笑うことしか出来なかった。



「“エア・シールド”」


まさに今始まったばかりの乱闘のさなかにデミッドの言葉が響いた。



ガキィン…!


赤髪海賊団と相手が交えた刃が空中で何かに弾かれる。

他の場所で闘いを始めていた者達のところでも同じようなことが起こり、赤髪側も相手側も不思議な現象に首を捻る。


「いやー、せっかくの戦闘なのに水差してごめんね。赤髪君。この子達ちょっと借りていい?」


デミッドはへらっと笑いながら、椅子に腰掛けたままだったシャンクスに尋ねる。

シャンクスは少し驚いたように、いつの間にか見えない壁に押されるように一ヶ所に集められた相手の海賊とデミッドを見比べる。


「俺は構わねェが…これはお前が?」

「そ。僕能力者なんです〜。…では有り難くお借りしまぁす」

デミッドはそう言うと、見えない壁から抜け出そうと躍起になっている相手に歩み寄る。

反対に赤髪海賊団は様子を見るように後ろへ下がる。


「くそっ!なんだこれは!」

苛々したように怒鳴る男たちにデミッドはゆるく笑いかける。

「それ、空気中の分子を集めて作られた壁だから残念だけど僕が解かない限り抜け出せないよー」

骨折り損のくたびれ儲けって奴だね。と言ってけらけら笑うデミッドに、相手の頭っぽい男が目を見開いて指を指す。

「お、お前…あの時の…」

唇を震わせる男にデミッドはにへらっと笑ってみせる。

「どうやら僕のこと覚えてくれてたみたいだねー。いやー、それなら話が早い。君達“土蜘蛛”海賊団だよね。肝心の“土蜘蛛”君はどこにいるんだい?」

デミッドの問いにその男はすぐに答えるはずがなく、黙り込んでしまった。

「あれ?言えない?言わないとどうなるか知らないよー」

デミッドが脅しをかけるようにそう言うと、相手の男は開き直ったようににやりと笑った。


「ははっ。知ってるぜェ。お前、“不殺”の中将だろう。海賊すら殺せねェとんだ腰抜けの中将だってェ話だ。どうせ殺せねェくせにハッタリかけやがって。そんな脅しで大頭の居場所をそうやすやすと教えるわけねェだろうが。バカめ」


馬鹿にしたように笑った男達にデミッドはため息をこぼす。

「範囲指定。“バキュームテリトリー”レベル1」

デミッドが海賊達を囲むようにくるりと指で円を描いて指を鳴らした途端、男達が突然苦しそうに喘ぎ始めた。


「な、何しやがったてめえ…」

言葉を紡ぐのも必死な状態で男がデミッドを睨むが、デミッドは笑ってその視線を流す。

「君達の周りの酸素をちょっと抜いただけ。
それから、良いこと教えてあげようか。僕はね、人を殺せないんじゃない。正義を背負った殺しを認めていないだけなの。
ところがね、僕今海軍長期休暇中なんだぁ」

分かるかな?とデミッドは男に、へらっと笑いかける。

「できればあまり殺しはしたくないけど、それは君達次第なんだよねェ」

デミッドの言葉に、もう既に息も絶え絶えな男は目を見開く。

「ま、待ってくれ!教えるも何も俺たちは大頭の居場所を知らねェんだ…!」

本当だ、信じてくれ!と訴えかける男の言葉にデミッドは首を傾げる。

「どーゆうこと?」

「は、話すからこの変な能力を解いてくれ!息ができねェ…」

必死な男の言葉に、デミッドはやれやれと肩をすくめながらも指を鳴らした。

途端、呼吸が楽になったのか男達はがっくりと膝をついて、肩で大きく息を吸った。


そんな男にデミッドが促すように視線を向けると、デミッドが本気なのを悟ったのか、男は素直に話しだした。


「…“土蜘蛛”海賊団には傘下の海賊団が10あって、俺達はそのうちの1つなんだ。
今回、大頭がでかい戦争起こすってんで集まったんだが、結局お前に捕まりその話はうやむやになっちまった。
集まる必要がなくなっちまったんで、逃げ出した島で一暴れした後はそれぞればらばらになって自分の航路に戻っていっちまった。
だから大頭はここにはいねェし、居場所も分からねェ」


男の言葉にデミッドは大きなため息をついて座り込んでしまった。

「め、めんどくさぁ…。ってことは、この広い海であと10個“土蜘蛛”マークの海賊団見つけて始末しなきゃいけないのかぁ…」


“始末”というデミッドの言葉に、男は焦りを浮かべてデミッドを見る。

「ち、ちょっと待ってくれ!俺はちゃんと話したぞ!見逃してくれるんじゃ…」

「君達にとっては残念だけど、僕はケジメをつけないとね。そのためにわざわざ正義を脱いできたんだから。それに、君達には完全抹殺命令も出てるんだ。どうせ誰かに殺されるなら、せめて僕の手で決着つけるよ」

ごめんね。

そう言ったデミッドは再びくるりと指で円を描く。


「“バキュームテリトリー”…レベル5」


言った瞬間、円で囲われた空間がぐにゃりと歪んだ。

一瞬その空間は誰にも認識出来なくなり、次に認識できたときにはその場所には何も無くなっていた。

恐れおののいていた男達も、彼らの傍にあった壊れた机も、円に囲われた中の物は欠片を残すことなく消え失せていた。



「…何をしたんだ?」

あまりのことに誰も音を立てない、そんな中椅子に腰掛けて様子を見ていたベンの言葉が静寂を破った。

デミッドは座り込んだまま、振り返らずに淡々と言葉を返す。

「今ね、僕が指定した空間を真空にしたんだぁ」

その言葉にベンは眉をひそめる。

「真空ってのは実際には作り出せないと聞いていたが」

その言葉にデミッドはゆるりと首を振る。

「僕はエアエアの実の能力者だからね。不可能じゃあない。でも難しいからね。この技にはレベルが5段階あって、最高のレベル5で一瞬完全な真空状態にすることができる。

…完全な真空って何か知ってる?」


誰も答えない中、デミッドは少し笑う。

「真空って物が存在しないんだ。一瞬でもそこに存在する物は存在することを拒否される。要するに消えちゃうんだ。死体すら残らない、一番後始末が簡単で…



…一番残酷な殺し方」





《△月◎日
天気:くもりのち雨
気分:疲れたぁ


今日、四皇の赤髪君と出逢った。

赤髪海賊団の宴にも何故かつきあわされたけど、楽しかったなぁ。
海賊は愉快で自由なんだって。

海軍では海賊は絶対的に悪だったから、正直海賊をそんな風に見たことなかったけど、赤髪君達を見てたら何か羨ましかったわぁ。

あれ?これって海軍に居る人間としては言っちゃイケないことだったかな?
ま、いっか。どうせ休暇中だし。


あ、それから“土蜘蛛”の傘下の海賊団を1つ潰したよ。
久しぶりの殺しだった。

また、背負うものが増えたよ。
まだ増えるんだろうなぁ。


給料貯まったらマッサージチェア買おっかなぁ。


byデミッド》




―笑うことしか出来なかった。―


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