悪戯はばれないように。


「ねぇ、マルちゃん」

「…何だよい」

「僕、男と寝る趣味ないんだけど」

「俺もだよい!ってか誤解を生むような言い方すんじゃねぇよい!空いてる部屋がなかったから俺の部屋に泊まれって言っただけだろうが」

怒鳴ったあとに疲れたようにふぅ、とため息をつくマルコを見てデミッドはあはは、と笑う。

「冗談だよい。感謝するよい」

笑いながら言うデミッドをマルコがじろりと睨む。

「真似すんじゃねぇよい。そんなふうに言われても感謝しているようには聞こえねんだよい」


「あはー。だってマルちゃんこそ僕を自分の部屋に泊めるのには意図があるくせにー」

マルコを見ることなく部屋に視線を巡らせながら言うデミッドの言葉にマルコはピクリと眉をあげる。

「まぁ、そりゃ得体の知れない人間を一人にさせるなんて流石の白ひげさんもしないよねぇ」

呟くデミッドに今度はマルコは馬鹿だねい、と吐き捨てる。

「親父はお前が一人でいようが何しようが気にしねえよい。これは俺の独断だ」

部屋のベッドにダイブしていたデミッドはその言葉に、ドアに佇むマルコを振り返る。

「ありゃ。それは…マルちゃんってば心配性なのね」

苦労するね、と同情の目を向けられたマルコは口元をひきつらせる。

「…てめえは口が減らないねい」

「それが長所ですからぁ」

へらっと笑ったデミッドをじろりと睨んでマルコは背を向ける。

「あれ?マルちゃんどこ行くの?」

「仕事を任せた隊の様子を見に行くんだよい」

「じゃあ、僕も…」

「お前は部屋で大人しくしてろい」

「ありゃ」

手厳しい、と頭を掻くデミッドを残してマルコはドアを閉めたのだった。





「なぁんてね。せっかく白ひげさんちにいるのに何もしないなんて退屈だよねぇ」

へらっと笑ってデミッドは静かになった部屋のドアノブを回そうとした。

…が。

「あれ?外から鍵がかかってるなぁ。マルちゃんにはだいぶ警戒されてるみたいだねぇ」

ま、鍵なんて関係ないけどね。

悪戯をする子供のように笑ったデミッドはするりと空気に溶けるように消えていったのだった。





「いやぁ、精が出ますね」

にこにこと笑いながら話しかけると、甲板掃除をする船員達は手に手にモップや雑巾を持ちながら手を振ってくれる。


「おう、お前がエース隊長が拾った遭難者か」

「よく助かったな!エース隊長のお陰だぞ。礼言っとけよ」

「でも、お前のお陰で今夜は宴だからな!俺達はお前に礼言わなきゃな」

「そりゃそうだ!」


そう言って笑う船員達をデミッドは目を細めて見つめる。

陽気な船だ。

シャンクス達の船に雰囲気が良く似ている。

一度話しかければたくさんの船員から返される他愛もない話に興じて、すっかりデミッドは船員達と馴染んでいたのだった。


「おう!デミッドじゃねぇか!」

突然、後ろから掛けられた声に振り向くとそこにいたのはニカッと笑うエースで。

「やぁ、火拳くん。起きたんだね」

そう言えば、何の話だ?と首をかしげるエースにデミッドは苦笑を漏らす。

「だって、君、食事の最中に突然寝たからね。驚いた驚いた」

「あぁ、すまねぇな。あれは…まぁ、癖みたいなもんなんだ。気にすんな」


癖って…。

まぁ、別に心配したわけじゃないから良いけど。

「でよ、なんかマルコの野郎が般若のような顔してお前のこと探してたけど、何かしたのか?」

苦笑していたデミッドはエースの言葉に、ぽりぽりと頬を掻く。


「あちゃ。もうばれたか。どうしようかなぁ。…ねぇ、火拳くん。マルちゃんから逃げたいんだけど良い隠れ場所知んない?」

そう聞くと、エースは何か納得したように頷いてデミッドの腕を取る。

「あのマルコを相手にすると怖ぇからな。よし、行くぞ!」



あぁ、火拳くん。
君もよくマルちゃんを怒らせてるんだね。


対応の素早さに自分と似たものを感じたデミッドは心の中でマルコに対して少しだけ本当に同情したのだった。





―悪戯はばれないように。―



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