言葉にするにはもろすぎて。


木の枝で作られた素朴な手作りの十字架が海を望む岬の先にたてられていた。


それを作った張本人であるデミッドは疲れたようにどさっとその場に仰向けで寝転がった。


「綺麗な星空だぁ〜」

デミッドは夜空に向かって手を伸ばした。

「久しぶりに命を奪ったよ。・・・ドレーク、君なら何て言うかな」

僕の正義を最初に認めてくれた君は今一体どこで何をしてるんだい?

ぽつりと呟いたその言葉にデミッドは自分で苦笑する。


「あ〜ぁ。独り言とかそうとうきてるなぁ、僕」




「いや、俺がいるから独り言にはなんねェんじゃねェか?」



突然降ってきた声にデミッドは寝転がったまま顔だけを声の方へ向ける。


「あっれぇ?赤髪君。いつからいたの?」

おっどろいたな〜、とへらりと笑うデミッドに、後ろの木に寄り掛かってデミッドを見ていたシャンクスは苦笑する。


「全く驚いてるようには見えないんだがな」


その言葉にデミッドはけらけら声を出して笑った。


「やだなー、物凄く驚いてるよぅ。あんな独り言聞かれてたなんてめさくさ恥ずかしいじゃないの」


「はは、悪かったな。まぁ、なぁに。気にするこたねェよ」


今来たばかりだからなぁ、とぽりぽり頭を掻くシャンクスにデミッドは、あ、そなの?とへらりと笑ったのだった。


それきり口を開かないデミッドの隣にシャンクスは歩み寄ってどさりと腰を下ろした。



「・・・これはあいつらのための墓標か?」

静かに聞くシャンクスにデミッドは起き上がりながら軽く頷いた。

「死体すらないからね。せめて海の見えるこの場所に彼らの居場所を作ってあげたかったんだ」

けど、海は真っ暗だねぇ。と呟くデミッドにシャンクスは笑う。

「日が昇ればここからは綺麗な海が見える」

シャンクスの言葉にデミッドはゆるりと笑って頷く。


そのまましばらく二人は静かに暗い海を眺めたのだった。





「・・・なんであの後なんにもいわずに出て行った?」

静寂を破ったシャンクスの言葉にデミッドは軽く声を出して笑った。

「だって僕、中将だってばれちゃったし。その上あんな能力持ってちゃ、海賊である君達が落ち着いて飲み食いすること出来なくなっちゃうじゃない?」

腕を頭の後ろで組んで再びどさりと仰向けに寝転がったデミッドは自嘲気味に答えた。


「うちのクルーを甘く見てもらっちゃ困るな。あいつらはそんなことで気に入った奴を嫌うように複雑にはできてねェんだ。単純な奴らばっかだからな。残念だが、あいつらはお前のこと待ってるぜ」

にやっと笑って言ったシャンクスの顔をデミッドは驚いたように見つめた。

「待ってる…?あははっ。君たちは僕のこと怖くないのかい?」

「ああ。怖くねェな。お前良い奴だからな」

今度は二カッと笑って言われたその言葉にデミッドは今度こそ呆気にとられたように眼を見開いた。

シャンクスの笑顔がデミッドにはとても眩しく映ったのだった。





「…僕はさ、臆病だから、海軍を抜けても“殺さない”正義を完全に置いてくることはできなかったんだ。
今までの僕を否定してしまうようで怖かった。…だから、あの能力を使った。あれなら自分の手を汚さずに済むし、死体を見て後悔することもない」

言ってデミッドは乾いた笑いをもらす。

「あいつの言ったとおりだねぇ。とんだ腰抜けだろう?殺したって事実は変わらないのにね」

「…後悔してんのか?」

「…どうだろうね。殺し自体は海兵になったばかりの頃から結構やってたしね。“殺さない”正義を掲げてからも階位が低かったころは上官の命令で自分の正義に背いて、この刀を使って何人もの海賊を殺したよ」

デミッドは腰の刀にそっと触れて続ける。


「だから僕は命令されない立場になろうと当時は死に物狂いで頑張ってたんだ。悪魔の実を食べるのにも躊躇しなかった。

でもさ、ようやく中将になって過去を振り返ってみたら結局手柄を上げるためにたくさんの命を奪ってきたことに気づいた。

なんだか自分の正義が分からなくなって…それでも、正義を背負った殺しが許せないって考えを変えることはできなくて。
とりあえず中将になったからには、これからは相手が誰であろうと正義を背負った殺しはしないと決めたんだ」

ぽつぽつと呟くように話すデミッドにシャンクスはそうか、と頷いた。

「むやみやたらと命を奪うのは俺達も許せない。だが、今回は違ったんだろ?海軍を抜けてでもケリをつけなきゃならなかった相手なら、もう自分を責めるな」


暖かみのあるシャンクスの言葉にデミッドは苦笑する。

「海賊がむやみやたらに命を奪うことを許せないって・・・。君達ってほんと海賊とは思えないなぁ」

「なァに。あいつらは楽しければなんだっていいんだよ。今回だって、お前を連れ戻して来いって俺を酒場から追い出しやがった」

拗ねたようにため息をつくシャンクスの言葉にデミッドは思わず吹き出した。

「君はとても赤髪海賊団の大頭とは思えないね」

くしゃりと笑ったデミッドを見て、シャンクスはぽんぽん、とデミッドの頭を撫でた。


「ようやくきちんと笑ったな」


言われた言葉にデミッドはピシリ、と固まる。

「…なんで…?」

今までだって笑ってたでしょ。
なんで分かるの。



言葉が出ないデミッドに、シャンクスはだっはっは、と大きく笑う。

「まだまだお前は若いんだから、もっと心の底から笑ってみろ。もっと自由に楽しく生きてみろ。
いっそのこと海賊になっちまえ。毎日楽しいぞぉ。お前ならうちも大歓迎だ」


後半の言葉はスルーすることにしたが、シャンクスの言葉にデミッドは思わず涙腺が緩むのを感じた。


なんでだか自分でもよく分からない。

ぽろぽろと頬を伝う熱が止まらない。


ただ、シャンクスの言葉が、雪が積もるように柔らかく心に染みていったのだった。




ー言葉にするにはもろすぎて。ー



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