牽制球は飛ばしすぎるな。


「火拳くんさぁ…、それギャグ?笑えばいいの?それとも心配した方がいいのかい?」

デミッドは大盛りの炒飯の中に顔を突っ込んでピクリとも動かない正面に座るエースを見ながら一人ごちる。

「気にするない。そいつは寝てるだけだよい」

そんなデミッドの後ろから声がして、デミッドは振り返る。

「やぁ、マルちゃん。君もご飯かい?」

にへらと笑ってそう聞けばマルコは顔をしかめてエースの隣に座る。

「その呼び方やめてくれねぇかい。それと、俺は飯じゃねぇな。お前に用がある」

気だるげな目でマルコはデミッドを射抜く。

「お前、ここがどこだか分かってるよな」

そう問われた真意をはぐらかすかのようにデミッドはへらりと笑う。

「んー…、遭難者を拾ってご飯を出してくれる優しい海賊船」

「とぼけるなよい。うちは白ひげ海賊団だい。それをお前は知っている。俺のことを知ってるんだからよい」

マルコは頬杖をつき、隙だらけのようでありながらも目だけは鋭くデミッドを観察する。
そんなマルコを見てデミッドはため息をつく。

「まぁ、ね。でもここに来たのは偶然だよ。火拳くんが拾ってくれなきゃ、僕は確実に大海原のど真ん中で干からびてたよ」

首を竦めておどけてみせるデミッドだが、マルコはそれでも鋭い視線を和らげることはない。

「それで、偶然うちの船に来たのは良いとして。ここが白ひげだと分かっててその余裕かい。お前一体何者だい?」


マルコの言葉にその場の空気がぴん、と張り詰める。


「あのさ…」


デミッドがマルコから視線を外して窓の外を見ながらおもむろに口を開く。

マルコは言葉の続きに耳をすませる。



「…あのナースさん達のヒョウ柄タイツってマルちゃんの趣味?」

「ぶっ!な、何でそうなるんだよい!」


突然の話題に思わず噴いたマルコは机を叩く。


「違うの?あれ、色気たまんないよね。男達ばっかの海賊船であれはヤバくない?よく我慢できるね」

「そりゃ、ナース達を怒らすとそこらの海賊よりよっぽど恐ろしいからな。それに親父のナースに手を出すような馬鹿息子はこの船にはいないよい」


話題を戻す気のないデミッドに呆れたようにマルコが答える。


「ふーん。あれは白ひげさんの趣味か。…それでマルちゃんが僕のことを何者なのか確かめようとしていたってことは白ひげさんに僕を連れて来るようにとでも言われたのかな?」

相変わらずマルコを見ないまま言ったデミッドを一瞬呆けたように見たあと、マルコは眉間のしわを深くする。


(全く、掴めねぇ奴だよい。飄々としながらもこっちの意図は確実に読んできやがる。…厄介な奴だねい)


「言っとくけど考えを読んだとかそんなんじゃないよ。僕だったら船長さんに得体の知れない人を会わせたくないからね」


にこにこと笑うデミッドにマルコは舌打ちをする。

「よく言うよい。そういうのを考えを読むって言うんだよい」

「うん?うーん。そうか。そうかもね。でもどうせどんなに僕が敵意はないって主張しても信じてくれないでしょ?」


「……さぁねい」

「でしょ?それなのに僕が何者かなんて聞いたら一層信じてくれなくなるに決まってるよねぇ。だから聞かないほうが良いよ。お互いのために」

自分の返答などお構いなしに話を続けるデミッドにマルコはげんなりとする。

会話のキャッチボールが出来ない奴ほど疲れる奴はいない。

特にこうやって変化球やら消える魔球やらを投げてくる輩は余計に。
マルコは諦めたようにはぁっと息をつく。


「…少しでも不審な動きをすれば海に放り投げるからな。くれぐれも変なことは考えないことだねい。ついてこいよい」

そう言って立ち上がったマルコを追うようにデミッドも立ち上がるが、ふと突っ伏したままのエースを指差す。

「彼、このままでいいの?」

そう尋ねるがマルコからの返答は素っ気ないものだった。

「放っとけよい。この馬鹿ならそのうち目を覚ますさ」


どうやらこの一発睡眠芸は彼の持ちネタのようだ。





―牽制球は飛ばしすぎるな。―



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