29日目

『あー…、降伏するなら今のうちじゃぞ。今から十数える間に降伏しなければ攻撃を開始する。いーち、にさんしごろくしちはちきゅう、じゅーう』

「「はえーよ!」」

『ぶわっはっは!!さて、心の準備は良いかね?行くぞい…“拳骨流星群”!』

ヒュッと風を切る音と信じられない光景に全員一瞬動きが止まる。

「うわ!あいつ、砲丸投げてきたぞ!」

「と、とにかく船を守って!」

私は九尾のしっぽを駆使して船に向かってくる砲丸を払い落す。

ライドやダイス、サフェリアさん達も各々の武器で砲丸を海に落とす。

しかし、なんちゅう力だ。

素手で砲丸を投げてるっていうのに、大砲より威力がある。
砲丸投げのオリンピック選手か、あのじいさん。

そんな攻防をしばらく続けた後、ぴたりと攻撃がやむ。

『ふぅむ。なかなかやるのう。…ならばこれはどうかな?』

声だけでも、相手がにやりと笑ったのが分かった気がした。

拡声器越しではない、ジャラッという金属が擦れ合う音がしたと思って、海軍船を見て…

「「は、はぁあああ!?」

全員で一斉に叫ぶ。

「何あれ!?何!?何で明らか船より大きい鉄球を振りまわしてんの!?」


ありえない光景。

何これ。珍百景とか言ってる場合じゃないでしょ。

どうすんの?


呆然としている間に、ぶんぶんと振りまわされていた鉄球が投げられる。


あぁ、もう、無理だって。

だって、この鉄球、船の数十倍はあるよ。

仕方がない。

「皆!しっかりと私に掴まって!」

確証はなかった。でも、サフェリアさんに九尾の情報を聞いた時に一瞬思い浮かんだことがあった。
今はこの勘に賭けるしかない。

ズゥ…ン…、と重苦し響きを立てて鉄球は船を押しつぶした。

「ぶわっはっは!新米海賊団相手にちとやりすぎたかのう?」

ぽりぽりと頭を掻く横で、二人の雑用がガタガタと震えていた。


「ヘ、ヘルメッポさん…!今の見ました?」

「あ、ああ…。とんでもない化け物だぜ…!」

誰もが名も知らぬ新米海賊団の終わりを信じたその時、船を押し潰して海に沈んだ鉄球の陰から何かが飛び出した。

「む?何じゃありゃ」

手をかざして空を見つめる海兵達だったが、近くまで翔けてきたそれに目を見張る。

「ほう。面白いのう。見たこともないでかい狐じゃ」

「「ば、化け物!」」

笑うガープの周りで海兵達は青ざめる。


「貴様ら、覚えとけ!船壊された恨みいつか晴らさせてもらうからな」

喋ったのは明らかに空に浮かぶ大狐で、海兵達は体を震わす。

「お前、さっきの海賊団の船長か?」

一人、臆することなく問いかけるガープを大狐は目を細めて見つめる。

「そうだ。子守り海賊団船長のユウナ。覚えとけ、ガープ」

「ぶわっはっはっは!!子守り海賊団か!忘れられん名前じゃのう!」


笑うガープをじろりと睨んで、しかし、それ以上何もすることなく大狐はそのまま空高く翔けて行ったのだった。

その背では小さい人影がはしゃぎまわっていたのだった。



「おい!ユウナ!なんで海賊団の名前が子守り海賊団なんだよ!かっこ悪ィな!」

「仕方がないでしょ。とっさで良い名前思いつかなかったんだから」

「だから、前に俺が言ったじゃねェか!スターライト海賊団とかブリリアント海賊団とかよ!」

「ライドのははっきり言ってセンスゼロ」

「お前も似たようなもんじゃないかよ!」

「あら。私はユウナちゃんの方が気に入ったわよ?」

「てめえに聞いてねェよ、変態オカマ野郎」

「わーい!船長の狐の背中の上、ふわっふわで気持ちいいー!」

「あっ!こら馬鹿、てめえらはしゃぎすぎて落ちんじゃねぇぞ!…うわ!ニィナは高いところがダメなんだった!気絶してる!しっかりしろ!」

騒がしい背中の声を聞きながら、私はこっそり笑う。

「…やっぱり、子守り海賊団じゃん」



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