ろく


キラーはそのまま酒場に戻る気にもなれず、ぶらぶらと大通りを歩いていると、前方に大きな人だかりが出来ているのが見えた。


なんの気なしに近寄ってみると、人々が口々に「海賊が…」とか「喧嘩が…」と言ってるのが聞こえた。

自分達以外にも海賊がいたのかと意外に思ったが、それならば一応情報を集めなければと人をかき分け前に進む。
その時、人混みの隙間からふと見知った栗色が太陽に輝くのが見えた。
その色にここにいるはずのない人物を思い浮かべ、はっと体に力がこもる。人魚の彼女がこんなところにいるとしたら、話に出ていた海賊が彼女を捕まえてしまったということ以外に考えられない。


助けなければ、と武器を握って急いで前に出る。

しかし、そこでキラーが見た光景は想像とはかけ離れたもので、思わず固まってしまった。



人だかりの中心で、いかにも悪そうな顔の大柄な男数人と向き合っているのは栗色の髪の毛を翻らせてすらりとした足でしっかりと地面に立つ白いワンピースの少女。

どうやら場面は険悪なムードらしく、男達は拳を震わせて少女に何やら怒鳴っている。そして、とうとう男の1人がぎらりと光るサーベルを振りかぶって少女に襲い掛かった。


その行動に、少女がアリアなのかそうじゃないのか悩んでいたキラーは我に返る。

とりあえずあいつらを片付けてから確認すればいいかと結論づけ武器を構えるが、突然動いた少女の行動にまたもやキラーはフリーズする。



少女はなんと自分から男に向かって走りだし、振り下ろされたサーベルを軽く身を屈めて避けると、その体勢のまま男の懐に飛び込み地面に手を突いて男の顎を蹴り上げた。


一連の動作は美しく洗練されたもので、吹っ飛んだ男が起き上がらないことからも凄まじい蹴りの威力を窺い知れる。



男を倒すと、少女は凛と立って、残りの男たちを見つめる。
すると、仲間がやられて逆上したのか、1人の少女に武器を持った男達が一斉に襲い掛かった。

だが少女は慌てることなく素手で1人1人確実に倒していった。

そして、遂に立っている男が1人になった。
その男は少女の強さに怯えたのか足が震えていたが、それを見た少女はもう勝負がついたというように男に背を向ける。



しかし、その瞬間男がにやりと笑った。


「死ねぇ!」


男は懐から拳銃を取出し、少女に向けて撃った。

少女はとっさに避けようとしたが、何かに気付いたようにピタッと動きを止めた。
今避ければ、後ろの人垣に当たってしまうのは必須だ。


撃たれる

少女は衝撃に耐えようと目をつぶった。




しかし、いつまでたっても痛みが来ない。恐る恐る目を開けてみると、少女の目に映ったのは視界いっぱいの金色で。

少女は見覚えのあるその暖かな金色に安心して、思わずぺたりと座り込んでしまった。



キラーは少女を襲った弾丸を人のいないところへ弾いた後、発砲した男を容赦なく切り伏せた。

男を倒して振り返ると、少女は座り込んでこっちを見ていた。真正面から顔を見ると、その少女はやっぱりアリアで、キラーはすらりと伸びた二本の足に疑問を感じながらアリアに歩み寄った。


キラーが伸ばしてくれた腕に掴まってアリアが立ち上がると、キラーが大丈夫か、と声をかけてくれた。

それにこくん、と頷いて口を開こうとしたとき、キラーがアリアの口を手で塞いで遮る。


「話は後だ。警官がきた」

言われて人混みの向こうを見やれば、騒ぎを聞き付けたのか駆けつける数人の警官達。

走れるか、というキラーの言葉に再び頷いて返すと、キラーはアリアの手を握って駆け出した。



今多分自分達は追われているのだし、のんきなことを考えている場合では無いということは分かっているのだが、自分より遥かに大きなキラーの手の暖かさや、自分の手が汗で湿ってないかだとかどうでも良いことがアリアの頭をぐるぐると回っていて、アリアはただ繋がった手だけを見つめて周りの様子も耳に入らないまま足を動かしたのだった。




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