借りたもんは笑顔で返せ。


「ここだよい。中で親父が待ってる」

連れて行かれた一際立派な部屋の前で、マルコがちょっと待ってろい、と言い残して部屋に入っていく。

手持ち無沙汰に壁に寄り掛かっていると、中からぼそぼそと声が聞こえてきたが、特に気にすることなくデミッドは空を飛ぶかもめを見上げていた。

しばらくすると、マルコが出てきて親指でくいっと部屋を指す。

「入れ」

素気なく言われた言葉にへらりとした笑顔で返してデミッドは部屋に入る。





「グララララ。おめえがエースの野郎が拾ってきた小僧か」

入った瞬間に盛大な笑い声がデミッドを迎える。

負けじとデミッドも笑い返してやる。

「あはははは。そうです、危うく野垂れ死ぬところだったデミッドと言います。あなたがかの有名な白ひげさんですかぁ」

そう言ってやると、白ひげは面白そうににやりと笑った。

「そうだ。デミッドとか言ったか。この海で遭難して助かるたァたいした悪運の持ち主だ」

「いやぁ、白ひげさんに褒めてもらえるなんて光栄ですねー。あははー」

「グラララ、クソ生意気なアホンダラだな。で、おめえは何だ。旅の途中か?」

探るような目にデミッドは軽く頷く。

「まぁ、そんな感じです。探しもんしてましてね」

「探しもんだァ?」

手に持っていた酒を喉に流し込んで白ひげは首をかしげる。

それにデミッドは曖昧に返事を返す。

「そうなんですよ。蜘蛛を…探していまして」


内心、白ひげなんて大物に真正面から対峙して怖れがないわけではない。

ない…が、それよりもデミッドの中では好奇心の方が勝っていた。

世界最強の海賊と言われる白ひげ。
海兵であれば直接こうして話すことなど出来るはずのない存在。


「蜘蛛…か。グララ。悪いが俺ァ知らねェな」

意味深に笑うこの男は全部を分かっているのかも知れない。

何もかも見透かされているような感覚にデミッドは鳥肌がたつのを感じた。

「いやぁ、ま、そんな簡単には見つからないだろうなぁとは分かっていますんで。それよりもご飯もご馳走になりましたし、僕はそろそろ…」

「グラララ、慌てんじゃねェよ。一度うちの馬鹿息子が拾っちまったからには最後まで面倒見てやる。近くの島に着くまでのんびりしていけ」

言われた内容に流石のデミッドも狼狽する。

「い、や…そこまで面倒かけるわけにはいかないというか…」

「ごちゃごちゃうるせェよ。なぁに、島に着くまであと2,3日だ。だいたい今出ていこうったっておめえ、ログポース壊しちまってんだろう?せっかく拾った命を無駄になくされちゃたまんねェからな」

言われた言葉にデミッドは呆気に取られる。



海賊って…

海賊ってなんだったっけ?



黙り込んでしまったデミッドを横目で見て、白ひげはマルコを呼ぶ。

恐らく扉の前で待っていたのだろう。呼ばれてすぐにマルコが部屋に入ってくる。

「どうしたい、親父」

「次の島までの客人だ。今夜は宴だと息子達に伝えてこい」

言われて、マルコはデミッドをちらりと一瞥してから頷く。

「了解。こいつの部屋はどうするよい」

「おめえに任せる。拾ってきたエースと一緒にこいつの面倒見てやりな」

マルコははぁっとため息をついて顎でデミッドを促す。

「行くよい。部屋に案内する」

ついてこい、と目線で言われるが、デミッドはうーんと悩んだまま動かない。

「いい加減にしろい。さっさと動け」

デミッドはいらついたように言うマルコを見て、次に白ひげを見る。

「うーん。困ったなぁ。ここまでされちゃうとなぁ…」

ぶつぶつと呟くデミッドは何かを思いついたようにぽんっと手を叩く。

「そうだ。じゃあ、白ひげさん。今回のことはひとつ借りってことで。いつか借り返させてもらいますよ」

うん。これなら罪悪感もなくなるよね。と頷くデミッドの言葉に白ひげがグララ、と笑う。

「おめえみたいな小僧がおれにどんな借りを返してくれんのか楽しみにしてるぜェ」

「あはは。利子付きで返しますよ。じゃあ、しばらくお世話になりますね。よろしく白ひげさん」




―借りたもんは笑顔で返せ。―



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