18日目

そうか。

そうだね。ライドの言うとおりだ。
この子、猪突猛進なおばかの子だと思ってたら、不意をつくように鋭いことを言ってくれる。

「ありがとう、ライド」

小さく呟いて、私は私を見つめる小さな顔を順に見つめて行く。

大柄で無口なユグ。

人参嫌いなアリトン。

お調子者のスミス。

人見知りなニィナ。

しっかり者のリック。

お馬鹿なライド。



「みんな、もう一度、私に自己紹介させてもらえる?」

聞けば、子供とは思えない真剣な眼差しで返してくれるこの子達を、まだ会って間もないのに私は愛しいと思った。

「改めて、みんなの船長をやらさせてもらうユウナです。実は、ここじゃないどっかから迷い込んできました。だから、私はこの世界に家族も知り合いもいない。でも…」

ぐるりと見回してくすりと笑う。

「私はみんなのことを私の妹弟だと思って力の限り、一緒に海を越えて行きたい。そして、あんたたちみたいに誰にも助けを求められない子達に教えに行きたい。私達が、いると。助けを求めれば、答える存在がいるんだって、それを知らない子に教えに行きたい。
…こんな、私の馬鹿げた夢に、付き合ってくれますか」


しん、と静まり返る甲板。
そんな中、ニィナが私を見上げて口を開く。

「せんちょうは…私をたすけてくれた。まもって、くれた」

続いてアリトンも口を開く。

「うまい飯も作ってくれた。オレ、あんなうまいもん、生まれて初めて食った」

たいした料理ではない、普通の家庭料理だったが、みんなは涙を浮かべて食べていたのを思い出した。

「船長がいなければ、海にも出れなかった」

ユグも微笑みながら言う。

「たった数日しか過ごしてねェのに、ユウナはもうこんなにたくさん俺たちにいろんなもんくれたんだ」

ライドがにっと口の端をあげて笑う。他のみんなもただただまっすぐに私を見ていた。
最初の頃の怯えた瞳なんかどこにもなくて。


「ユウナが、船長だ。船長が向かうところが、俺たちの向かうところだ」

「船長の夢が、オレらの夢だ」

「せんちょうの想いが、わたしたちの想い」

「だから、船長は先頭に立ってただついてこいって言ってくれればいいんだ。俺たちは何があろうと船長についていく」

暗い夜に満天の星。
まるで厳かな儀式のように彼らは私に、そう誓ってくれたのだった。





「さて、諸君」

昨夜の宴の余韻が残る朝。
気持ちのいい風が船の帆をいっぱいに膨らませる。

「今現在、私たちに足りないものが何かわかる子はいるかな?」

人差し指を立てて聞けば、それぞれ首を傾げるちびっこたち。

「んー、うさぎさん」

「そうね、ニィナ。ニィナがうさぎさん好きなのは知ってるけど、航海にうさぎさんは必要ないかな」

「じゃあ、きょだいへいきだ!どっかーんっててきをやっつける!」

「いいねぇ、スミスくん。ぜひ将来君が発明してくれ」

「船長の色気」

「…ライド君は寒中水泳をご所望みたいね」

「うわ、ちょ、ユウナ、まっ…!」

しっぽで思いっきり投げ飛ばせば、見事な弧を描いて飛んでいくライド君。

「…今のはライドが悪い」

大きな水しぶきとともに海に沈んだライドを、ユグが遠い目で見つめていたのだった。


「さて、気を取り直して」

海からすぐに這い上がってきたライドを輪に加えて、もう一度仕切り直し。

「今現在、この船には船長の私。航海士のニィナ。操舵手のユグ。戦闘員のライド。船大工のスミスとアリトンがいるわけだけど。今ご飯をつくってるのはだーれだ」

「せんちょう!」

「その通りだ、アリトンくん。船長はね、正直言うとご飯作るのがね、もうめんどくさいんだ」

ぶっちゃければ、ショックを受けたように固まるちびっこ達に少し申し訳ない気持ちになりながらも続ける。

「みんなのご飯をつくるってことはね、食材を確保して、栄養バランスとメニューを考えて、そのための仕込みをして…とりあえず兼業できるもんじゃないんだ。そして世界には私なんかよりもっと上手い飯をつくる奴らがいる」

私の作れる料理のレパートリーは多くない。
加えて、ここでは確保せきる食材が限られているし、おまけに私が見たことのない食材だらけときた。
正直料理の味にまで、私では気を配ることができない。

「あんた達にはもっと美味しいご飯を食べさせてあげたい。だから、決めた。次の島からコックを探そう!」

そう言えば、一転して目を輝かせた子供たちは一斉に歓声をあげたのだった。



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