11日目
一人で洞窟に戻って私は宙を見つめる。
一体全体自分の見に何が起きたのか全く把握ができない。
ここは、私のいた世界ではなくて、海賊がいて、奴隷がいて、そして目の前には親のいない子達がいる。
話を聞いた限りだと、ここはとんでもなく危険なところだ。
ああ、きっとお母さんも心配してる。
早く帰らないと。
…どうやって?
困ったことにこれ以上私の思考は先へ進めない。
「なんだってんだよ、いったい」
何度目か分からない呟きを漏らした時だった。
再び服の端を引っ張るのを感じて目をやれば、やっぱりさっきと同じようにおどおどと私を見つめる女の子がいた。
「えーっと、ニィナちゃん、だっけ?」
泣かせないようできるだけそうっと聞いたら、その子はこくりと頷いた。
「ニィナ、でいい」
ぽそっと言われた言葉に私は目を丸くする。
会話が成立しましたよ、お母さん。
思わず心の中でお母さんに報告してから私はぎこちなくニィナに微笑む。
「えっと…なにか、用?」
聞けば、まんまるのお目々でニィナは私をじぃっと見つめる。
私はロリコンじゃないはずだが、大きな目と薄い色素の髪と肌をしたニィナはとても可愛らしくて、こりゃ将来が楽しみだなぁ、なんて少し逸れたことを考えていたりした。
「あ、あのね」
だから、ニィナが振り絞った言葉に咄嗟に反応できなかった。
「ライドを、助けてくれて、あ、りがと、ございます」
「…」
勢いよく下げられた頭。
反応できない私。
「わたし、まえにいたところから、ライドにたすけてもらったの。すごく、たいせつな、かぞく。そのライドを、たすけてくれた。わたしじゃ、まもれなかった。だから、ありがとございます」
あまり流暢ではないが、自分の気持ちを言い切ったニィナが恐る恐る目に涙をためて私を見上げる。
そこでようやく、私は言われたことを理解して、思わずニィナに尋ねる。
「えっと、ニィナって…何歳?」
「ろ、ろくさい」
何故今年を聞かれたのか分からず戸惑いながらも素直に答えてくれたニィナの言葉に私は胸が詰まるのを感じた。
六歳で、大切な人を守れなかった無力感を感じるものだろうか。
この子達は、どんな生き方をしてきたんだろうか。
「ニィナ…」
私は熱くなった目頭を見られないようにその頭に手を置いてぐりぐりと撫でる。
「あなた達は、まだまだ子供なの。まあ、私もそんなには変わらないんだけど、多分この中では一番年上だよね。子供はね、守られて当然なの。当然なんだよ…」
たとえ、世界が違ったとしても。
私の言葉に、今度はニィナが泣いた。
歯を食いしばって声を漏らさずに涙を流すその姿が痛ましくて。
「今まで誰もあんた達を守ってくれなかったっていうなら、私が守ってやる」
気づいた時には言葉が出ていた。
どうせ今のところ、帰り方もわかんないんだ。
帰れなければ夢も何もないんだ。
乗りかかった船ってやつだろうか。やるならとことんやってやろうじゃんか。
「ライドとみんなを、呼んできてくれる?」
私はニィナに今度は自然に笑みを浮かべながら頼んだ。
彼女は、もう私の目を見ても怖がることはなかった。
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