嗤うピエロに僕は手を振る。



「クーザーンー」

「………」

「クザンのばーか」

「………」

「クザンのナンパ野郎。クザンのもじゃもじゃ頭。クザンの冷え症。クザンの長足。クザンのサボり魔。クザンの…」


「サボり魔はあんたも同じでしょうに」

ようやくアイマスクを額に押し上げてクザンがだるそうにデミッドを見る。

「おれは今日はあんたと一緒に遊びに行く気分じゃないんで。寝かせてくれ」

再び下ろされたアイマスクをデミッドはガシッと掴む。

「なに」

不機嫌そうにデミッドを見るクザンに、デミッドはへらっと笑う。

「僕さぁ、サカズキさんからある海賊団の完全抹殺命令出されちゃった」

デミッドの言葉にクザンは倒していた体を起こしてデミッドを見る。

「それは…まぁ、あれだ。うん。…良い機会なんじゃないの?」

クザンの言葉にデミッドは苦笑する。

「やっぱりクザンも僕の正義は甘いと思う?」

少し震えるデミッドの言葉にクザンは溜息をついて、デミッドの頭をぽんぽんと叩いた。

「あんたがその正義を掲げるようになった理由を俺は知ってるし、そう思う気持ちも分かる。…だが、あれから8年。お前にも分かってきてたんじゃないの?誰の命を守るための海軍なのか。誰のための正義なのか」

俯くデミッドにクザンはぽりぽりと頭を掻く。

「まぁー…、あれだ。もう少し視野を広げなさいよ。誰かを生かすことで誰かの運命が変わる。世界はそうやって広がっている。もし、誰かの人生を変えてしまったなら、あんたにはその人生を見届ける義務がある。そして、その選択が間違っていた時には自分でケリをつける覚悟もだ」

デミッドに向けられているというよりも、自分自身に言い聞かせているようなクザンの言葉にデミッドは顔をあげる。

「クザンもその覚悟を背負っているのかい?」

「あー…まぁ、ほれ。人は誰しも持ってるもんだと俺ァ思うがね…。まぁ。うん。とにかくだ。今回の件はあんたが自分で答えを見つけるしかないんじゃないの?」


そう言うと、クザンはデミッドからアイマスクを奪い返すと睡眠の体勢に入ってしまった。


デミッドはそんなクザンにへらっと笑いかけると、小さくありがとう、と呟いてクザンの部屋を出て行った。





デミッドが居なくなると、クザンはアイマスクを少し上げてデミッドが出て行った扉を見つめた。

「世界は大きくて複雑だ。その中をしっかり生きることが出来ればあんたはもっと成長できるさ」

扉の外側でそれを聞いたデミッドは声に出さずに笑って、自分の執務室に戻るべく足を進めたのだった。




《△月☆日
天気:雨
気分:複雑

今日、サカズキさんから“土蜘蛛”海賊団の完全抹殺命令が出た。

僕の正義を貫くには僕は世界を知らなすぎる。

僕の選択が誰かの人生を変えるだなんて思ったこともなかった。そんな自分はやっぱりまだまだ子供だったんだな、とクザンの言葉で改めて自覚した。

だからこそ僕は世界をこの目で見たい。

やるべきことは決まった。迷いはない。


んー…そうだな。今日の日記を締めるのはやっぱりこの言葉かな。


いってきます


byデミッド》




―嗤うピエロに僕は手を振る。―



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