13日目

「私はいったいどこへ向かっているんだ…」

突然異世界にきたと思ったら、いつの間にか海賊船長か…
ぽつりと呟いた声が波の音にかき消される。


すでに私たちは船に乗って出航していた。

船長が見つかったら出航とは聞いていたが、本当にその日にそのまま出発するとは。




「ユウナー!」

甲板からぼんやりと小さくなる島を見ていた私に誰かが声をかける。

「んぁ?」

不意のことに間抜けな声をあげて後ろを振り向けば、少し長い黒髪を潮風になびかせるライドがいた。



ほぉ。

流れる黒髪を梳きあげるライドのことが少しかっこよく見えて思わずため息をつくと、ライドが眉間にしわを寄せる。

「なんだよ。人の顔見るなりため息ついて」

「いやいや、これは残念なため息じゃないから気にしないでねー。で、何の用?」

ライドの言葉を軽く流して聞くと、ライドはそうそう、と思い出したように頷く。


「今から向かう島だけど、ここら辺の島ってどこも治安が悪いんだ。前も言ったけど東の海の端までは海軍の目もあまり届かないからなぁ」

「ほう。それで?」

「だから、海賊とか賞金首も多くたむろしてるんだよ。どうする?」

「どうするって…。何が」

聞いてくる質問の意味がよくわからずに聞き返せば、ほら、と何か紙束を差しだされる。

何かしらん、と軽い気持ちで受け取ると、目に入ったのはいつか見た気がする凶悪な顔写真のオンパレード。

「…。これをどうしろと…?」

いや、分かってた。何となくね。
だってライドの目が物凄くきらきら輝いてんだもんよ。

「だーかーら、こいつら、これから行く予定の島々にいるらしいんだよ。どいつからぶっ潰していく?」

ほぅら、やっぱり。
そういうことだった。

要するにライドはそこらへんの有名な奴を全部倒して名を上げるつもりなのだ。

まぁ、名前を広める一番手っ取り早い方法といえば確かにそうだ。

だけど…

「あのさぁ、非常に言いにくいんだけど、私って戦えんのかな…」

非常に今更だが。
そして、できれば戦いたくない。確かに剣道や合気道はやってきたが、実際の戦闘とは程遠い。
きっと逃げることならこの凶悪犯たちからもできると思うんだが…

「何言ってんだよ。あの島でお前、妙な力使って賞金首を一撃で倒してたじゃんか。なあ、あれどうやったんだ?」

興味津々に聞いてくるライドの言葉に、今まで忘れ去っていたあの夜の出来事を思い出す。

「ああ!しっぽ!ねえ、ライド、私今しっぽ生えてる?」

なんであんな大変なことを忘れてたんだ!
気を失う前に私が見たのは、確かに立派すぎるたくさんのしっぽ。

「なに言ってんだお前。しっぽ生えてるかどうかくらい自分でわかんないのか?」

呆れた声で言われて、私は思わずライドの頭をぱしんとはたく。

「ほんとあんたむかつくわぁー。私だって何が何だか分かんないけど、あのとき、確かにしっぽ生えてたんだって。あんたも見たでしょ?」

「んー?しっぽ、なのか、あれ…?なんか金色っぽいもふもふしたものは、確かに…。え!ユウナって人間じゃなかったのか!?」

ええー!と目を飛びださせて驚くライドに、私は頭が痛くなったのだった。


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