23日目

幸い今までの武術の経験のお陰で、相手の呼吸、わずかな動きから次の行動を予測はできるものの、これは組手ではない。予想を超えた動きがユウナの動きをあせらせる。

せっかく9本ある尻尾だってまともに動かせてるのは2,3本だ。

それでも。

私は負けるわけにはいかない。
ニィナを、あの子たちを私の夢に付き合わせるのなら。
私は負けてはいけない。

覚悟とともに歯を食いしばった時、チリッと胸の奥に焦げるような、それでいて冷たいような不思議な感覚が走った。

その感覚が流れるように尻尾へと移る。
そして次の瞬間、ぼわりと音を立てて尻尾が青い炎に包まれた。

「!!」

サフェリアさんの目が驚いて見開かれるのを見ながら、ユウナは冷静だった。
この炎は私の力だ。
自然とそれが分かった。
自らを熱く焦がすのではなく、むしろひんやりと冷たささえ感じるその青い炎はユウナの感覚を余計に研ぎ澄ませてくれる。

手のひらをかざせば、そこにも灯る焔。

本や昔話で聞いたことのある、キツネが灯す炎。

「狐火…」

ぽつりと声に出せば呼応するように炎は一際大きくなったあと、弧を描いてサフェリアさんへと放たれた。

「…!!」

様子を伺うように距離を取っていたサフェリアさんが炎を避けようとするが、突然のことに反応が遅れたのだろう。服の裾に炎が触れた。
そしてみるみるうちにサフェリアさんの足を包む。

「くっ…!!冷、たい…!?」

歪められた顔に焦りのためか汗が流れる。
咄嗟にサフェリアさんは上着を脱いで燃えている足にかぶせた。

「くそ、消えない…!」

青い炎は普通の炎のように身を焼くことはしないらしいし、消えもしない。
しかし、確実にサフェリアさんの体から熱を奪っているようだった。
顔を歪めながらサフェリアさんは私を見上げて口角を上げた。

「流石ね…、獣系の幻獣種モデル"九尾の狐"ってとこかしら。私の負けね」

言葉とは裏腹に、その表情はとても優しくて、穏やかだった。
その表情に目を奪われた次の瞬間、サフェリアさんは自ら海に飛び込んだ。

「…!待って!」

やはり、深く考える前に体が動いていた。
暗い海へと沈んで行くサフェリアさんを追ってユウナは再び冷たい水の中へと飛び込んだ。
そして再び感じる違和感。
なぜか力が抜けて行く。

それでも伸ばした手が、サフェリアさんになんとか届いて…あぁ、どうしよう、流石に浮かび上がることができないや。
そんな私に添えられる小さな手。
横を見ると、必死な顔をしたニーチェがいて、また助けに来てくれたんだ、とぼんやり思った。

しかし、流石にニーチェの力ではいくら水中とはいえ大人2人を水面まで引き上げるのは難しいようだ。

(ニーチェ、無理しないで…!)

そう伝えようとして、ごぼっと空気が肺から抜けて行くのを感じた。

まずい…!せめてニーチェとサフェリアさんを…!

そう思ったときだった。

ドボン、と頭上から重い物が落ちるような音がした。
海水でしみる目をなんとか開けた、その視界に移ったのは水の中で揺れる黒い髪。

(ライド…)

ああ、これほど彼が頼もしく思えたのは初めてだ。
怒ったような顔でこちらへ泳いで来るライドにへにゃ、と笑って私は意識を失ったのだった。

[ 23/29 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -