にい
アリアは灯りに近づくとそれが船であることが分かった。
恐る恐る船に近づいてそっと顔を水面から出した途端に船縁に見える人影がこっちに気付いて振り向いた。
アリアはびっくりして思わず海に顔を沈めるが、おい、という低い声に誘われて半分だけ顔を覗かせる。
その船は結構大きかったので、アリアを見下ろしている人影も遠くてよく見えなかったが、その声は何かひどく安心できるようなものの気がした。
「…誰?」
とりあえず尋ねてみると、人影は少し驚いたように身じろぎした後答えた。
「俺は…キラー」
「キラー…」
「…お前は人魚か?」
キラーもアリアとの距離が遠くてよくは見えていなかったらしい。最初は魚かと思っていたが気配が人に近かったため試しに声を掛けてみると帰ってきたのは言葉。
「人魚。…アリア」
キラーはかえってきた返事に思わず驚く。
ここはまだ偉大なる航路のはじめ辺りで魚人島は遥か先。しかも人魚は警戒心が強いから人前に現われるのは珍しい。
声からするとまだ子供のようだ。親からはぐれたのだろうか。
キラーが尋ねようとしたとき。
「キラー、そんなとこでどうした」
キッドがキラーの後ろからゆっくり歩いてきた。
すると、驚いたのかアリアはちゃぽん、と海に潜ってしまった。
キラーはちらっと海を一瞥してからキッドに視線を向ける。
「…いや、なんでもない」
するとキッドはたいして興味もなさそうにそうか、と相槌をうつ。
「何かあったのか?」
いつもなら船室に戻ったら朝まで出てくることのないキッドが甲板に現われたのを不審に思って聞けば、キッドはニヤリと笑って答えた。
「月の光にあてられた」
ああ、とキラーは月を仰ぐ。今夜は見事な満月。先程の人魚も月の光が生んだ幻だったのかもしれない。
現実感の無い人魚との出会いは夢だったのだと妙に納得してしまったキラーはしばらく月を眺めていた。
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