なな
そのまま騒ぎになっている街を一先ず後にした二人は港とは反対の、つまりキッド海賊団の船がある浜辺の近くの森まで歩みをすすめてようやく一息ついた。
キラーは立ち止まってアリアを振り返る。
街からの全力疾走は少女には厳しかったんじゃないかとアリアを見るが、アリアは息を切らした様子もなくて、先程の体術といい、やはり何かしらの訓練を行っているであろうことが見て取れた。
アリアを観察していたキラーはふと、アリアの視線がじっと未だ繋がれている手に注がれているのに気付いてはっとする。
勢いで手を取ってしまったが年頃の少女からすると不愉快なものだったのかもしれない。
キラーがぱっと手を離すとアリアはようやく顔を上げてキラーを見た。
「すまない。嫌だったか?」
アリアは一瞬何を言われたのか分からなかったが、すぐに今離された手のことを言ってるのだと気付き、ブンブンと首を横に振った。
むしろもっと繋いでいたいと思っていたが、そんなことを言えるはずもなく、思っただけでも顔が熱くなるのが分かった。
そんな顔を見られるわけにはいかないとアリアが顔を伏せると、何を思ったのかキラーがぽんっとアリアの頭に手を置いてすまなかった、と呟いたので更にわけが分からなくなる。
「気を遣わなくていい。そんなことで怒ったりしない」
確実に何かキラーは勘違いをしていると思ったが、それを訂正する前にキラーは止めていた歩みを再開させて森の奥へと進んでいってしまった。
薄暗い森の中で見失わないように、アリアはでかかっていた言葉を飲み込み、キラーの後を追った。
キラーはアリアが追い付けるようにゆっくりと歩いてくれていたので、すぐに追い付いて横に並んで歩く。
どこに行くの?と小さく聞くと、キラーは柔らかく笑った。
「心配するな。少し休むために向こうにある泉に行くだけだ」
あんなに走ったから喉が渇いただろう、と気遣ってくれるキラーの優しさが嬉しくて思わず笑みがこぼれた。
泉に着くと、アリアは思わず感嘆のため息をついた。
泉の水は綺麗に透き通り、泉を囲むようにして生えている大木の葉の隙間から零れる暖かな日の光が泉に反射してきらきらと輝いていた。色とりどりの花も水辺に咲き誇り、今が春であることを主張していた。
思わず見入っていたアリアを見てキラーは小さく笑いながら木陰に腰を下ろした。
船から降りて街へ行くときにここを見つけてから、アリアはきっとここが気に入るだろうと思っていたのだ。あの時は、アリアは人魚だから見せることは出来ないと諦めたが、まさか一緒に来れるとは思わなかった。
アリアは嬉しそうに泉に近づき水を飲むと、キラーのもとへ戻って並んで座る。
それからアリアはキラーの様子をうかがうようにちらちらと顔を見上げた。
それに気付いて、どうした?とキラーが柔らかく問うと、アリアはおずおずと口を開く。
「…聞、かないの…?」
「足のことか?」
キラーが問い返すと、アリアはこくりと頷いた。
「確かに気になるが…何かしら理由があるなら、アリアが話したいときに教えてくれれば良い」
そう言って頭を撫でるキラーの言葉はアリアの心をとても暖かくしてくれるのだった。
「今までにね、誰にも言ったことないの。でも、キラーなら話しても良いんじゃないかって思うの」
ぽつぽつと話しだしたアリアの話にキラーは黙って耳を傾ける。
「私は人魚と人間の子で、生まれたときから水中では人魚に、陸では人間になることができる。でも両親からはこのことは絶対誰にも言ってはいけないと言われた。人のいるところでは人魚の姿を決して見せてはならないと。
…人魚のハーフがまずいからじゃないの。
問題は母が虹の尾びれの一族最後の末裔で…
……かつて海軍によって保護されていたってこと」
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