミッドをちらりと一瞥してから答える。

「今日は客が重なってな。今、親父の部屋で話してるよ。もうすぐ来ると思うが…」

その言葉にマルコは顔をしかめる。

「よりによって今日かい」

「あまり他人にここに来ていることを知られたくないっていう向こうの意向もあるが…こいつなら大丈夫だろう」

「…どうだかねい」

サッチに指を指されたデミッドは首を傾げる。

話についていけない。

しかし、そんな疑問もすぐに吹っ飛んだ。




「あれま」

「!!?お前は…!!」


甲板に出てすぐのところにいたデミッドは、白ひげの部屋から出てきたその男と顔を突き合わせる形になり、その場の時が一瞬止まった。




「"海侠"のジンベエ…?」

「海軍本部のデミッド中将…!!」





―他人の空似だと思います。―


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