さん


空が少しずつ明るくなってきた夜明け。

キラーは目を覚まして甲板に出た。
甲板には昨日の夜に酔い潰れたままのクルー達の姿。まだしばらくは誰も起きてこないだろう。

昨晩のまま散らかっている酒瓶を少し片付けながらキラーはふと昨日のことを思い出した。

確か、昨日自分が酒を飲んでいたのはこの辺りか、と船縁に近づいてなんとなく海を覗き込む。

何も無い水面を見て、当たり前だと思う一方で少し落胆を感じてしまったのには自分でも驚いた。

「アリア…」

月が魅せたにしてははっきりとした記憶がどこか釈然としない気持ちにさせる。思わず名前を呟いてからふっと笑い海に背を向けた。


その時、パシャッと背中に冷たい水がかかった。
驚いてもう一度海を覗き込めば、そこには栗色の長い髪を波に揺らめかせた青い眼の人魚がキラーをじっと見つめていた。




アリアは、何故かその船から離れられなかった。目的の船ではなかったのははっきりしている。だが、昨晩の男の低い声が頭から離れないのだ。
もう一度話をしてみたいと思う気持ちを抑えられず、結局夜が明けるまで船の近くで潜っていた。



「アリア…」

船を見失わないように一晩中起きていたので少しうとうとしていたアリアの耳に水を揺らして届いた低い声は確かに昨日聞いたもの。
アリアは慌てて水面に浮上すると、見えたのは長い金髪を揺らしながら遠ざかる後ろ姿。
思わずアリアはヒレで水を飛ばしてキラーにかけた。キラーはすぐに気付いてこっちを見てくれたが、何を言ったら良いのか分からなかったので、水面から少し顔を出した状態でキラーをじっと見つめた。


「アリア…か?」

最初に口を開いたのはキラーだった。アリアはこくん、と頷く。

「まだ居たんだな。帰らなくていいのか?」

アリアはまた頷く。
キラーはそうか、と言ったきり黙ってしまった。

「キラーは海賊?」

アリアは船のドクロマークを指差して問う。
キラーはあぁ、と頷いた後首を傾げる。

「…怖いか?」

アリアは少し考えた後、逆に問い掛ける。

「人魚捕まえて売る?」

いや、とキラーは首を横に振る。

「…じゃあ怖くない」

アリアが言うと、キラーはそうか、と少し笑った。



暫く何も話さずに二人は昇ってきた朝日を眺めていた。会話はなかったが、キラーと過ごすこの時間はとても心地良いものだった。


朝日が完全に昇ると、甲板で寝ていたクルー達が少しずつ起き始め、アリアはもう一度キラーにパシャッと水をかけると、海の底に戻っていった。


キラーはアリアが見えなくなっても暫くその場を動かなかった。




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